「愛している、コン。――早く、私に堕ちてこい……っ」
あらすじ
「愛している、コン。――早く、私に堕ちてこい……っ」
十一年前、泉で偶然出逢った青年に“初めて”を捧げられた伯爵令嬢コーネリア。その相手は、今や公爵、“童貞宰相”と噂されるフェイエルバードだった。母を亡くし、父に代わって弟を育て、領地を守るため結婚を諦めてきた彼女のもとに届いたのは、「家庭教師になってほしい」という一通の書状。それはこの国の貴族社会において、初めてを捧げた相手に求婚するための、遠回しな告白だった。再会したフェイは、逃がさぬ声で囁く。「コンの髪の毛ひとすじ、涙の一滴まで私のものだ」“家庭教師”という名目のもと、夜ごと重ねられる秘密の時間。触れ方も、呼吸も、身体の熱も。コーネリアは思い出していく――泉で知った、忘れられない甘い快楽を。
作品情報
作:水田歩
絵:天路ゆうつづ
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2/13(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読み
一、初だしの君
「ふう」
オブライエン伯爵令嬢コーネリアは、放牧地まで羊を連れ出した。日課をこなしたので一息つく。
コンの父が治める領は羊毛の産地だ。土地が適しているらしく、羊はふくふくと育つ。
オブライエン領はシグルド王国でも指折りの僻地で、半島の先にある。放牧地で海を背にして王都の方向を眺めると、王都までには街道を挟んで二つの広大な領地が広がっている。右側は侯爵領。左側には代々宰相を輩出している公爵領がある。
侯爵家は親切にもオブライエン家の羊毛を買い取ってくれる。しかし、公爵家とは……、コンの生家は『伯爵』と名ばかりの貧乏な家柄。身分違いもいいところなので、隣地とはいえ交流はない。オブライエン家は先祖代々、領民たちにまじり汗水垂らして働いている。
「汚れてしまったわ」
羊は皆、コンに懐いてくれている。しかし今朝に限っては少々手荒い歓迎をされたので、羊の脂と泥がべっとりと前掛けについてしまっている。
「ラナ、よろしくね」
牧羊犬であるラナは賢い。彼女がしっかりと羊たちを見張ってくれているので、少しばかり休憩しても問題はない。
ラナに見送られて、コンは公爵領との境にある森に入って行った。ほどなく、目当ての泉に到着する。ここから流れでた小川が、放牧地で羊たちの喉を潤す。小川を遡って歩いて行ったら偶然見つけた、コンだけの隠れ家だ。
「……洗っちゃおうかな」
コンは呟くあいだにも、さっさと前掛けをとってしまった。続いてドレスのボタンを次々と外していく。
やがて、思い切るようにシュミーズとズロースもすべて脱ぎ去る。普段は三つ編みにまとめている髪も解いた。
生まれたままの姿で泉に足を踏み入れる。
「冷た……っ、でも気持ちいい」
羊たちを追い回していたので体は汗でベタついている。水の感覚が心地よい。
エプロンを洗って、枝に干す。コンは改めて誰もいない泉で浮かんだり、たまにぱちゃぱちゃと泳いだ。
「はあ」
仰向けにプカリと浮かぶ。空を見上げながらコンは考える。
「『シーズン』で将来の旦那さまに会えるかしら?」
『シーズン』とは、王宮で葡萄の月の初日から七日間開催される大舞踏会のことだ。結婚の意思がある貴族の子女は十八歳になると、全員参加しなければならない。いわば成人式であり社交界デビューとも見なされる、大事な行事だ。
そこで相手を見つけ、婚姻に至ることが主流とされている。
婚約者となった二人は大舞踏会でそれを公にする。そうでない者との婚儀は、国と教会のいずれからも認められない。その結果、生まれた子は非嫡出子として扱われる。
あと数日で十八歳になるコンは今年が初参加だ。
コンは長子ではあるが、シグルド王国では女性に継承権はない。弟がいる以上他家に嫁がなければならなかった。……貧しいオブライエン家は何度も娘を『シーズン』に行かせることは出来ない。コンにとって、十八歳の『シーズン』が最初で最後のチャンスだった。母が工面して、馬車とドレスを仕立ててくれた。『シーズン』に間に合うよう、明後日王都に向けて旅立つ。
「……もし、見つけられなかったらどうしよう。ううん、絶対に見つけるわ!」
『シーズン』には商人や騎士など、一代男爵も参加することができる。嫁ぐのは貴族でなくともいいし、後妻の口でも構わない。実家の負担にならない家ならば、コンはどこにでも嫁ぐつもりだ。
「ま、なるようにしかならないわね」
コンは体が冷えてきたので、岸べに戻る。
ガサ。
茂みが動く音がした。領内には危険な獣はいないはずだが、コンは警戒する。とはいえ、ラナが主人の危険に勘づいたら、走ってくるはずだ。緊張していると、目の前に妖精が現れた。
まばゆい金髪、そして宝石のような碧い瞳。肌は白く、金の下生えの中には……。羊たちの繁殖も大事な仕事だから、コンはソレを知っている。けれど人間のモノは初めて見たから、コンは妖精にも性別あるんだな、と思った程度だった。
ごくり。
なんの音? と妖精を見れば、彼《・》が嚥下した音のようだ。妖精の割にいやに生々しいなと、彼をしげしげと見つめる。
妖精は凝視していた。視線を辿るまでもない、コンを見つめている。
「……あなたは、泉の妖精……?」
掠れた声で妖精が訊ねてきた。
コンはぷっと吹き出す。どこをどうみたら、自分が妖精に見えるのだろう。侯爵家の羊毛の仲介人は、代替わりするたびにコンを羊を管理している農民と勘違いしているのに。けれど、コンは褒められたことがない。嬉しかったので、ほがらかに答えた。
「私? 光栄だけど、ただの人よ。森の妖精さん」
「僕? 僕もただの人だよ」
魅せられたように妖精、いや少年はコンのほうへ歩みを進めてきた。
遠目では子供のように見えていたが、近づいてくるにつれ、そろそろ大人の域に達しつつある体格だとわかる。
あれ? とてもまずいのでは。ようやくコンの頭に危機意識が立ちのぼってきた。貴族の令嬢が、成人前とはいえ男性の前で真っ裸である。咄嗟にドレスに目をやるが、少年が来た方向の枝にかけてあった。
「僕はフェイ。フェイエルバード。君は?」
「あ、あのぅ……、コーネリア。コンよ」
どこか逃げ道がないかと目をうろうろさせて、偽名を使う余裕もない。フェイが手を伸ばしてきたので、コーネリアは避けようとする。けれど想定内だったようで、彼に髪を優しく掴まれた。
「髪がきらきらしていて。本当に妖精みたいだよ」
フェイはコンの髪を口元まで持っていくと、キスを贈ってきた。そんなことをされたことがないコンは、真っ赤になる。
「あ、ありがとう。髪だけは自慢なのよ」
茶色ではあるが、癖がなく繻子のような艶がある。あまりに困窮したときには髪を売って生活の足しにしようと思っていた。幸いにも、なんとか売らずに済んだ結果、コンの髪は腰ほどに長い。
「そんなことない。榛《はしばみ》色の瞳も優しく輝いているし、乳白色の肌はとてもスベスベしているよ」
気がつくと、フェイがそっとコンの腕を撫でている。なぜか逃げる気にならず、コンは黙ってフェイのすることを見つめていた。
「それに、……紅く色づくここも」
フェイがコンの胸の飾りを優しく触れてきた。
「ん……」
甘い感覚が湧き起こる。
「硬くなってきたね」
両方の尖りを転がされたり、摘まれていると、脚のあわいにえも言われぬ感覚が沸き起こってくる。コンはもじもじと下半身をくねらせた。フェイの碧眼に欲望が灯る。
「コン。僕の『初だしの君』になって」
囁くと、フェイは細身に似合わぬ逞しい分身を押しつけてきた。
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