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過保護な堅物エリート警察官は、初恋OLを滾る恋情で包み込みたい

「頼むから、そんな顔するなよ。この非常時だっていうのに理性が利かなくなるだろ……」

あらすじ

「頼むから、そんな顔するなよ。この非常時だっていうのに理性が利かなくなるだろ……」

平凡な会社員・紗英は、差出人不明の手紙に悩まされる日々を送っていた。じわじわと心を侵食する不安と恐怖。藁にもすがる思いで訪れた警察署で、彼女は思いがけず“初恋の人”――刑事・川北想と再会する。「……想くんなら、いい。このまま、私を想くんのものにしてほしいの」「気持ちよくなるところ、見ててやるから」想に守られ、訪れた幸せ――だが。その背後には再び怪しい影が迫っていて……。

作品情報

作:小日向江麻
絵:木ノ下きの

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3/6(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

 始まりは、自宅アパートのポストに届いた一通の手紙だった。
 仕事を終え帰宅した、十月下旬のある夕方。『岸辺紗英《きしべさえ》様』と私の名前が印字された白い封筒を開けると、A4サイズのコピー用紙に、こんな文章が綴られていた。
『君の笑顔は僕が守るよ、安心して』
 これが恋人からのラブレターならどんなによかったか。残念ながら、私に恋人はいない。大学時代に友達からの紹介でなんとなくお付き合いした彼と別れてからは、ずっとフリーだ。
 差出人の名前はどこにも書かれておらず、消印などもない。ぞくりと悪寒が走る。
 ――なにこれ。まるでストーカーみたい。
 私に恐怖心を与えているくせに、『守る』だなんて言葉のチョイスがアンバランスだ。だいたい、得体の知れないこの人に守られる謂れはない。
 届いた直後は質の悪いイタズラかと思って、無視を決め込むことにした。でもその晩、ベッドにもぐりながら考える。こんなイタズラをしてなにになるというのだろう。
 私への嫌がらせ? それとも、ただの悪ふざけ?
 どちらだったとしても、こんな陰湿な真似をする人間が近くにいるかもしれないと思うと、そのままにしておいてはいけない。
 強い不安と恐怖に駆られた私は、翌日の仕事帰りに、最寄りの汐見坂警察署へ相談しに行った。
 受付で事情を話すと、生活安全課の相談コーナーで詳しく話を聞いてもらえることになった。
 パーティションで区切られた半個室の空間には、木板のミーティングテーブルとパイプ椅子が並べられている。内線で呼ばれていたらしい担当者が椅子の前にスタンバイしており、軽く頭を下げた。
「生活安全課、巡査部長の庭野《にわの》です」
「岸辺と申します」
 庭野さんと名乗ったスーツ姿の男性は、私と同じか、少し年下という印象だ。やや小柄だけど職業柄か体躯はしっかりとしていて優しそうな雰囲気。顔立ちだけなら文化系だ。
 これまで警察官とは接点がなく、刑事ドラマのイメージしかなかったため「怖い人だったらどうしよう」と不安だったけれど、彼ならばしっかり話を聞いてくれそうで、一安心する。
「どうぞおかけください。こちらの書類に記入をお願いします」
 庭野さんに促されて椅子に座ると、彼も着席した。名前や連絡先などの基本的な情報を書き込むと、その用紙に視線を落としながら、庭野さんが口を開く。
「……本日はストーカー被害に遭われているかも、というご相談だと伺っていますが、詳しくお話を聞かせていただけますか?」
「あっ、はい」
 私がうなずく。すると、彼はパーティションの向こう側にある扉のほうに目線をやってから、再び私を見た。
「今ちょうど本庁から人身安全支援係が応援に来ていて、一緒に話を聞いてもらった方がいいかなと思うんですが、差し支えないですか?」
「もちろんです」
 詳しいことはよくわからないけど、専門家である彼がそう勧めてくれるならば従ったほうがよさそうだ。庭野さんは「失礼します」と言って席を立ち、さきほど視線を送っていた、パーティションの先の扉をくぐった。ほどなくして、別の誰かを連れて戻ってくる。
「お待たせしてます。……川北《かわきた》さん、こちらです」
 私に頭を下げたあと、庭野さんがとなりにいる背の高い男性の名前を呼ぶ。それを合図に、その男性が一歩前に出た。
「警視庁生活安全部、人身安全支援係警部補の川北です」
「岸辺紗英です――」
 挨拶のため立ち上がり、頭を下げようとした瞬間、彼の顔が高校時代の記憶のなかの、大切な人に重なった。
「……想《そう》くん?」
 驚きのまま、その人の名前を口にする。すると、ほぼ同時に彼の方も目を瞠った。
「紗英、か……?」
「うん、久しぶりだね!」
 高揚のままに、つい声が弾んでしまう。
 ――間違いない。川北想くんだ。
 学生時代よりも短く整えられた黒髪で一瞬わからなかったけれど、そのちょっとつったような一重の目も、スッと鼻筋の伸びた鼻も面影がある。
 庭野さんよりも頭一つ分背の高い彼は、おそらく百八十センチ近くあるのだろう。手足の長いスタイルのよさは今も変わらない。白いワイシャツの第一ボタンを外し着崩したスーツ姿は、だらしない感じではなくこなれて見えて、むしろカッコいい。
 信じられない。まさか、こんなところで想くんとまた会えるなんて……!
「何年ぶりだろう、十年ぶりくらい? 元気にしてた?」
 最後に顔を合わせたのは高校二年のときだったはずだから、おそらくそれくらいだ。想くんがうなずく。
「そっちは?」
「私も元気だよ。びっくりした~、想くん、変わってないね」
「紗英もな」
「えっと……川北さんと岸辺さんは、お知り合いだったんですか?」
 私と想くんをそれぞれ見比べながら、戸惑う庭野さんに私が「はい」と答える。
「――小、中学校が同じで。家もとなり同士で。ね?」
 私が想くんに話を振ると、彼が「ああ」とうなずいた。
「じゃあいわゆる幼なじみっていうやつですね。仲良しだったんですか」
「私は、そう思ってます」
 言いながら、想くんの表情を窺う。彼よりも先に口を開いたのは庭野さんだ。
「へぇ、いつも女性が苦手だって言ってる川北さんに、異性のご友人がいるなんて初耳です」 
「庭野」
 窘めるように名前を呼ぶ想くん。しかし庭野さんは、それまでよりもずっと砕けた口調で楽しげに反論する。
「だってそうじゃないですか。川北さんってモテるのに、二言目には『女なんて面倒くさいし、かかわりたくない』とか言って」
「そういうところも変わってないんだ」
 私は思わず噴き出した。
 昔から想くんは頭がよく、スポーツもできたので女子からの人気が高かった。けれど彼自身はとりまきの女子たちを遠ざけ、極力接点を持たないようにしていた。当時の彼曰く、「女子は派閥を作りたがるし、群れて強くなったような気でいるヤツが多いからきらいだ」と。正義感が強くストレートな性格の彼は、女子にありがちなそれらの振る舞いが受け入れられなかったようだ。
「紗英は特別だったんだよ。俺がいやなタイプの女子とは違ったし、きょうだいみたいに育ったところもあったから」

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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