作品情報

ここからは、お仕置きの時間。~初恋一途な公爵様の笑顔の裏には獣が潜む~

「今夜、僕の部屋へおいで。悪い子にはお仕置きをしないとね」

あらすじ

「今夜、僕の部屋へおいで。悪い子にはお仕置きをしないとね」

公爵家に仕える使用人・エレナは、幼なじみであり現当主の公爵・ファウストに密かに恋心を抱いていた。叶うはずのない想いだからこそ、彼に迷惑をかけないよう精一杯勤めると決めていたのに――。お転婆で好奇心旺盛な彼女を優しく諫めるファウストの“お仕置き”は、いつしか甘く淫らなものへと変わっていく。「すぐに濡らしてしまうなんて、いけない子だね」「僕に、乱れる君の姿をちゃんと見せて」愛情深くちょっぴり意地悪な彼に責められるたび、羞恥と快楽に震える心と身体。策士な公爵様と一途な使用人が紡ぐ、身分差×背徳ラブストーリー♡

作品情報

作:桜旗とうか
絵:稲垣のん

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10/3(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

 一.
 毎月第二水曜日は領地を管理する貴族たちの定例報告が義務づけられている。
 四月のその日、私はリエンディール公爵家当主、ファウスト様のお供として王都へ出向いていた。
「思ったより時間がかかってごめんね」
 王都から西へ向けて走る馬車の中で、私は首を横に振った。
「定例報告ですもの。国王も、ファウスト様とたくさんお話がしたいのかもしれませんし」
 いつもは一時間とかからないのだが、今日は二時間以上かかっていた。伯父にあたる国王も、甥の来訪を楽しみにしているはずだ。なにより、そのおかげで私は買い物を堪能できたので、不満はない。
「僕はエレナとたくさん話ができるほうがいいよ。国王と話すことなんていつもと変わらないし」
 ゆったりと足を組んで笑うファウスト様に、私は見蕩れてしまう。
 毎日見ているけれど、彼の美しさはまるで物語の王子様のようだ。神々しい銀色の髪は静かな雪原のようとも、荘厳な滝のようともいわれるほど輝いているし、緑柱石をはめ込んだような目元も涼しげだ。筆をさっと走らせたような眉と、形のいい唇。通った鼻梁。二十八歳のわりに少し幼く見える顔立ち。
 ファウスト様は童顔だと気にしているようだけれど、屋敷の使用人はもちろん、領民も、王都の人たちだってファウスト様を見れば一度は振り返るほどなのだ。
 性格も評判がよく、穏やかで優しい。
 西側の領地を守るリエンディール公爵。その当主がこのファウスト様だ。
 国王は伯父にあたり、王子が王位を継ぐ際に、ファウスト様は宰相を務めるのではないかといわれている。
 そんなリエンディール公爵家に両親ともども雇われている私は、生まれと育ちだけは公爵家の、庶民だ。
 平凡な顔立ちに、中肉中背。黒というには色素が薄く、銀髪というには暗くくすんでいる髪。茶色い瞳。絶世の美女にはほど遠い、と結った髪から落ちてしまった髪を耳にかける。
 平凡で身分も足りないから、叶わない恋だとわかっている。だけど、小さい頃から一緒にいて彼に恋をしないなんて無理な話。
「それより、買い物は楽しめた?」
 ファウスト様が隣に席を移して私の肩をそっと抱く。
 こういうことをさらっとされたら、淡い恋だって情熱的な好意に変わるというものだ。
 頬を熱くしながら、私はこくこくと頷いた。
「王都は品揃えが豊富で、珍しいものがたくさんありました」
 膝の上に置いた、小さな買い物包みをぎゅっと押さえる。商品はおしゃれな包装紙に包まれて渡されるのだが、これがとてもかわいいのだ。カラフルで、リボンやレースが描かれていて、ピンク色で、手触りがよくて、高級そう。
 挙げればきりがないくらいかわいい。
「もっと買うのかと思ったけど。お小遣い足りなかった?」
 じっとファウスト様が私の顔を覗き込んでくる。距離が近い。いい匂いがする。まつげどころか、毛穴まで見えそう。ファウスト様に毛穴は見えないけれど、私はどうだろう。
「いただいたお小遣いは、アレックスさんとお買い物をして使いましたよ」
「……アレックスと?」
 ファウスト様の護衛兼従者で、いまは馭者のアレックスさんは、王宮まではついていかず、私と一緒に買い物をしていた。
 それはファウスト様も知っているはずだけれど、なんだかむっとした表情をする。
「僕は、アレックスのものを買うためにお小遣いをあげたわけじゃないよ」
「あ……えっと、アレックスさんのものじゃなくて、ファウスト様の好みを知りたくて一緒に見ていただいたんです。普段使いできるタイと、カフスボタンを選びました」
「……僕の?」
 力一杯、何度も頷いた。するとファウスト様は途端に破顔して私の肩に頭を乗せた。
「なんだ、それならいいや。アレックスになにか買ってあげたのかと思った」
 そんなことはしない。私はファウスト様に喜んでもらいたいのだ。それに、もらったお小遣いはファウスト様のもの。勝手に人に買うなんてしない。
「ファウスト様、受け取ってくださいますか?」
 横に置いた包みを差し出すと、ファウスト様が首を傾けた。
「それかと思った」
 私の膝の上を指さして言われ、これは背中に隠した。
「こっちです。これは、私の……」
 ぐいとファウスト様の手に包みを押しつけたが、彼の興味は私の背後に回った包みのようだ。
「エレナが何時間もかけて買ったものがそれだけっていうのが気になるんだよね」
 ファウスト様が国王と謁見していたのは、正確にいえば三時間ほどだ。一時間くらいで済むと思うと言っていたので、だいぶ時間がかかっている。だけど、私はそれでよかった。
 王都にきたら絶対に買おうと思っていたものがあったからだ。
「内緒……にしたいです……」
「無理には聞かないけど、僕は知りたいな。それでも内緒?」
 うーと唸ってファウスト様の顔を見上げる。
「そんな顔で見つめてもだめ。それとも、お仕置きしてむりやり言わされたいのかな?」
 そっとファウスト様の手がワンピースの裾を摘まみ上げる。手が滑り込んできて、膝をそろりと撫でた。
「ファウスト様……こんなところで……」
「言えばやめてあげるよ。うっかり外から見えちゃうかもしれないし、エレナだって恥ずかしいよね」
 耳元に声を落とされ、顔が燃えるほど熱くなった。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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