作品情報

完璧社長のマリッジリング~仕事ひとすじ女子のワタシでも夢ごと愛してくれますか?~

「俺のことを、好きになってくれないか?」

あらすじ

「俺のことを、好きになってくれないか?」
 高級ジュエリーショップの販売員花井桜は、努力の甲斐あって社内のデザインコンペで最優秀賞に選ばれる。
 ジュエリーの商品化を進めるため、社長の夏目涼介と接する機会が増えていく桜。仕事にはストイックでも周囲に対しては紳士的で、完璧社長と名高い涼介に桜は徐々に惹かれていく。
 だが涼介の左手の薬指には、彼自身が妻の為にデザインしたと噂される指輪が輝いていて……

作品情報

作:花音莉亜
絵:ちょめ仔

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本文お試し読み

1.

「あっ、夏目《なつめ》社長じゃない?」
 明日香《あすか》さんに言われ、彼女の視線と同じ方向を見つめる。すると、道路向かいのフレンチの店に、社長と女性の姿が見えた。
「綺麗な方ですね。噂の奥様なんですかね?」
 つい声を潜めてしまったけれど、車の往来の激しい場所で聞こえるはずもない。社長は彼女をエスコートするように店内に入り、それを見届けた明日香さんがため息をついた。
「結構、ラブラブみたいよ? 他の社員も、社長と奥様を見かけた人いるみたいだし」
「そうなんですか……」
 明日香さんが歩き始めたから、私も慌てて追いかける。夏目社長のような人と結婚できる人はどんな人だろうと思っていたけれど、小柄で感じのよさそうな女性だった。
「なんとなく、桜《さくら》ちゃんと同じ二十六歳くらいに見えたわね」
「そうでしたか? 明日香さん、鋭いですね」
「三十路に突入した私には、若さはよく分かるのよ」
 行きつけのイタリアンの店に入りながら、明日香さんは得意げに言う。社長も、今からランチなのだろう。
 仕事の休憩中にまで奥さんに会うなんて、噂どおりかなり夫婦仲がいいらしい。
「そういえば、うちの売上ナンバーワンの指輪って、社長が奥様のために作ったって本当ですか?」
 窓際の席に着き、ふと思い出した疑問を明日香さんにぶつけた。私たちが勤めている会社は、高級ジュエリーブランド『ビジュヘレー』だ。
 ニューヨーク発のブランドで、上品な女性らしいデザインで人気のブランドだ。著名人の愛用者も多く、先日の女性誌では憧れのブランドナンバーワンに輝いていたほどだった。私と明日香さんは、その日本本店に勤務している。
「みたいよ? 社長に就任する前だから、二年前か。ニューヨーク本社でデザインしたリングらしく、それが大ヒットしたのよね」
「当時は、デザイナーの責任者だったんですよね? デザインセンスだけじゃなく、経営センスにも優れていて、それを評価されて日本法人の社長に抜擢されたっていう」
「そう! まだ三十四歳の若さだからね。社長に就任したのが三十二歳で、これも当時かなり話題になったじゃない?」
 そう言われて思い出すと、たしかにメディアでも大きく取り上げられていたっけ。あの頃も今も、私はジュエリーのデザインばかりを考えていて、あまり社長のことは気にしていなかった。
 だけど、最近は彼のことが気になってしまう。といっても、下心のある気持ちではない。社長のような愛妻家の人は、どんなジュエリーを選ぶのか。それが知りたかった。
「社長に興味のない桜ちゃんでも、ようやく魅力に気づいてきた? 今日は、話に食いつくじゃない?」
「そ、そんなんじゃないですよ。今度、また社内のコンペがあるじゃないですか。私、今回も挑戦するつもりなんです。だから、デザインの参考にしたくて」
 慌てて否定し説明をすると、明日香さんは呆れたようにため息をついた。
「もう、桜ちゃんってば。少しくらい、色気のある話はないの? 口を開けば仕事のことか、デザインのことばかりじゃない」
「そうですけど、大好きなことなので……」
 明日香さんの呆れ顔を前に肩をすくめていると、店員さんが注文を取りにくる。日替わりランチを頼み終えると、明日香さんが口を開いた。
「参考になるか分からないけど、私が聞いた話。社長は、奥様と一緒のところはよく見せているけど、プライベートの話はとても嫌うらしいわ。それだけ、自分の素顔は心を許した人にしか見せないんじゃない? ロマンチストな方なのかもね」
「神秘的な感じですね……」
 それを聞くと、ますます社長の奥様が気になってくる。それだけ人と距離を置く社長が愛する女性は、どんなジュエリーを好むのだろう。
 そして、どんなジュエリーを贈りたいと社長は思うのだろう。
「たしかに、神秘的かもね。ねえ、恋人にプレゼントって図式は、今も十分健在よね。社長のこと掘り下げたら、男性が贈りたくなるようなジュエリーが見えてくるんじゃない?」
「社長ですか……」
 明日香さんの言葉はもっともだけど、夏目社長を掘り下げると言っても、会話をする機会はほとんどない。
 社長の臨店は定期的にあるけど、話はもっぱら店長とだし……。
「できれば、お話する機会があればいいんですけど。社長ですからね……」
 夏目涼介《なつめりょうすけ》社長。その若さで高級ジュエリーブランドの社長に就任した有能さだけでなく、彼の見た目も多くの女性の注目を集めている。
 一八〇センチを超える長身で、手足が長くスラっとしたスタイル。そして、甘さの中にも知的さを含ませたルックスで、私も初めて社長を見たときは息を呑んだほどだった。
 紳士的な性格だけど、常に周囲に注意を払っていて、仕事に関しては完璧な人だ。そんな彼が社内で話題にならないわけがなく、既婚者と知っていてもファンは多い。
「そうよね。夏目社長とは、普通に話す機会がないか。でも、午後から社長が臨店されるでしょう? 話をするチャンス、あるかもよ?」
「えっ!? そうでしたっけ? 明日じゃなかったですか?」
 思わず身を乗り出したのは、休憩室にデザイン画を置きっぱなしにしていたからだ。社長は予定時間より、五分から十分は早く来る。
 そして、店舗内だけでなくバックヤードもしっかりチェックするのだ。人から見えない場所も綺麗にしておかないといけないという考え方で、不要な物が出しっぱなしにしてあると注意されてしまう。
「そっか。桜ちゃんは遅出だったから、朝礼を聞いてなかったよね。ごめん、言っておけばよかった。予定変更で、今日の午後一番になったのよ」
「そうなんですか。それなら、結構ヤバイです……。今度のコンペで出そうと思ってるデザイン画、テーブルの上に出しっぱなしにしてるんです」
 肩をすくめると、明日香さんは目を丸くした。
「本当? うーん、時間的に微妙かな? とりあえず、急ごうか?」
「はい……」
 明日香さんも巻き込み、急いでランチを済ませると店へと走った。間に合えば、いいけれど……。

「あっ、明日香ちゃんと桜ちゃん。社長がもう来られてるの。バックヤードにいらっしゃるから、失礼がないようにね」
 休憩が終わるまで十分を切ったタイミングで店に着くと、店長の相原《あいはら》さんが声を潜め私たちに言った。
 ここは路面店になり、近隣には同じような高級ブランドのジュエリーショップやブティックが並び、閑静なエリアだ。
 今はお客様がおらず、普段なら店舗内はゆったりした空気になっている。でも今日は社長が来ていることもあり、緊張感で包まれていた。
「店長、実はデザイン画を置いたままにしてるんです。すみません」
「そうなの? 私もさっき、表のディスプレイのネックレスがずれてるって注意を受けたのよ」
 苦笑する店長に、ますます冷や汗が流れる。三十五歳の店長は、落ち着いた性格で細かな気配りができる人だ。
 人当たりがよく、部下の意見も真剣に聞いてくれる。二十代の頃は、読者モデルをしていたこともあるらしく、美人で憧れの店長だった。
 そつなく仕事ができる彼女でも、社長を前にすると注意されることがあるのだから、私はどれほど穴だらけだろう。
 それを考えると不安でいっぱいになり、すがるように店長を見た。
「とりあえず、ご挨拶をしてきて。それから、デザイン画はしまっておきましょう」
「はい。そうします」
 バッグをロッカーにおさめなければいけないし、明日香さんと静かにバックヤードに入る。すると、ちょうど社長が私のデザイン画を手に取り眺めているところだった。
「しゃ、社長、お疲れ様です」
「お疲れ様」
 明日香さんと挨拶をすると、彼女は先に売り場に戻る。それは、この場から逃げたわけではなく、不要に残っていると注意されてしまうからだ。
 性格が温和な社長でも、仕事に関してはとても厳しい。
「あの……。申し訳ありません。そのデザイン画、私のものなんです。しまい忘れていました」
「これは、花井《はない》さんのもの?」
 彼は、持っていたデザイン画を私に差し出す。それを、若干手を震わせながら受け取った。
「はい。休憩の合間に、描いていたんです。来月にある社内コンペに、出そうと考えていまして……」
 でも、こんなところを見られたら、それだけで減点対象になってしまうかもしれない。コンペの審査委員長は、社長なのだから。
 ドキドキしながら控えめに社長を見ると、彼は私の手元のデザイン画に視線を向けたままだ。
「花井さんは、毎回コンペに出してるよな? 今回で、四回目か?」
 真っすぐ見据えられ、視線が重なりドキッとする。いけないこととは分かっているのに、彼の綺麗な顔はどうしても心を動揺させた。
 そんな本音を隠しつつ、小さく頷く。
「は、はい。そうなんです。新入社員で入ったときから挑戦させてもらっていまして、今回も参加すれば四回目です」
 まさか、社長が把握しているとは思ってもみなかった。嬉しい半面、どうして知っているのか不思議で複雑な気持ちになる。
「なあ、花井さん。毎回指輪だけど、なにか意味があるのか?」
「え? はい……。やはり、女性の永遠の憧れは指輪かなと。もちろん、価値観は人それぞれですが、恋人から貰いたいジュエリーは、指輪じゃないかなと思ってるんです」
「なるほどね……」
 納得してくれたのかどうか、社長はしばらく黙ってまた視線をデザイン画に向ける。
(なに、考えてるんだろ……)
 社長を目の前にすると、いつも緊張でいっぱいになる。だけど、今日は格別だ。さっき明日香さんに、社長と話す機会があればいいのにと言われたばかりなだけに、このシチュエーションを意識してしまう。
 せっかくのチャンスなのに、緊張してとても話題を振ることができない。社長からの言葉を待っていると、彼は小さく息を吐き私を見た。
「提出期限までは、あと一ヶ月近くあるから頑張って」
「はい、ありがとうございます!」
 頭を下げている間にも社長は売り場へ出ていき、バックヤードは私一人になる。彼の姿が見えなくなり、ようやく肩の力が抜けた。
「緊張した……」
 デザイン画のことは、どう思われたか分からない。毎回参加しても落選しているのだから、今回も力不足と感じられたかもしれない。
 それでも、社長から“頑張って”と言葉をかけてもらえたことは素直に嬉しかった。それがたとえ、社交辞令だったとしても……。
 それにしても、奥様とランチをしていたはずなのに、予定より早く臨店してくるんだ……。仕事には本当にストイックなのだと思ったら、少し社長の素顔が気になった。
 さっき社長と奥様を見たとき、彼がとても優しそうだったから。社内では、ほとんど笑顔を見ることがない。
 そんな社長が、プライベートではどんな顔をするのだろうかと。奥様のために、リングをデザインするくらいなのだから、きっととても溺愛しているのだろう。
 私には関係ないし、知る必要もないと分かっているけれど。でも、少し見てみたい気もする……。

 毎年、ビジュヘレーの日本法人では、ジュエリーのデザインをコンペ形式で募集する企画がある。
 全国の店舗から、有志が参加するものだ。参加条件はなく、ビジュヘレーの社員なら、正規も非正規も関係ない。
 もちろん、男女の性差や勤務年数の縛りもなく、言わば誰でも参加することができるのだ。優秀賞のデザインには総評が貰え、そして最優秀賞に輝いたデザインは、国内のみの期間限定になるけれど商品化される。
 そのため、毎年かなり多くのデザインが寄せられると聞いている。アクセサリーの種類も条件はなく、去年はネックレス、一昨年は指輪、その前はピアスが最優秀賞に選ばれている。
 私は三年間出し続けているけれど、毎回賞を貰うことなく落選していた。
「いよいよ、コンペの結果の発表ね。最優秀賞だけ、社長から直接連絡が入るからドキドキね」
 店長が笑顔で声をかけてくれ、開店準備をしていた私は思わず手を止めてしまった。店長は五年前、最優秀賞を貰いネックレスが商品化されている。
「そうなんですね……。目標は最優秀賞ですけど、さすがにまだまだかなって……。三年連続、賞をひとつも貰えていませんから」
「そんなの分からないわよ? 優秀賞から段階を踏まないといけないなんて、そんなルールはないんだから」
「目標どおりに、いけばいいんですけど……」
 笑顔を向けたものの、やっぱり自信はない。さらに、何時に発表かも分からず、今日一日そわそわしそうだ。

「こちらのリングは、ペアになっているんです。男性用は、少し太めに作られています」
「へぇ。そうなんですか?」
 午後になり、カップルが来店してきた。二十代半ばくらいの男女で、彼女のほうは控えめに彼の側に立っている。
「ねえ、こんな高いものじゃなくていいよ」
 はにかんだ笑顔を見せる彼女に、彼のほうは優しい眼差しを向けている。彼女のほうは遠慮がちだけれど、彼はどうしてもプレゼントをしたいらしく積極的に勧めていた。
「記念だから、イニシャルを彫ってもらおう」
「うん……。そこまで言うなら……」
 ディスプレイの向こう側にいる二人は、すっかり自分たちの世界に入っている。こういうことはしょっちゅうで、そのたびに私は勉強させてもらっていた。
 カップルの雰囲気で、選ぶジュエリーも違ったりする。この二人なら、どんな感じが似合いそうか、考えるのがとても楽しいのだ。
「じゃあ、このペアリングでお願いします」
「かしこまりました。ありがとうございます」
 ようやく決まったようで、二人は顔を見合わせ微笑み合っている。
(なんか、いいなぁ……)
 購入手続きを進めながら、つい羨ましく思ってしまった。日々、いろいろなお客様に商品を勧めているものの、当の自分はジュエリーを買ってくれる恋人はいない。
 明日香さんが、仕事とデザインばかり……と、呆れるのも無理はなかった。
「それでは、イニシャルを入れて出来上がりましたらご連絡いたします」
 二人を見送るためにドアを開けようとしたとき、一瞬早く誰かに開けられた。それは社長で、ドアを全開すると深々と頭を下げている。
「ありがとうございました」
 カップルが遠くなったのを確認した社長はドアを閉め、店内を見回している。
「もう、お客様はいないようだな。花井さん、少しいい?」
「は、はい。大丈夫です」
 バックヤードを指さされ、一気に緊張でいっぱいになる。そっと店長と明日香さんのほうを見ると、二人とも興奮を隠すように小さくガッツポーズをしている。
 そうと決まったわけではないけれど、私の胸も期待に膨らんだ。
「先ほどのお客様は、うちのジュエリーを気に入っていただけたのか?」
 部屋へ入るなり、私に向き合った社長はそう言った。コンペのことかと思っただけに、一瞬あ然としてしまう。
「は、はい。ペアリングを、ご購入いただきました」
 それでもドキドキするのは、わざわざ社長が私を呼び寄せたからだ。仕事第一の彼が、業務を中断させてまで呼んだのだから。
(だめだめ。なにも言われていないのに、その気になっちゃってる)
「それは、よかった。店長から、花井さんの接客はとても丁寧でお客様からの評判もいいと聞いているんだよ」
「そうなんですか? とても光栄です」
 店長がそんなことを言っていたとは知らず、心が温かくなってくる。彼女は私の憧れでもあり、目標とする女性だからだ。
 ほんの僅かの間、コンペのことが頭から消えていると、社長が鞄からなにかを取り出し緊張が蘇った。
「花井さんには、これからもビジュヘレーで活躍してほしいし、ブランド発展のために力を貰いたい。そして、きみ自身のこともいろいろと教えてほしい。おめでとう、最優秀賞だよ」
 手渡されたものは、コンペの最優秀賞を表する賞状だ。ちゃんと“花井桜”と、私の名前が書かれてある。
「ありがとうございます……。夢みたいで……」
 堪らず涙ぐんでしまい、慌てて指で拭う。子供じゃあるまいし、もっと感情をコントロールしないと……。
 そう思うけれど、ずっと夢見ていたコンペの最優秀賞だ。胸が熱くなってしまい、言葉が続かない。
 ただずっと、“最優秀賞”の文字を見つめていた。
「今夜か明日にでも、仕事終わりに食事に行こう。前任の社長からの習慣で、お祝いだから遠慮はしなくていいよ」
「はい! ぜひ、お願いします。今日も明日も、予定はありませんので」
 食事の話はあらかじめ、店長から聞かされていた。彼女も最優秀賞を獲ったとき、当時の社長と食事に行ったらしい。
 商品化についての話がメインだと聞かされていたけれど、自分にはまだまだ縁のないことだと思っていたくらいなのに。
 それが、現実になるなんて……。胸がいっぱいで、ふわふわした気分だった。
「そうか。じゃあ、早いほうがいいから、今夜にしよう。閉店後、店へ迎えにくるから。店長にも伝えておくよ」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
 賞状を大切に持ちながら、どこか興奮気味に答える。まだ信じられない気持ちだけれど、本当に最優秀賞を獲れた。そして、私のデザインした指輪が商品化される。それを想像したら、昂る気持ちを抑えきれなかった……。

「桜ちゃん、本当におめでとう。今日はもういいから、早く帰り支度しなさいよ」
「はい。ありがとうございます」
 閉店後、店長に急かされながらバックヤードへ向かう。途中、明日香さんが笑いながら「あとは任せて」と言ってくれていた。
 制服を着替えながら、まだどこか夢心地に感じる。これから、本当に社長と食事に行くのだと思うと、自分が自分でないようだった。
(本当に、受賞するなんて……)
 実感ないまま準備して待っていると、通用口から社長がやってきて現実なのだと思わされた。
「お疲れ様、花井さん。店長に挨拶をしてくるから、そのあと出ようか?」
「お疲れ様です。はい、お願いします」
 社長と一緒に店長に挨拶をすると、通用口から店を出る。緊張しながら彼の後ろを歩いていると、社長が少し先を指差した。
「向こうに車を停めてあるから、遠慮せず乗って。今夜は、ビジュヘレーご用達のフレンチの店へ案内するよ」
「えっ? お車って、社長のお車ですか?」
 いろいろなことに驚きながら歩くと、たしかにシルバーのセダンが停まっている。海外の高級車で、左ハンドルの車だった。
「そう。俺の車だよ。普段、通勤でも使ってるから」
「そうだったんですか」
 社長がマイカー通勤だとは知らなかったし、知る必要もなかった。それが、こうやって彼のささやかな一面が見えるのは嬉しくもある。
「どうぞ」
 助手席のドアを開けてくれ、社長は運転席へ回る。こういうスマートさは、さすが社長だと感心してしまった。
(こんな人に愛される奥様って、本当に素敵な女性なんだろうな……)
「失礼します」
 彼の私用車なら、奥様も乗るだろう。それを想像すると、たとえ仕事の延長とはいえ遠慮がちになる。
 控えめに座ると、レザーシートが柔らかく心地よかった。
(いい匂い……。奥様の好みなのかな?)
 車内は、ふんわりと上品な香りがする。知的でスマートな社長の印象が、車にも反映されているようだった。
「ご用達ということは、ホテルのフレンチのお店ですね」
 緊張しながらも、できるだけ張り詰めた空気にならないように笑顔を浮かべる。それくらい、今まで社長と二人きりで話をする機会は全然なかったのだ。
「そう。あちらのホテルには、ビジュヘレーの店舗も入っているからね。懇意にしてもらっている、取引先でもあるんだよ」
「そうでした。結婚式でも人気のホテルですから、ビジュヘレーの店舗を入れてくださっているんですよね」
 駅前の高級ホテルで、著名人の結婚式もよく行われている。そこに小規模ではあるけれどビジュヘレーの店があり、結婚式に使用するためにジュエリーを購入してくれる人が多いのだ。
「取引先ということを差し引いても、フレンチの店はとても美味しいけどな。俺は、結構気に入っていて、個人的にも贔屓にしてるんだよ」
「それは、納得です。一度食べたら、忘れられない上品な味付けですもんね」
 ということは、奥様とも訪れるのだろう。社長の話を聞けば聞くほど、つい奥様と結びつけてしまう。
 仕事ではストイックな社長の素顔が、どうしても気になってしまうからだ。
「そうだろう? 今夜は、会社として花井さんのお祝いをする。だから遠慮なく、楽しんでほしい」
「ありがとうございます。お気遣いが、とても嬉しいです」
 車が走り出し、ふと彼の左手に目が留まる。薬指にはめられた指輪を見て、違和感を覚えたからだ。
(ダイヤ、くすんでない……?)
 車内が暗いから、そう見えるのだろうか。彼が着けている指輪は、自身がデザインしたものだ。
 だから、くすんでいるなんてことはないはず……。
(気のせいか……)
 緊張しているからか、必要以上にいろいろなことが気になるようだ。静かにシートに座り直し、窓の外の景色に目をやった──。

「夏目社長、お待ちしておりました。奥のお部屋へどうぞ」
 店に着くと、いつものように男性店長が挨拶にやってくる。ホテルのロビーでは支配人が挨拶に出てくるし、改めて社長の凄さを実感していた。
 年に二、三回は、本社と近隣の店舗でこの店での食事会がある。そういうときは社長も一緒で、この光景は何度か見たことがあった。
「いつもは大きな部屋ですから、今夜は緊張してしまいますね」
 通された部屋は、せいぜい五、六人ほどが入れる広さだ。だから、余計にプライベート空間に見えてしまっていた。
「たしかに、ここでは花井さんが気を遣ってしまうな。すまない。場所を変えてもらおうか?」
「えっ? いえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」
 そういうつもりじゃなかっただけに、社長に余計な気を遣わせて焦ってしまった。もちろん緊張するけれど、席を変えてほしいというほどではない。
 それに、社長はこういう雰囲気のほうが好みかもしれないし……。
「本当に大丈夫?」
「はい、もちろんです。とても、光栄なくらいですので」
 社長は再確認すると、少しホッとしたように私を促し自分も席へ着く。身のこなしのスマートさと、垣間見せられる優しさに、ますます尊敬の気持ちが大きくなる。
(奥様が、羨ましいかも……)
 と、初めて感じた気持ちを、心の中で急いで訂正をする。私はいったい、なにを思っているのだろう。
 少し優しくされたから、なにかを勘違いしてしまったのだろうか。
「花井さんが新入社員のときから応募していたデザイン画は、俺が社長に就任する前のものもあるだろう? 実は二年前から、コンペの審査のときに過去分も見せてもらっていたんだよ」
 社長が静かに話し始めて、背筋がピンと伸びる。彼の声が聞こえると、身が引き締まる思いだ。
「そうだったんですか? ありがとうございます。過去のものまで見てくださっていたなんて、本当に有難いです」
 きっと、どれくらい成長しているのか、そういう部分も審査されていたのかもしれない。それだけ真剣に選んでもらえたのだと思うと、嬉しさも増した。
「花井さんのデザインは、最初のときはありきたりだったんだよ。センスも、目のつけどころもいいのに、一歩足りなかった」
「その足りなかったものが、今回はあったということなんでしょうか……?」
 優秀賞を獲らない限り、総評をもらえることはない。落選してばかりだったから、自分がこれまでに成長しているのかどうか、いまいち分かっていなかった。
「あったよ。とても、よく伝わってきた。今までの花井さんのデザインは、自分の中でのテーマがぼんやりしてたんだろう。どこかで見たものだったけど、今回は全然違ったな」
「そんなに、違いましたか……?」
 社長の言葉にドキドキするのは、自分の今までやってきたことが認められていくようだったからだ。
 どこか期待しつつ次の言葉を待っていると、社長は私と視線を重ね穏やかな顔を向けた。
「しっかり軸ができたんだろうと、そう思わせるものだったよ。曲線ラインのリング、プラチナでもゴールドでも映える宝石のチョイス。そして、内側のデザインもね」
「あ、あの……。生意気な質問に聞こえたら、申し訳ありません。社長は、その“テーマ”を、どういうものだと思われましたか?」
 それは、彼を試すために聞いているのではない。私の伝えたい思いが、きちんと表現されているか確認したかったからだ。
「俺は、テーマは“人それぞれ”なんだと思ったよ。指輪ひとつにしたって、プラチナが映える人もいれば、ゴールドのほうが似合う人もいる。宝石だって色がある。いろいろなバランスを考えてデザインしたもので、特定のモデルや参考はなかったんだろうと思ったが……」
「そうなんです! 社長の仰っているとおりで、まさに個々を大事にしたデザインなんです。接客をしていると、本当にたくさんのお客様と出会うので。そして、皆さん似合うものが違うんですよね」
 思わず興奮して身を乗り出すと、社長にふっと笑われてしまった。笑う姿を初めて見て、目を丸くしてしまった。
(社長でも、笑うんだ……)
 そんなことはあたり前なのに、一社員である私の前でも笑顔を見せてくれたことに驚いたのだった。
 社長と一対一で会話をすると、想像以上に話しやすい。
「よく表現されていたよ。実を言うと、去年のデザイン画はいいところまでいっていてね。入賞まで、本当にあと一歩だったんだ」
「そうなんですか!?」
 そんな裏話まで聞けるとは思わず、どんどん気持ちが昂ってくる。その内、社長が頼んでくれていた料理が運ばれてきた。
「そう。二年前、初めて花井さんのデザイン画を見たとき、とても将来性のある人だと思ったんだよ。ジュエリーのことを、しっかり理解しながら描いてるなと。ただ、さっきも言ったようにテーマがぼんやりしてたから、表現力が追い付いていなかったんだ」
 社長は私に食事をするように促し、前菜のスープをゆっくり口に入れる。未だ、鼓動は速いままで、頭の中は興奮状態だった。
「なんだか、びっくりすることばかりで……。社長が二年前から、そんな風に思ってくださっていたことも、想像すらしていませんでした」
 濃厚で美味しいスープも、今夜は社長の言葉に集中して堪能しきれない。思いもよらない社長の気持ちに、心は激しく動揺していた。
「デザインにも、人柄は滲み出るからね。花井さんの仕事ぶりが日頃どんな感じかを、密かにチェックさせてもらってたんだ」
 さらっと衝撃的なことを言われ、呆然と彼を見つめる。社長は臨店のとき、私のこともしっかり見ていたということ?
「全然、気づきませんでした……」
 素直にそう言うと、社長はクスッと笑った。目が細くなる笑顔は、なんとも言えず甘く色っぽい。
 社内の人たちが、騒ぐ気持ちも納得だ。私だって、もし彼が既婚者でなければ、どう思っていたか分からない。
「そうだろうな。花井さんは、いつも業務に熱心で、俺の臨店もさほど気に留めてなかったし」
「えっ? そ、そんなことないんですよ。社長が臨店されるときは、本当に緊張感でいっぱいですから」
 慌てて言い訳をすると、彼はさらにクスクス笑った。こんなに笑う人だったのかと、それにも驚きでどぎまぎしてしまう。
「いいんだよ。花井さんが接客に集中しているのを見ていて、これだなと分かったから。いつも、お客様を観察してる。そうやって、感性を磨いてきたんだなと思ってね」
「私……、ジュエリーを学ぶために専門学校に通っていたんです。その頃、自分で作ったアクセサリーをネット販売していたことがありまして……」
「そうなのか?」
 この話は、店長と明日香さんにしかしていない。隠すつもりはないけれど、どことなく照れくささもあり黙っていたのだ。
 だけど、社長が私のデザイン画を思いのほか評価してくれていて、嬉しくて話してみたくなった。
「はい。どれだけ、自分の作ったものが認められるか知りたかったのもあるんです。でも、個人でやるには限界があって。趣味ならまだしも、仕事にはならなかったんです。それでもジュエリーに携わる仕事がしたくて、ビジュヘレーに入社したんですよ」
「なるほど。でも、ただジュエリーが好きというだけじゃ、うちに入社することはできないよ。きっと人事も、花井さんの将来性を見込んで採用したんだろうな」
「そう……なんでしょうか?」
 ドキンと、胸が高鳴る。仕事面で認められるということは、私にとってはとても大切なことだからだ。
「そう思うよ。デザイン画の課題が、就職試験の中にあっただろう? それがすべてじゃないけど、かなり参考にされるよ。自分でデザインするというのは、うちではメジャーなことではないけど、販売員としても必要なスキルに含まれているから」
「そう言っていただけて、自信になりました。ビジュヘレーでの商品化は、本当に夢だったんです。もちろん通過点ではありますが、少し達成感があるというか……」
 まさか、社長とこんな風に話ができるとは思わなかった。黙って静かに聞いてくれるからか、気がついたら胸の内を語っている。
 そんな自分も、受賞と同じくらい信じられなかった。
「花井さんのこれからが、俺も楽しみだよ。指輪の商品化について、花井さんに聞くこともあるだろうから、そのときは協力を頼むよ」
「はい! もちろんです」
 夢のような一日は、社長と二人きりのディナーで締め括られた──。

「家まで送るよ」
「えっ? いえ、それは申し訳ないので……」
 店を出ると、社長がそう声をかけてきた。そこまでしてもらうのは気が引けるのと、彼の親切心に少し混乱している。
 控えめに遠慮をすると、社長は気にしていない感じで答えた。
「大丈夫だよ。遅くなってしまったし、女性の一人歩きは物騒だろう?」
「ですが、片道でも一時間近くかかりますし……」
 郊外で一人暮らしをしているのは、家賃が安いからだ。その分、どうしても勤務地からは遠くなってしまう。
 いくらなんでも、送ってもらうのは気が引ける。そんな遠慮でいっぱいだけれど、社長は助手席のドアを開けていた。
「お祝いだから。気にせず、乗って」
「よろしいんですか? それでは、お言葉に甘えまして失礼します」
(本当に、いいのかな……?)
 奥様が待っていると思うのに、早く帰ってあげなくていいのだろうか。そんな余計な心配が頭を過るけれど、口には出せなかった。
 社長は、プライベートな質問をされるのが嫌いだと聞いているから。
「今日は、遅くまでありがとう。花井さんの学生の頃の話とか、またぜひ聞かせてほしい」
 シートベルトを締めた社長は、車を発進させる前に私に視線を向ける。社長に興味を持ってもらえたことは純粋に嬉しくて、恐縮ながらも頷いた。
「はい、ぜひまたお話しさせてください」
 車が発車され、私のマンションへ向かっていく。思っていた社長のイメージが少し変わり、彼のファンの気持ちもひしひし分かった。
 もっと素っ気なく、事務的な会話になると思っていたのに……。
「それにしても社長のお車って、とてもいい匂いがしますね。人工的な香りとは違うような……」
 生花でも置いてあるのかと思うほど、自然で品のいい匂いがしている。店へ来るときも思ったけれど、この匂いだけでも車内が心地よく感じられた。
「フランスから、取り寄せてる芳香剤なんだよ。好みでね」
「フランスですか? 凄いですね……」
 好みって、社長と奥様のどちらなのだろう。社長の言葉一つひとつが、なぜか気になってしまう。
 わざわざフランスから取り寄せるくらいだから、きっと奥様の好みなのだろう。
「花井さんはジュエリーの専門学校に通ってたと言ってたが、いつ頃からアクセサリー作りに興味を持ち始めたんだ?」
 社長はハンドルを握り、真っすぐ前を向いたまま話をする。彼の横顔も綺麗で、気を抜くと見惚れてしまいそうになった。
「小学生の頃なんです。たまたま母から、ビーズのアクセサリー作りを教えてもらったのがきっかけで。とても、楽しいなって思ったんです」
「そうなのか。子供の頃の経験って、本当に大切だったりするよな。花井さんのデザイン画を見ながら、経験が長いんだろうなとは感じてたんだ」
「社長は、やっぱり凄い方です。私のデザイン画だけで、そんなことまで分かるんですか?」
 三十二歳という若さで社長になったことも、自身が制作した指輪が大人気なことも、彼と接しているとより納得できる。
 社長こそ、ジュエリーに対するセンスが抜群だし、経営者としても本当に有能な方だと思う。感心するようにため息をつくと、社長は静かに微笑んでいた。
「周りの人たちの才能を、見つけることが好きでね。俺自身もジュエリーのデザインをするけど、デザイナーを目指していたわけじゃないんだ」
「そうなんですか!? でも、社長がデザインされたリングは、結婚指輪の定番として雑誌でも人気ナンバーワンで紹介されてますよ?」
 特に、結婚情報誌では取り上げられないことはないほど、定期的に大きく紹介されている。驚いていると、社長に苦笑された。
 こんな顔もするのだと、垣間見える一面に、心が揺らされてしまう。
「この業界に興味を持ったきっかけは、ニューヨークの大学に通っていた頃、現地の友人からビジュヘレーのデザイナーを紹介されたことなんだよ」
「ニューヨークの大学で、ビジュヘレーのデザイナーを紹介……ですか?」
 なんだかスケールが違い過ぎて、呆然としてしまう。改めて思ったけれど、私と社長がこうやって普通に会話をしていることすら奇跡なのかもしれない。
「そう。その方は、俺がその後お世話になった上司になるわけだけど、初対面で彼からデザイン画を描いてみてと言われたんだ」
 社長は、懐かしそうにフッと笑っている。きっと、彼にとって素敵な思い出なのだろう。そんな話を聞けて、今を贅沢な時間に感じていた。
「それで、社長は描かれたんですか?」
「ああ、描いたよ。大学では経営学を専攻してたんだけど、ジュエリー業界が好きでね。それで、学生なのにそんな課題を出されたんだよ」
 ハハッと笑う社長を見て、私も笑みが浮かんでくる。そして、もっと話をしたくなった。
「社長は、どうしてジュエリーに興味を持たれたんですか?」
「一言で言えば、夢だな。ジュエリーを選ぶときのお客様の期待に満ちた笑顔には、全力で応えたいと思うから。夢が詰まった業界だろう?」
「はい……」
 夢なら、社長の心にこそ詰まっている。仕事の話をしているときの彼は、本当に表情が生き生きしていた。
「そのときは、総評を貰っただけでね。大学卒業時に声をかけられて、入社したんだ」
「凄いです。そのときのデザイン画が、きっと心を動かしたんでしょうね」
 私が知っている限り、社長の活躍を見れば、そのエピソードは理解できる。ビジュヘレーにスカウトで入社できるなんて、社長くらいの人でないと無理だと思う。
「デザイナーの仕事もしながら、経営面に関わる機会も与えてもらえてね。今こうやって、社長職に就いているってわけだよ」
「お話を聞いてる限り、社長はもう別世界の方です。最初から、経営面に携わられていたんですか?」
 車は高速道路を走り、私が住んでいる街へ向かっている。渋滞はなくスムーズに走り、規則的に明かりが車内に差し込んでいた。
「まさか、それはないよ。最初は、花井さんと同じように接客もしていたんだ。ただ、上得意先のみをね。別室やお客様の自宅で、販売をしていたんだ」
「上得意先……。そういう販売のやり方があるとは知っていましたが、社長がそのお仕事をされていたなんて」
 あ然とするのみで、世界の違いを思い知らされるばかりだ。上得意先には、店舗外で接客をするとは聞いていたし、専任のスタッフがいることも知っている。
 ただそれは誰でもできるものじゃなく、選ばれたスタッフのみだ。だから私の身近には、経験者はいない。だからこそ、社長は本当に有能な方なのだ。
(スタートラインから、全然違うのね……)
 コンペで最優秀賞を獲ったことで、これだけ浮かれている自分が小さく見えてしまいそう……。
「後輩や部下のフォローをしたり、夢を持つ社員を応援するほうが性格に合っているらしい。だから、今の仕事はより楽しく感じるよ」
「社長のほうが、夢を与えてますけどね。自分が、ちっぽけに見えてきます」
 思わず苦笑をしてしまう。社長がどれだけ雲の上の人か、一緒にいればいるほど分かってしまうからだ。
 気がついたら自宅マンション前に着いていて、社長はハザードをつけて停車した。
「ここでよかった?」
「はい。ありがとうございます」
 ここは単身用のマンションで、比較的新しい建物だ。セキュリティがしっかりしているから、女性の入居者が多い。
「今夜は、いろいろとありがとうございました。コンペの受賞は夢みたいでしたし、社長とお話しできたことも本当に光栄でした」
 車を降りる間際、社長にお礼を伝える。これからも、臨店などで話をする機会はあるかもしれない。だけど、今日ほど社長と会話をすることはないと思う。
「こちらこそ、花井さんの話が聞けてよかったよ。それから、俺はきみがちっぽけだとは思ってない」
「社長……」
 なにを言えばいいのだろう、なにを言いたいのだろうか。さりげない言葉なのかもしれないけど、胸が熱くなっていた。
「花井さんのセンスや向上心。それから努力は、簡単に真似できるものじゃないよ」
「ありがとうございます……」
 アクセサリーを自分で作っていたときから、誰かに認めてもらいたかったのだと思う。自信が欲しかったし、自分の進む道が間違っていないと感じたかったから。
 それを、社長にしてもらえたことに感動して、彼と別れてからそっと涙を拭った──。

(――つづきは本編で!)

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