作品情報

純真秘書は極上CEOの獣欲をみだらに煽る

「そんなかわいいこと言っていると、悪い男に食われるぞ?」

あらすじ

「そんなかわいいこと言っていると、悪い男に食われるぞ?」

『父の選んだ相手と政略結婚する』定められた未来に抗い、箱入り娘の泉璃子は、つかのまの自由を求めてIT企業で秘書として働いていた。彼女をヘッドハンティングしたのは、冷静沈着で美麗なCEO・泉煌之助。同じ苗字を持ちながら、価値観も生き方も、何もかもが正反対の男。決して好きになってはいけない相手。分かっていながら、璃子の心は彼に惹かれていく。そしてある夜――彼女はついに一歩を踏み出してしまう。「男に触れられるか、試してみるか?」低く囁かれ、縋るように頷いた瞬間、腕が背中に回され、甘い声が耳元に落ちた。「……可愛い」抱きしめられ、伝わる体温と香り。恋心を抱いたとて、これ以上近づくことはできない――でも、この気持ちは抑えきれない。立場と本能の境界で揺れる璃子と、余裕の仮面の奥に“獣”を隠した煌之助。二人の恋の行方とは……。

作品情報

作:橘柚葉
絵:千影透子

配信ストア様一覧

1/16(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

「璃子《りこ》ちゃん、これ二番テーブルにね」
「はい」
 カウンター越しから商品を渡され、泉璃子《いずみりこ》は思わず頬を緩ませる。
 ――やっぱり、かわいいなぁ!
 緑色をしたソーダ水にクリーム色のアイスクリームがプカプカと浮かんでいる。
 その上には真っ赤なチェリーがちょこんと載っているのだが、それがアクセントとなっていてかわいらしい。
 クリームソーダはこのカフェでの人気商品で、カラーバリエーションがたくさんある。
 友人や恋人、はたまた家族が色違いを注文し、並べてはスマホで写真を撮る。その光景はこのカフェではおなじみだ。
 最初こそクリームソーダ目当ての客はいなかったのに、今ではクリームソーダを求めてくる客ばかりになってしまった。
「うちはパニーニが売りだったんだけどなぁ」とカフェのオーナーである棚橋紫苑《たなはししおん》はそんなことを言って苦く笑っている。
 しかし、店としては売上優先。客が来てくれるのならば、御の字だと思っているようだ。
 オリーブブラウン系にカラーリングした璃子の長い髪は、仕事の邪魔にならないよう一つに括っている。
 緩くウェーブがかかった毛先が軽やかに揺れるのがチャームポイントだ。
 百六十センチでスラリとした体型をしているのだが、どうしてか胸だけが結構大きめである。
 そのため男性の視線が胸に集中しているように感じることが多く、それが大変不満だ。
 見られるだけなら、まだ許そう。そんな広い心は持っているつもりだ。
 しかし、酔っ払い相手ともなるとそうはいかない。直接胸のことを言われたりもするので苛立つことも多々ある。
 何とか回避したいものだが、こればかりは自分だけの力ではどうにもならなくていつも嫌な思いをしているのだ。
 璃子の見た目は、ふんわりとしていて優しげな雰囲気だとよく言われる。
 そのため何を言っても怒られないと勘違いするのだろう。容赦なく胸のことを言って揶揄ってくる男性が一定数はいる。
 しかし、璃子は見た目と中身のギャップが激しい。泣き寝入りすると思ったら大間違いだ。
 男性にそんなことを言われれば、二倍三倍にして口論で打ち負かす。
 大体の人は悪態をつきながらも尻尾を巻いて逃げ出すのだが、そんなふうに逃げるぐらいならば最初から余計なことは言わなければいいのにと思ってしまう。
 そんなコンプレックスを抱いている璃子だが、このカフェではそんな客と一度も遭遇することなく気持ちよく働けている。ありがたい限りだ。
「お待たせいたしました、グリーンクリームソーダです」
 ソーダをテーブルに置くと、女性が目を輝かせた。
 そんな彼女を優しげな眼差しで見つめる男性。きっと女性の彼氏なのだろう。愛おしいといった感情がダダ漏れだ。
 そのカップルはクリームソーダにストローを差し、二人で飲みながら自撮りをし始めた。
 とってもほほ笑ましい光景ではあるのだが、璃子としては気が気ではない。
 ――早くしないと、アイスが溶けますよ。
 心の中でカップルに忠告をしつつ、そのテーブルから離れた。
 ふと、店内を振り返って思わず口角が上がる。
 カフェ全体が幸せオーラいっぱいだ。そのことに嬉しさを感じて、璃子の気分も上々である。
「明日のお華のお稽古、楽しみだな……」
 幸せついでに明日のことを思い出しながら小さく呟いたあと、ダスターを手に客が帰った席のバッシングをし始めた。
 璃子の家である泉家は、先祖代々から続く華道、雪草《せっそう》流の本家だ。
 父は雪草流家元として世界各国を飛び回り、華道の繁栄に全身全霊を掛けている。
 泉家を、そしてお流を潰すことは許されない。父はそんな強い覚悟の上、人生を全うしている。
 そんな泉家では、父の命令は絶対だ。反発したり、口答えしたりすることは御法度である。
 幼い頃は父のその考えに不満が絶えなかった。もちろん口答えをして反発したこともある。
 しかし、璃子の望みが叶えられることは一度としてなかった。
 それでもと足掻けば良かったのかもしれない。だが、それはどうしてもできなかった。
 璃子が反発すればするほど、そのしわ寄せが母に行くことを知ってしまったからだ。
 母が父に罵倒される姿を見てしまって以来、父の言うことに反発しないようにしている。
 もう二度と母が自分のために泣いている姿を見たくなかったからだ。
 それからは、父の言いつけを守るようになった。だが、やはり理不尽に感じられて苦しくなる。
 父の命令は今までにも様々なものがあったが、一番腑に落ちなかったのは花に触れることを許されなかった件だ。
 璃子としては雪草流本家の人間として華道の道に進みたかったのだが、それは絶対に許されなかった。
 璃子には歳が四つ離れた姉、真以子《まいこ》がいる。姉が父の跡目を継ぐことが決まっているのだから、次女である璃子は花に触れてはいけない。そんな鉄の掟が存在している。
 とはいえ、やはり花は好きだ。高校生になり、ある程度自由に動けるようになった頃、こっそりと華道教室に通おうと目論んでいた。そんな璃子の行動に気がついたのだろう。
 母が雪草流の元師範である笠山《かさやま》に「璃子に華道を教えてやってほしい」と頼み込んでくれたのだ。
 笠山は先代――璃子の祖父の側近だったのだが、お年を召されたために今は現役からは退いている。
 笠山は現家元である父を息子のようにかわいがっていたが、璃子の件だけは納得がいかなかったようだ。
 そのため父に反発するような形で璃子に「稽古をつけてあげる」と言ってくれたのである。
 母と笠山の気持ちは、とてもありがたい。だが、もし父にバレてしまったら、二人に多大な迷惑をかけることになる。
 そう思って、当初は二人の気持ちを遠慮していた。だが、そんな璃子に対して二人は力強く笑ってくれたのだ。
『なんの、お前さんの父さんなど怖くも何ともない。こんな老いぼれに怒鳴ったところで何もできないだろうよ』
『お母さんも大丈夫。お父さんになんて怒鳴られ慣れているもの』
 そんな力強い後押しをもらい、璃子は華道を習うことができている。感謝してもしきれないほどだ。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

  • LINEで送る
おすすめの作品