「誰かと深く関わることは、とてつもなく苦しくて、辛くて、こんなにも愛おしい――」
あらすじ
「誰かと深く関わることは、とてつもなく苦しくて、辛くて、こんなにも愛おしい――」
一流企業・高原商事の本社ビル内にあるカフェで働く恵は、ある日、世界を諦めたような、儚い眼差しを持つ客と出会う。彼の正体は、御曹司・爽二。すべてが約束された人生のはずなのに、その瞳の奥にはどこか寂しさが漂っていた。抗えない好奇心に導かれ、恵は次第に彼の世界に触れていく。微笑みや手のぬくもり、視線の交わり――距離が縮まるたびに心が満ち、肌と肌が触れ合うたびに愛が沁み込む。不器用で、それでも互いを求め合う二人の、切なくも温かな恋物語。
作品情報
作:清水苺
絵:ちょめ仔
配信ストア様一覧
10/10(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読み
プロローグ 愛のカタチ
────『愛』とは、一体なんだろうか?
それは一緒に居るだけで楽しくて、毎日がスイーツのように甘美なものとなる、魅惑的なスパイスなのだろうか。
それとも、胸に抱くだけで辛く苦しい感情に苛まれる、知りたくもなかった己の本性なのだろうか。
(どうして私は、いつも爽二《そうじ》さんのことを考えてしまうの?)
出会った時からずっと、高原《たかはら》爽二という男から、不思議と目が離せない。
どれだけ彼に拒絶されても、背を向けられても、それは関わることを諦める理由にはならなかった。
それは天野恵《あまのめぐみ》の二十七年間の人生において、初めて抱いた『執着』だったことには、間違いがない。
「……なに考えてんの?」
爽二は互いの気持ちが通じ合ってもなお、恵に向ける眼差しはまるで『いつか捨てられるんじゃないか』──そんなことを考えていそうな、不安げな瞳をしている。
軋むベッドの上で何度身体を重ねても、その不安が拭い去ることはないだろう。
「……安心して? 爽二さんのことを考えてるから」
クスッと笑う恵の顔を見て、爽二は笑うのではなく、泣きそうな顔をした。
(ああ。私たちは、誰かの『一番』になるのは、初めてだもんね)
この世界は非常に残酷で、一番になる者がいる限り、一番にはなれない人間が存在する。
一番になろうと必死にもがいても、それに意味はない。
運命づけられた『二番目』から、人は逃げる術を持たないのだから。
(それでも、私は──)
恵は爽二の唇と、優しく口づけを交わす。互いに湿った唇からは吐息が漏れ、柔らかな皮膚の感触にはキスでしか得られない安堵がある。
ゆっくりと唇が離れて、爽二は名残り惜しむように口先を尖らせた。
「……恵」
「えっち、しよ?」
恵のお誘いに、爽二は静かにコクリと頷く。
爽二はその美しい顔に似合わず、恵の服を脱がせる手は非常にたどたどしい。スカートのファスナーをゆっくりと下ろして、骨董品を扱うように丁重に衣服を取り払ったのち、彼は自分の服を無造作に脱ぎ捨てた。
ベッドの上で二人は向かい合うと、爽二は人差し指を秘穴に宛がい、慎重に花筒に挿入させる。
「っ」
第二関節まで中に挿入ると、彼はクイッと関節を曲げて柔襞を弄った。彼の擦るような指の動きに、恵は薄く吐息を漏らす。
「……ん」
恵の身体の上に跨った爽二は、絶えずこちらの顔色を窺いながら、痛がらないように配慮しているようにも見える。
けれど、その配慮はもはや、必要ない。
「……もっと。欲しい」
縋るように爽二の肩に、両手を置く。
彼から大事に扱われるのは、素直に嬉しい。彼は自分の恋愛観について『重い』と言うけれど、恵自身はそうは思わなかった。
どちらかと言えば、彼は『愛』に飢えているのだろう。
誰かに必要とされたい、褒められたい、求められたい。そういう感情が絶えず溢れ出ているのは、おそらく彼が、誰からも愛されてこなかったからで……。
「お願い。頂戴?」
誰よりも、爽二を愛している。必要としている。褒めてあげたい。求めたい。
だから、彼もたまには、肉欲に溺れてほしい。
昼間と同じように、夜まで優しくある必要は──ない。
「いいの?」
爽二の問いに、恵は静かに頷く。
「お願い。もう、我慢できない」
すると、途端に爽二は顔を緊張で強張らせる。
彼は秘穴から指先を離して、雄の顔をして恵に言った。
「……それなら、挿入るよ?」
「うん」
爽二は自らの手で避妊具を装着し、屹立した雄を恵の下半身に寄せる。ぐ……っと力を込めて、蜜の溢れる柔襞の最奥、子宮の入口に到達するまで、その肉棒を押し込んでいく。
「……っ」
たった今、自分の身体の中に、彼の熱が入り込んでくるのが分かる。
目の前の彼は顔を赤らめて、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
ゆっくりと、それでも着実に、彼の雄竿が膣の中をこじ開けるように入っていく。
「あ……っ」
足のつま先に思わぬ力が入って、ビクンと痙攣する。
「ん」
奥まで入ったその雄は、彼の性格に似合わず肉々しく、身体の中で圧倒的な存在感を放っている。
それでも、彼の表情は不安げで、これでいいのかと戸惑っているようにも見えた。
高原爽二という人間はおそらく、伸び伸びと自由に生き、好きなものを『好き』と言える人生を送っていたら、もっと素直に感情を表現していただろう。
しかし、そんな人生を彼が歩んでいたのなら……恵とも接点を持つことは、まずなかったに違いない。
「動くよ?」
その言葉を合図に、爽二はゆっくりと腰を振った。彼の肉棒が花筒の中を上下することによって、甘い蜜が下半身から分泌されて滑りが良くなる。くちゅりと粘着質な音が鼓膜に響いて、恵はその快楽に身を委ねた。
「んっ。あ」
彼はまだ緊張しているのか、額の汗が頬を伝う。
それでも、恵の身体を真剣に求める爽二の真面目な表情を見て、恵は思う。
(ああ。私は、この人が好きだ)
誰よりも真面目で、誰よりも誠実で、それゆえに心の扉を閉ざした高原爽二。
誰かと深く関わることを避け、無色透明な人生を歩んできた天野恵。
互いに不器用な二人は、誰かに愛してもらう方法を知らない。
それでも──。
(どこかで聞いたことがある。自分を愛してもらうにはまず……その人のことを、精一杯愛しなさいって)
だから、これからも、たくさん爽二を愛そう。
彼が、もう不安に思うことがなくなるくらい──。
──いつか、自分自身のことを、大好きになれるくらいに。
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