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敏腕弁護士は失恋幼なじみを諦めない~迸る蜜月は初恋の先で~

「……もしも俺が諦めきれないって言ったら?」

あらすじ

「……もしも俺が諦めきれないって言ったら?」

平凡なOL・衣緒のたったひとつの宝物は、夏祭りの夜、憧れの幼なじみ・柊人がくれた小さな指輪。「いつか、本物の宝石がついた指輪をあげる」その言葉を信じていた。でも彼は何も告げず、消えるように渡米した。失恋の痛みを抱えながらも、衣緒は今、勤務先の御曹司・桐谷と交際している。誰もが羨む完璧な恋人。もう、過去に縋るのはやめたはずだったのに――突然、彼が現れた。新任の顧問弁護士として現れた柊人は、あの頃と変わらない笑顔の奥に、大人の男の余裕を纏い、衣緒の心を揺さぶる。熱を帯びた視線。ふいに触れる指先。囁かれる言葉に、閉じ込めていた想いが溢れ出す。――ずっと忘れたふりをしていただけ。初恋は、まだ終わっていなかった。

作品情報

作:如月そら
絵:紺子ゆきめ

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6/20(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

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プロローグ

 もう……指一本も動かせない。
 私の脚の間には、なにかが挟まっているかのような違和感がある。
「ん……衣緒《いお》?」
 身じろぎした私の姿を探すように柊人くんの腕がベッドの上をさまよう。ふふっと微笑んで私はその胸の中にきゅっと収まった。
 安心した様子の柊人くんがぎゅっと私を抱きしめると、お互い何も身につけていない素肌がふれあって、私の尖った胸の先端が柊人くんの胸板に擦られてしまった。
「……っ」
 かろうじて声は抑えたものの、ぞくっと身体を震わせたのが柊人くんに分かってしまったかもしれない。その瞬間、とろりと自分の脚の間から温かいものがこぼれ落ちたのが実感できた。
「あ……」
「どうしたの?」
 不思議そうに尋ねられても愛液が溢れたのだとは言いづらい。顔を赤くして目を伏せると何かを察したように柊人くんの指が溢れた場所に触れる。その指はぬるりとした感触を伝えて、私は胸がどきんとしてしまった。恥ずかしくて全身が熱を持つ。
「赤くなってる」
 くすくすと笑う柊人くんは楽しそうだ。
「もう! いじわるなこと言わないで!」
「衣緒、可愛い。濡れてるの恥ずかしくて俺に言えなかったの?」
 薄茶色の瞳に蠱惑的な色を浮かべて、柊人くんは自分の指先をちらりと舐めて見せる。その妖艶さに、私はくらりと眩暈を起こしそうだった。
「いや……そんなの舐めないで」
「どうして? 衣緒の味がする。昨日からたくさんしてるからね。溢れてこぼれちゃったんだね。大丈夫。衣緒のは俺が、一滴残らず舐めとってあげるから」
 そう言うと、柊人くんは遠慮なく私の下肢に顔を埋めた。
「ま、待って、恥ずかしいっ……」
 慌てて手で隠しても指の隙間からゆるっと舌が這ったのが分かって、その感触にすら下肢にぞくんと電流が走ったようになる。
 驚いた私は、隠していたところから思わず手を引いてしまった。
「意味がないって分かった?」
 脚のあいだから顔を上げて、にっと笑う柊人くんは色香が溢れんばかりで、しかも確信犯だった。隠しても分かってしまうのに私は拗ねて見せる。
「ずるいわ」
「可愛い、衣緒」
 ぷつりと勃ち上がってしまっている花芽をゆるりと舐められたあげく、指で中を探られて、私は身動き出来なくなってしまった。
 甘いしびれのような快感が背中から下腹部まで走り、お腹の辺りがきゅんきゅんして指を逃がすまいとしている。その煽情的な動きに私は漏れてしまう声を堪えることができなかった。
「は……んっ……」
「衣緒、もっと……感じさせたい」
 もう昨日の夜からおかしくなりそうなほど感じさせられているというのに、もっと?
「き、のうの夜からずっとよ? なのに、まだ?」
「もっと……もっとだ」
「そんなにしたら、おかしくなっちゃう」
「おかしく、なってよ」
 強く内腿を吸われて赤く痕が付いた。その痕を指で撫でられて、さらに私は背中を震わせる。
「痕……」
「見えないからいいよね? いっぱい付けたい」
「いっぱい付けて?」
 たくさん付けられたい。そうしたら、自分は柊人くんのものなのだともっと実感できるから。
 朝の光の中で照らされ、肌の白さと相反する痕の赤さがやけに目についた。胸をどきどきさせながら、柊人くんの焦げ茶の瞳をじっと見つめる。
 甘やかに微笑んだ大好きな顔が近づいてきて、鼻が当たらないように少し首を傾け、すぐに私の唇にキスを落とす。
 これから始まるさらに甘い時間に私は胸を高鳴らせることしかできなかった。

1.幼馴染と恋人

 夏祭りのお囃子が遠くで聞こえる。たくさんの人の脚が私の目の前を行き来していた。
 怖い……怖いよ。
 迷子の目の前を行き来する脚はただ怖くて、私は怯えていたのだ。
「衣緒ちゃん!」
 その人混みの中で呼ばれた名前に、私は顔を上げる。目の前にいたのは一緒にお祭りにきた、私の家のお隣に住む芳賀柊人《はがしゅうと》くんだった。
「柊人くん……っ」
 差し出された手を私はぎゅっと握る。それは温かくて力強くてとても頼りになるものだった。
「泣いてたの?」
「だって……迷子になっちゃったから」
「おじさんもおばさんも心配してるよ。大丈夫、うちの親が鳥居のところにいるから、一緒に行こう」
「うん」
 私よりも四歳年上の柊人くんはいつもとても頼りになる存在だった。
 焦げ茶色の髪と同じく優しい色をした瞳の持ち主で、端正な顔立ちに加えて、頭もよくスポーツまで万能。そんなお隣のお兄ちゃんは、私――藤里《ふじさと》衣緒にとって初恋の人だった。
 柊人くんが迎えに来てくれて安心した私は、急にお祭りのたくさんの屋台が目に入った。柊人くんが手を繋いで私を両親のところまで連れていってくれる。
「わたあめ食べたい」
「あとでね。おじさんたちと合流してから」
「柊人くん、見て! りんご飴、すごく綺麗……」
 きょろきょろと落ち着きなく周りを見回す私を、改めて柊人くんの手がきゅっと強く握る。
「迷子になったのも納得」
「あ……ごめんなさい」
 とても心配をかけて、探させてしまったのだ。きっと……。
 迷子になってしまった不安と、迷惑をかけて柊人くんに嫌われてしまうんじゃないかという不安で、私の目からはぽろぽろと涙が零れてしまう。
「衣緒ちゃん……」
「柊人くん、ごめんね」
「いいよ。もう泣かないで」
 そう言って、柊人くんはにこりと優しく笑った。私を道の端に連れていき、ポケットから出したタオルハンカチで涙に濡れた私の頬を拭ってくれる。
「うちの親が鳥居のところにいるって言ったでしょ? そこまで行けば、衣緒ちゃんのおとうさんとおかあさんとも会えるからね」
「うん」
 こくりと頷いた私の頭を柊人くんは撫でてくれた。さらに柊人くんはにっこり笑う。
「衣緒ちゃん、泣き止む魔法をかけてあげるよ」
「魔法?」
 そう言われただけでも正直涙は止まってしまっていたのだが、私は柊人くんが使う魔法というのに興味津々になっていた。
 魔法ってなんだろう? 何か呪文みたいなもの? おまじない?
「目を閉じて」
 柊人くんに突然言われて、私は少し怖くなる。
「怖い……」
「じゃあ、両手を繋いでいるから」
 ぎゅっと手が繋がれたのを確認してそっと目を閉じる。柊人くんは私の手の上から、自分の両手で包み込んでくれた。
 私の耳に入るのは、屋台の客を引く声と神社から聞こえるお囃子の音、それから、たくさんの人が行き来するざわめき。
 それでも柊人くんが一緒にいてくれて、その手の力強さや温かさを感じているから怖さはなくなった。
「じゃあ、目を開けて手の中を見てごらん?」
 そう言われて手を開くと、手のひらにころん、とおもちゃの指輪があったのだ。私の手の平に突然現れた指輪は本当に魔法のようだった。瑠璃色のガラス玉がついていて、まるで海を閉じ込めたかのようなとても綺麗な指輪だ。
「わあ! すごい! 柊人くん、すごいね。ありがとう!」
 柊人くんは指輪を私の指にはめてくれて、また両手で私の手を握ってくれた。それから私の顔を覗き込んだ柊人くんの顔は、とても真剣だった。
「衣緒ちゃんに、いつか本当の宝石がついた指輪をあげるね」
「本当? 約束して!」
 私だって本当の宝石がついた指輪は知っている。おかあさんは滅多につけないけれど、親戚のお姉ちゃんの結婚式があったときとか、おとうさんと二人きりで出かけるときとかは、たまにその指輪をつける。それはキラキラとしていて、まるで光を集めたかのように綺麗なのだ。
 私はその綺麗な指輪をくれるという約束が嬉しくて、迷子になって落ち込んだ気持ちなど、どこかに行っていた。
「約束する。衣緒ちゃんにいつか本当の宝石がついた指輪をあげる。そしたら、僕はずっと衣緒ちゃんのことを守るから。今日みたいに。その代わり、指輪をもらったら衣緒ちゃんは僕のお嫁さんにならないといけないんだよ」
「うん! なる! お嫁さんにしてね!」

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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