「俺に任せろ。最高の気分にしてやるからも愛おしい――」
あらすじ
「俺に任せろ。最高の気分にしてやるから」
老舗旅館の娘・優実は、経営難から決められた政略結婚前提のお見合いを断った。両親に失望し、一人で生きていこうと飛び出したものの――入社したのはまさかのブラック企業。現実の厳しさを痛感しようやく転職できたと思った矢先、新しい職場の上司はあの“お見合い相手”の御曹司・真一だった。そもそも優実のタイプは、ぐいぐい迫る肉食系。どう見ても草食系の彼とは、絶対に合わない……はず。けれど――。「現実のキスって、こんなに気持ちいいんだ……」チュッ、チュッと濡れた音が重なるたび、彼の低い声がひどく官能的に響く。草食系(だと思っていた)部長の本性は肉食御曹司!?
作品情報
作:ひなの琴莉
絵:北沢きょう
配信ストア様一覧
11/14(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読みプロローグ
プロローグ
「……不思議……なんです。まるで夢みたいで……」
「現実だと思わせてやる」
 後頭部に手が差し込まれ、視線を絡み合わせてくる。
 部長が顔をグッと近づけてきて、唇が重なった。
 反射的に逃げようとしたが、後頭部を押さえられているせいで動けない。
 角度を変えて濃密な口づけを受け止める。
「……んっ……んん」
 激しくて甘くて頭がぼんやりとする。
 私の唇が彼の舌先にトントンとノックされた。思わず開けると口の中に舌が滑り込む。
(ヌルヌルして気持ちいい……)
 どうしていいかわからないけれど、私も必死で舌を動かしてみる。
 すると、部長は応えるように自分の舌を絡ませてきた。
「んん……ッ」
 キスをしながら私のことをベッドに寝かせる。
 怪我をしている右腕を踏んでしまわないようにそっと避けて、彼は私の隣に横になった。
 背中に手を回し、抱きしめながら何度もキスを繰り返す。
 部長の唇がだんだんと首筋に下がっていく。ゾクゾクして身震いした。
「……ぁっ」
 吸い付かれて少しだけ痛みが走った。
 部長の手のひらが私の胸の膨らみに遠慮がちに触れた。私の様子を窺っているのかもしれない。
 それでも私は抵抗する気がなかった。
 部長とはこの先結ばれることはないだろう。けれど、初めては、本当に好きだと思えた人に捧げたかったのだ。
第一章
「これ、お願いね」
「……わかりました」
 先輩が後輩に仕事をたっぷり残して退社する。
 この会社の暗黙のルールだ。断ることなどできない。
 会社とは、そういうものなのだと納得させて、淡々と仕事をしていた。
 私はここで、五年働いてきた。
 入社してからずっと残業が続いている。
 二十三時まで働いても、仕事が終わらない。だから朝も就業時間の二時間前には出勤している。
 大変だとわかっていても上司はフォローしてくれない。
 家に帰ってきても体は疲れているはずなのに、頭が冴えてなかなか眠ることができず、食欲も落ちてしまった。
 このままではもうダメだ。このままでは本当に倒れてしまう。
 朝、目が覚めるとベッドから起き上がれなかった。
 ついに、限界を迎えたのだろう。
 話すのがあまり得意ではなく、ちっぽけで、何もない私だけど。
 それでも自分の人生を大切にしていきたい。
 そう決心して退職願を出した。
 ところが、なかなか受理してくれず、引き止められたのだ。
 普通なら『こんな私でも会社の役に立っていたんだ! ありがたい』と思うかもしれないが……
『あの子が退職したら都合よく使える人間がいなくなるわ。困っちゃう』と上司が話しているのを聞いてしまった。
 もう無理だ。
 終わった。この会社……腐ってる。
 私は退職代行会社に依頼した。そうしなければ、自分の身を本気で守ることができないと思ったからだ。
 するとすんなりと退職が認められた。
 本来であれば、転職先を見つけてから計画的に辞めるべきだったかもしれない。
 けれど、今の私にとっては、何より心と体を休めることが第一優先だった。
 退職してからの一週間は、ぼんやりとすることにした。
 私は布団の中で大好きな漫画を片手に時間を過ごす。
 これからの人生どうなってしまうか不安ではあったけれど、一度リセットする時間が必要だったのだ。
 とはいえ、こんな生活をしていたら資金が尽きてしまう。
 私は次の職場を見つけるため、履歴書を購入することから始めた。
 二十七歳にして再び就職活動をするとは、人生どうなるかわからない。
 ハローワークに通い、時間があればスマートフォンで求人情報を眺めて、いいところがあれば履歴書を記入するか、Webで応募。
「ふぅ……」
 とりあえず実家に戻ったほうがいいんじゃないのかな、という思いがふとよぎった。
 けれど、そんなのは絶対に嫌だ。
 私の実家は老舗旅館を経営している。
 中学生の頃から仕事を手伝っていて、温泉のお湯もいいし大好きな場所だった。
 でも、私が大学生の頃、親に相談もなく勝手にお見合いをさせられた。
 経営が思わしくなかったため、大手企業の御曹司と結婚させてあわよくば助けてもらおうという魂胆だったらしい。
 娘として実家を助けたいという気持ちはあったけれど、それならそれで、あらかじめ相談してほしかった。まだ恋愛もしたことがなかった私は、親に利用されたと怒り心頭だった。
 ちなみにお相手は、大手ブライダル関連会社の御曹司。
 立場も見た目も申し分ない人だったけれど、私のタイプとは違う感じがした。どちらかというと真面目で慎重派、口下手な私は、グイグイと引っ張ってくれる人がいい。
 お相手はイケメンだったけど、草食系男子っていうオーラを放っていた。
 お見合いの席では旅館を会社の傘下にしてもいいという話まで出た。あらかじめそういう話が進んでいたのだろう。親からは絶対に結婚してくれと言われたけれど、私は全力で断った。
 その一件がきっかけで両親に裏切られたと思った私は、実家にいることが耐えられなくなり、大学卒業と同時に一般企業で働くことにしたのだ。
 本当は旅館の仕事を手伝おうと思っていたけれど、父から『勝手にしろ』と言われ一人暮らしを始めた。
 若かった私が、自分の力で何とかしてみせる! と就職したそこが、最低最悪のブラック企業だった。
 ちなみに実家を出た後、母からはたまに連絡があるが、私は一度も実家の敷居を跨いでいない。
 自分の人生なのだから自分で決めたい。そう思って生きてきた。
 一人娘として実家を手伝わないというのは少なからず罪悪感はあるが、でも、決められたレールの上を歩くのはどうしても受け入れられなかった。
 ただ、こうして仕事を失い貯金を切り崩しながら生きていくのは、かなり大変だ。
 どこかから食べ物が降ってくるわけではないので、仕事をして給与をもらい生活していかなければならない。
 私は新しい仕事を得るため、履歴書を送信しまくった。
 その中のいくつかの企業は書類審査を通過し、面接まで進んだ。
 そして採用してくれたのが、大手ブライダル会社『エテリーチェ』だった。
 ブライダル関連で全国、全世界に式場やレストランを運営し、ウェディング衣装のレンタルや、撮影スタジオなど、手広く事業を展開している。
 社員数は八百名超えの大手企業だ。
 そんな会社に、運よく私は拾ってもらえた。
 配属先は広報部。
 前職でも、ホームページ作成やメルマガの作成、全店舗へのポップの発注など、広報に関わる仕事をしていた。その経験が役に立つなんて、ありがたすぎる。
(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

 
      




