「君の声も、ぬくもりも、全部――欲しいんだ」
あらすじ
「君の声も、ぬくもりも、全部――欲しいんだ」
宿屋の娘オリビアは、夜ごと同じ悪夢にうなされていた。白く霞む視界の中、誰かが泣いている。崩れ落ちていく幸福。そして、彼女を拒む冷酷な王子・リチャード。目覚めた瞬間、オリビアは悟る。あの夢は“前世の記憶”。自分はかつて、彼に愛されぬまま死んだ妻・レイナだったのだ。今世こそは、幸せに生きたい――そう決意した矢先、運命は残酷にも彼と再び巡り合わせる。「君に……触れたい」低く熱を帯びた声が、心の奥を震わせた。この手を取れば、また同じ結末が待つかもしれない。それでも、冷たさの中に宿る、彼の優しさを拒めない。過去と現在が交錯する、甘く切ない転生ロマンスの行方とは。
作品情報
作:春宮ともみ
絵:むいこ
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11/7(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読み
プロローグ
 ぐちゅり、と淫靡な音が寝室に響いた。
 羞恥に耐えきれず、オリビアは目をきつく閉じる。けれど、熱を帯びた快楽が徐々に身体を溶かし、雄の象徴が内壁を擦ると、ぞくぞくとした熱い感覚が背中を駆け抜けた。
「ん……ふ、あ……で、殿下……」
 その名を呼ぶたび、胸がちくりと痛む。
 触れてはいけない、愛してはいけない相手。
 けれど、記憶が――魂が、彼を知っている。懐かしくて、苦しくて、どうしようもなく求めてしまう。
 太く熱いものが深くまで入り込み、腰が無意識に浮いてしまう。彼が抉りつけ、喉の奥から声が漏れた。
「あ……ああっ……!」
 リチャードの腰が律動を刻む。徐々に速さを増し、最奥へと打ちつけられると、オリビアの内側がきゅう、と疼いた。身体の奥から生まれる悦びは抗いようもなく、ただ彼に溺れていく。
「オリビア……」
 掠れた声で呼ばれる、『私』の名前。それだけで、胸がひどく熱くなる。
「……あのとき、君を……愛していると、ちゃんと伝えられていたら……」
 彼の囁きが、心の奥に染み込んでいく。
 優しく髪を梳かれ、唇で頬をそっとなぞられる。
 熱く、甘く、切なくて――壊れてしまいそうだった。
 この関係が許されないことくらい、わかっている。彼は王家に連なる人物。自分は平民――決して結ばれてはならない立場。
 それでも、彼の声が欲しかった。彼の手が、熱が、心が――欲しかった。
「もっと……君を感じたい。快楽に溺れる君が、たまらなく愛おしい」
 囁かれたその言葉に、胸が軋むように痛んだ。
「……オリビア」
 彼の唇が触れるたびに、彼の手が触れるたびに、現実が輪郭をもって迫ってくる。
「あっ……あぁ、も、もう……っ!」
 胸元を嬲る彼の指が、先端を摘まんでくりくりと転がす。甘い刺激が奥まで伝い、逃れようと身をよじれば、逆に爪が立てられ、強く引き上げられた。
「あ、ああぁっ!」
 快感が脳髄まで駆け抜け、秘窟がきゅう、と締まる。苦しげな吐息と甘い声が絡み合い、ただ相手を求める想いだけが満ちていった。
 もう限界だった。目の前がチカチカと点滅し、世界が霞む。そこへふたたび最奥を突き上げられ、オリビアの身体は大きく跳ねた。
「あ、ぁ――っ!」
 瞬間、脳裏が真っ白に弾け飛ぶ。全身が震え、蜜壺が痙攣しながら彼を受け止める。
 身体の最奥でリチャードの熱が溢れ、オリビアはすべてが彼に染められていくのを感じた。
 視界が揺らぎ、全身が重たく沈む。
 その直前、髪を撫でる優しい手と――囁かれた言葉だけが、心に深く残った。
「……愛してる」
 それは、罪深い甘やかさだった。
 愛してはならない人に、愛されてしまった。
 決して許されるはずはない。それでも――もう、後戻りなどできなかった。
第一章 夢の残響
『この結婚に、愛は必要ない。今夜は、何も起きない』
 目の前の夫から紡がれたその言葉はあまりに冷たくて、レイナは声もなく俯いた。白く透き通る寝台の上、彼女はただ凍りついたように座り込むしかできなかった。
『妃が懐妊すれば民は喜ぶ。だが、私はそれを望んでいない。だから、この結婚で……私はこの先も、一生。あなたに触れることはない』
 リチャード――自らの夫となったこの国の第二王子は、まるで氷の彫像のように無感情な瞳でレイナをみつめていた。
 幼いころから、彼が好きだった。彼の婚約者に選ばれたとき、天にも昇る気持ちだった。
 ――それ、なのに……。
 愛も、希望も、喜びも、ぬくもりも存在しない――虚ろな初夜。
 ロウソクの灯りが一つ、また一つと消えていく中、彼は背を向けて去っていった。名を呼んでも振り返らない。部屋には冷たい夜風と、花の香りだけが残った。
『まって……、リチャードさま……』
 白く霞んでいく視界の中で、確かに誰かが泣いていた。
 すべてが音もなく崩れ落ちていく。
 誰にも言えなかった哀しみ。
 日増しに衰える身体。
 そして、ひとりきりの、『死』。
 そこで――オリビア《・・・・》は、ハッと夢から目覚めた。
「……っ!」
 跳ね起きた拍子に、ガタンと音をたてて寝台が揺れる。
 オリビアの額にはうっすらと汗が滲んでいた。息は浅く、胸が苦しい。
 夢を――見ていた。
 けれど、その内容はもはや『夢』と呼ぶにはあまりに生々しく、記憶は鮮明だった。男の瞳の色も、声も、そして自分の名までも。
「また……あの夢」
 ふと隣を見ると、寝台の脇の木製の小窓からは薄明かりが差し込んでいる。
 放牧されている鶏の鳴き声、薪を割る音、そして、村で一日の始まりを告げる教会の鐘の音が響き始める。
「もう、朝……なのね」
 オリビアが目覚めたのは、王宮の寝台ではない。
 ここは、オリビアの生家――村の宿《ルヴァン》。山と川に囲まれた小さな村で、父と母と三人で切り盛りする、旅人や行商人がときどき立ち寄る素朴な宿。
 けれど――
「リチャード……」
 オリビアは思わず手のひらに視線を落とした。夢の中の彼女のものなのか、自分のものなのかわからない、焦燥感と絶望が今もまだ心臓に絡みついている。
「なんだか……頭が痛いわ……」
 額を押さえながら小さく呟いて、オリビアは寝台を降りた。質素な綿のガウンを手繰り寄せて肩に羽織り、冷たい床にそっと爪先を落とす。
 ゆっくりと身支度を整えながら、オリビアは胸元に手を当てる。心臓が、まだ早鐘を打っている。
 たった一度の夢なら、ただの幻として忘れられたかもしれない。けれどこの夢は、今回で四度目だ。何度も繰り返されるにつれて、オリビアの中に妙な確信が芽生え始めていた。
 ――あれは……ただの夢なんかじゃない。
 まるで、自分がかつて本当にその人生を生きていたかのように、あまりにも現実味を帯びた夢なのだ。
 そして、なにより気がかりなのは――
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