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身分を隠した美男のオオカミ王子は初恋ウサギを愛し尽くしたい

「……可愛いな。君は本当に菓子みたいだ」

あらすじ

「……可愛いな。君は本当に菓子みたいだ」

甘い香りに包まれた可愛らしい製菓店を営むウサギ獣人の少女・アステアは、元暗殺者。孤児で物心ついたときから暗殺組織で育てられた彼女は四年前、王国騎士団の突入による組織解散をきっかけに逃げ延び、偶然出会った恩人の手を借りてようやく夢を叶えたのだった。そんなアステアは、平和な日常のなかで製菓店の常連客・オオカミ獣人騎士のラルクと恋に落ちる。初めての恋人との甘いキス、触れ合う肌の温もり、それだけでは足りない感情の昂り……彼との身分差を感じながらも、第二の人生で訪れた幸福に包まれる彼女であったが、水面下では組織の残党が暗躍していて――

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作:ろいず
絵:ちろりるら
デザイン:RIRI Design Works

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第一章

 満月が金色に輝く夜。
 人の体に祖先の獣が持つ聴覚、視覚、嗅覚、そして優れた運動能力を持つ種族、獣人が統治する国サウルパーロ。その王都、タチの悪い人々が集まる闇市街で騒動が起こっていた。
 騒ぎの中心は、ゴロツキが多く集まる古びた二階建ての酒場で、暗殺組織『シャドゥ』のアジトである。
 しかし今、そのアジトは王国騎士たちによって包囲されていた。
 酒場の二階で「シャドゥは今日をもって、解散だ」と組織の首領が告げるのを合図に彼らが突入を開始すると、それに驚いた組織のメンバーたちは酒場にいたゴロツキを囮に逃走を開始する。
 シャドゥは十年ほど前に突如として頭角を現し、サウルパーロ暗部の闇と恐れられてきた……が、その終わりもまた突然としか言えない。
 逃げる組織メンバーの中に一人、小柄なウサギ獣人の子どもが混じっていた。
 子どもの名は、アステア・ベーチ。物心ついたときには組織に拾われ、暗殺術を叩き込まれた少女である。
 ウサギ獣人の特長である優れた脚力は種族の中でも特に長けており、子どもながらに『ダバリア』というコードネームで呼ばれていた。そもそも、コードネームというのは組織の中でも優秀なものにしか与えられない。
 これは、アステアのことを示唆するにはふさわしい呼び名であった。ダバリアとは植物であり、緑の葉の下から伸びる白い根茎の房がウサギの足に見えることから、ラビットフットとも呼ばれているからだ。
 灰色のウサギ耳と同じ色の髪は毛先にかけて薄い桃色をしているが、彼女を女性だと知っている者は周囲に少なく、組織の男性や依頼人からは少年だと思われている。
 暗殺術は目を見張るものがあるけれど、アステアはまだ人を殺めたことはない。もし殺めることができないうえ組織に少女だとバレてしまえば、彼らが運営している娼館に送られてもおかしくない状態だった。
 そのため、組織にいる以上は少年として過ごす方が自分の身を守るためにちょうどよく、短髪で小柄な見た目を利用して、少年のような見た目と言葉遣いをしていたのだ。
 しかし、そんな彼女はひそかに『可愛い女の子になりたい』という夢を持っていた。
 暗殺組織に所属するアステアにとって、それは叶えるには難しい夢。
 けれど今、王国騎士たちの突入によって千載一遇の機会が転がり込んできた。なんのお咎めもなく組織から足を洗い、可愛い女の子として人生を歩むチャンスである。
 ゴクリと固唾を呑んで、アステアは二階の窓から屋根へと飛び出す。
 走り出そうとした瞬間、先に逃走を開始した組織のメンバーを他の仲間が屋根から突き落とすのを目撃し、アステアは思わず足を止め叫ぶ。
「その人は組織の仲間だ、いったい何を……ッ!」
「いいかダバリア、所詮オレたちは烏合の衆だ。仲間と裏切り合う世界に生きているのを忘れたのか? 囮は多ければ多いだけいいんだよ」
 黒装束で素顔を隠したまま、かつてアステアの教育係をしていた男は言い捨て、身構えたアステアの隙をついて横をすり抜けた。それと同時に回し蹴りで彼女を屋根から蹴落としてくる。
「嫌だ……、せっかく自由になれるのに、こんなところで諦めたくないッ!」
 アステアは必死の思いで、壁の出っ張りに手をかけて体勢を持ち直し、くるりと体を反転させる。
 足で壁を蹴り屋根よりも高く跳躍すると、懐から両端に石の付いた縄を取り出し、教育係だった男目がけて投げつけた。遠心力により男の両足に縄が絡みつく。
 もんどりを打って屋根の上で足掻く男の背に、アステアは手をかける。
「ダバリアッ」
「お前が言った。我々は、裏切り合う、と」
 トンと軽く押すと男は屋根から落ちていく。
「覚えていろ! ダバリアァァァッ」 
 男は『ダバリア』とアステアのコードネームを叫びながら地面に落ちた。彼女が下を覗き込むと、彼は王国騎士たちに捕縛されながら暴れている。
 そんな姿を尻目に、アステアは屋根を伝い逃走を開始した。
 アステアの教育係――男は『ノーフェイス』というコードネームで呼ばれている。彼女は物心がついたころには、男から呪いのように「お前は行き場のない孤児だ。せいぜい組織の役に立て」と言われ続け、殺伐とした中で暗殺術を学ぶ日々であった。
 男はその名のとおり、顔をいくつも変えていた。アステアが知るかぎりでは、組織の中でも素顔を見た者はいない。
 もしこの先、誰かが彼に会ったとしても、姿だけではノーフェイスであることを認識できないだろう。
 しかしそれはアステアも同じことだ。今日から可愛い女の子になるのだから、決して誰にもダバリアであることをバレてはいけない。
 ――キンッと鍔迫《つばぜ》り合いの音がする。
 建物の下では、仲間たちが王国騎士たちと剣を交えて乱戦を繰り返しているのだろうか。
 闇に紛れてしまおうと思ったそのとき、アステアは女性の悲鳴にふたたび足を止めてしまう。
「きゃああ!」
「どけ! 邪魔だ!」
 アステアが慎重に目線を下げていくと、そこでは逃走するゴロツキが斧を振り回しながら、この場に場違いなほど身なりのよい人族の女性に向かっていた。
 見捨てなければ逃げられない、自由になれない。そう分かっているのに、アステアの体は屋根を蹴り地面へと向かってとっさに動きだす。
 振り上げられた斧が女性に届くより速く、アステアの蹴りがゴロツキの横顔に入り込み、地面に膝をつかせる。
 体の小さなアステアでは大の男を蹴り飛ばすだけで息が上がりそうになるが、短く息を吐いて地面で短くステップを繰り返し、自分のタイミングで動けるように常に体を動かす。
 力もほぼなく瞬発力だけが武器であり、一瞬の判断が命運を分けてしまうことをアステア自身がよく知っている。
「逃げられるか?」
 女性に声をかければ、彼女は震えながら顔を横に振った。
 これ以上時間をかければ確実に王国騎士たちにも見つかってしまうが、アステアは目の前の女性を守りたい気持ちが勝っていた。なぜなら組織でアステアが女だということを知っているのは、組織が運営している娼館にいる女性たちだけで、アステアが少年に見えるようにと手を貸して守ってくれたからだ。
 弱い者同士で互いに助け合って生きていこうと言い合える同性の仲間、それが組織でアステアが心を失わずに生きていられる大切な拠り所だった。
 だからこそ、関係ないとはいえ女性を見捨てるなどということはアステアの中にはない。
 腰にある護身用のナイフを鞘から抜き取り手に構え、女性を守るように前に立つ。
「この野郎!」
 ゴロツキがふたたび斧を振り下ろすのをアステアはナイフひとつで凌いでいくが、やはり力負けして一撃一撃をやり過ごすだけで精いっぱいだった。
「あ、ああっ。大丈夫ですか!」
「心配ない。早く、逃げろ」
 女性の不安げな問いが、アステアの背中にかけられた。そんな質問をする余裕があるなら逃げてほしいと思いつつも、ここで声を荒げては彼女は委縮して逃げられないかもしれないと虚勢を張る。

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