作品情報

強面騎士団長様がおっぱいフェチなんて聞いてません

「君を守るのは、俺の役目だ」

あらすじ

「君を守るのは、俺の役目だ」

没落令嬢アリシアは『無口・強面・剛腕』な騎士団長コルヴィスに突然求婚される。王命婚で持参金不要、しかも彼は理想の年上マッチョ。幼い頃に出会った初恋の騎士と重なり心ときめくものの、顔合わせで告げられたのは「経済的に困っているから選んだ」という冷酷な言葉。落胆しつつも冷静に打算を働かせ、利害一致の“ビジネス結婚”が成立――のはずが。「感じるのか? 柔らかくて最高だ……君のおっぱいは」強面騎士団長様は、まさかのおっぱいフェチ!?不器用すぎる純愛に、アリシアは気づけば甘くとろける新婚生活へと足を踏み入れる――。

作品情報

作:江原里奈
絵:逆月酒乱

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8/8(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

1.強面騎士団長はおっぱいがお好き?

「……アリシア! アリシア、大変よっ!!」
 ドアを開けて入ってきた貴婦人の悲鳴は、小さな部屋を震撼させた。
 繕い物に専念していたアリシア・ノドヴィックは、その声に虚ろな目を上げる。
(まったく、勘弁してほしいわ……昨晩、私がどれだけ睡眠時間を削って、刺繍入りのハンカチを仕上げたかわかっているのかしら?)
 内心そう憤りながらも粗末な椅子から即座に立ち上がり、望まざる来客を心配する素振りを見せた。
「貴婦人の鑑であるお母様が、ノックもなしに部屋に入ってくるなんて、いったいどうなさいましたの?」
「ノックだなんて、そんな悠長なことを言っている暇はないわ! あなたに結婚のお申込みが来たのよ!?」
「結婚って……何をおっしゃっているのです! 我が家の今の状況で、わたくしの持参金を捻出することなんてできるわけがないでしょう?」
 アリシアは呆れ顔で、興奮のあまり頬を赤く染めている母を見つめた。
(お母様、慣れない貧乏暮らしのせいでついにおかしくなったのかしら?)
 そう思うほどに、アリシアの生家は困窮していた。
 元々、ノドヴィック伯爵家は辺境地域の領地を治めていた領主だった。領地はさほど広くなくても、小麦や綿花が採れるお陰で、地方貴族としては比較的裕福な暮らしを約束されていた。
 その未来予想図が狂ったのは、父が都会への憧れを抱いてしまったから。
 隣国エルトリア公国の貴族だという男にそそのかされて、隣国と王都の間に敷設されるという鉄道事業に投資したのが運の尽き。
 そう……その貴族はペテン師で、鉄道事業というのは真っ赤な嘘!
 その事実に気づいた時には、もう遅かった。結局、領地を抵当に入れて大金を借りた父は、祖先たちから受け継いだ領地や屋敷、爵位、綿織物を生産する工場まで失ってしまった。
 不幸中の幸いというものがあるとすれば、窮状を心配した母方の遠縁が王都のタウンハウスの一部を無償で貸してくれたことだろうか?
 ただ、家があるだけでは暮らしていけない。父が親戚や友人たちから借りた金を、働いて返す必要がある。
 伝手を頼って、王都の商工会議所の事務員として雇ってもらったが、ノドヴィック氏が得る給金のすべては借金返済へと充てられた。
 それ以外にかかる生活費を稼ぐため、ノドヴィック夫人はパン屋の厨房で働いた。
 アリシアは刺繍の腕を買われて、家の近くの洋品店でお針子として働いた。帰宅後は別の仕立屋から頼まれたレース編みや繕い物などの内職をしている。
 要は、ノドヴィック家は没落してしまったのだ。
 昔はどうあれ、今は平民であり労働者階級だ。領地とともに爵位さえ失ったこの家に、娘のアリシアの持参金を支払う余裕があるわけがない。
 それゆえ、いきなり結婚話を口にした母が気狂いにでもなったかと勘繰ったわけだが、ノドヴィック夫人の興奮は収まる気配はない。
「持参金ですって!? わかるわ、アリシア。あなたが心配していることは……そうですとも、うちはお金がなくなってしまいましたからね。でも、あなたが結婚するお相手は、持参金なんて我が家に要求するわけがないわ!」
 それを聞いて、アリシアはなおさら心配になる。
「ま……まさか、お母様! わたくしを何人も愛人がいるような年寄りと結婚させるおつもりでしょうか!? 身売り同然の縁談を受けなければならないなら、わたくしはお針子よりも給金を貰えそうな仕事をやりますわ。ほら、パン屋のおかみさんが二号店の店員を募集するから、わたくしに打診してくださったでしょう?」
「パン屋の売り子なんてダメよ! あなたは元伯爵令嬢なのよ? お相手に会う時は、あくまで趣味でレース編みをしているって言わなければ品位が落ちるわ!」
 伯爵夫人と敬称をつけて呼ばれた頃を懐かしんでいる母は、娘の心配を他所にすっかり縁談を進めようとしている。
(……ああ、困ったわね。お母様の妄想を打ち砕くにはどうしたらいいの?)
 母を現実に戻すべく、アリシアはそもそも曖昧になっている謎の求婚者の話を切り出した。
「ところで、お母様。わたくしにお申込みをくださった殿方は、どこのどなたですの?」
「よく聞いてくれたわね、アリシア! あなたのお相手はね……なんと、公爵閣下ですよ!」
「……えっ……?」
 このベルクロン王国で、王族の流れを汲む公爵家は四つある。
 令息ではなく、『公爵閣下』本人が結婚相手だということなら対象は絞られる。未婚の当主は、ウィンフリード公爵しかいないのだから。
 かつて参加したデビュタント舞踏会で垣間見たウィンフリード公爵の面影を思い出し、アリシアは思わず頬を赤らめた。
「もしかして……コルヴィス・ウィンフリード様……!?」
 にわかに信じられず、掠れた声でその名を呟いた。
 娘の動揺を察知したのか、母はうれしそうに口角を上げる。
「そう、そうよ! いつか、あなたが素敵だって言っていたあのウィンフリード公爵閣下よ!」
 それを聞いて、卒倒しそうになった。
 たしかに、王族の血を引く有力貴族なら、妻の実家に持参金を求めないというのは納得がいく。
 コルヴィス・ウィンフリードは先代国王の庶子であり、公爵に叙爵されたのは割と最近の話。長年、辺境騎士団の騎士としてベルクロン王国を守っていたが、叙勲の場で先代国王と瓜二つの面影に現在の国王陛下が生き別れになった異母弟だと気づき、正式な王族として認められたと聞く。
 現在は、王立騎士団の騎士団長としてエドレッド三世に忠誠を誓っている。
 複雑な出生もあり、ウィンフリード公爵は昔ながらの雅な貴族というよりは猛々しい武人としての印象が強い人物だ。
(……でも、そこが素敵なのよねぇ……)
 アリシアは彼のことを思い出して、ほぉっとため息を漏らした。
「無口・強面・剛腕」の三拍子が揃ったウィンフリード公爵は畏怖の対象で、遠巻きにしている貴族は多い。
 筋肉質な長身と額から右目にかけて傷がある見た目からして、日夜遊興に勤しむ宮廷人たちとは一線を画しているからだ。
 これまでウィンフリード公爵は独身を貫いているらしい。
 デビュタント舞踏会でそんな彼に一目惚れしたものの、アリシアは公爵への想いをずっと胸にしまっていた。
(いつか……もう一度、王宮に行く機会があったらお会いできるかしら?)
 ところが、そんな淡い希望を抱いたすぐ後のことだ。実家が没落してしまったのは。
 たまたま縁あって王都で暮らすようになったものの、平民の娘が宮廷の舞踏会に招かれることなど皆無だったし、永遠に彼と再会する機会などないと思っていたのに――。
「本当ですの? 本当に、コルヴィス様がわたくしに求婚を……!?」
「嘘なんてつきませんよ。さぁ、そうと決まったら公爵閣下にお会いする日程を決めなくてはね! あ、ドレスをどうしようかしら? 絹のドレスなんて、ぜんぶ売ってしまったわねぇ……」
「仕立屋のマダムにお願いして、古着をお借りしますわ。何枚かサイズ直しをする約束をしていますの。一日くらい、わたくしたちが使っても問題はないでしょう」
「それはいい考えだわ、アリシア! じゃあ、馬車は商工会議所のお偉いさんにお借りできるよう、お父様にお願いしなくては!」
 張り切って部屋を出ていく母を見送りながら、アリシアはにんまりして幸せの余韻に浸っていた。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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