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公爵様との年の差初恋は薬草の庭で実りました

「……妻よ。我が魂も体も、あなたのものだ」

あらすじ

「……妻よ。我が魂も体も、あなたのものだ」

社会人を経て薬学生となった花音は『夢女子』と言われ、周囲から疎まれている。かつて、未知の植物ワタリ草を使って異世界から現れ去っていった、かっこよすぎる公爵ヴィンスを想い続けているからだ。彼にプロポーズまでされているものの、去ってしまったヴィンスの存在は証明しようもない。――もどかしい日々を送って気づけば三年。月夜に照らされ、彼はようやく花音の元に戻ってきた。しかし、運命的に再会した彼はやけに大人びていて…?

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作:水田歩
絵:noz
デザイン:RIRI Design Works

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   プロローグ 〜月光の庭で〜 

 今度の誕生日で二十六歳となる草吹花音《くさぶきかのん》は、所属する漢方薬学部のゼミで『夢女子』と噂されている。

 プロポーション抜群な女子学生ばかりの中、スレンダーな体つき。現役生より年長であるのに少女のような面立ちは、化粧をしていない。背中の半ばまで伸ばし、パーマをかけたことも染めたこともなさそうな黒髪は後ろで束ねただけ。おとなしそうで、世間知らずにも見える彼女の外見は、ある種の男を惹きつける。
「草吹さん、ヴァージンなんだろ。わかってるよ、重く感じてるんだよな? 俺が捨てさせてあげる」
 ゼミの忘年会で、男にラブホテルに連れ込まれそうになった。
 余計なお世話だ、この強姦魔! 物騒な言葉を無理やり飲み込んで、抵抗する。
「触らないで! 私はヴィンス一筋なんだからっ」
 男が片眉を上げて花音をせせら笑う。
「……は? 誰それ、外タレ? その年で、まだ芸能人に入れあげてんの? さっすが夢女」
 知らない言葉で人をバカにすんな! それにヴィンスは映画俳優やモデルなんかじゃない、私の大事な人なんだからっ。いろいろ言いたいが、掴まれた腕を取り戻すのに必死で、声にはならない。ようやく渾身の力で振り払う。再び捕まらないうちに、駅の方へと駆け出した。
「キモい女! 一生、処女やってろ!」
 背中に罵声を浴びせられて、逃げながら思う。処女じゃないし! 大事なことなので、花音はしっかりと心の中で否定する。初恋の人ヴィンスと、キス以上のことをしたのだ。
 年明け。ゼミの講義室に入ったら、侮蔑のくすくす笑い込みで噂されていた。
「草吹さん、処女なんだって」
 女子達の後ろで、噂を広めた男がニヤニヤしながら花音を見ていた。やることが低レベルすぎて、どん引きである。大体、経験の有無でマウント合戦して、なにが楽しいんだろう。不思議に思うものの、中傷誹謗は地味に効く。
「夢小説にハマってるって」
 ハマってて、なにが悪い。……正月休みに「夢女」と検索したら「夢小説」もでてきたから、今は花音も意味を知っている。大好きな人に会えない、触れられない。せめて夢の中では、ハッピーでありたい。小説で自分がヒロインになり、好きな人と恋仲になりたい。それのどこがいけないの。わかりみしかない。私もヴィンスに抱きしめてほしい。と、花音が切望したとして世界にどれほどの悪影響があるというのか。
「えー? あの人、確か社会人入学だから、ウチらより三歳も上なのに?」
 ……私だって現役で入りたかった。
 花音は高校を卒業してから、学費や生活費を作るために働いた。三年後に大学へ入ったら同級生は年下ばかりで、話題についていけない。花音はいたたまれなさから規定単位数より多く授業を受け、空いている時間は講義のための準備かバイトに充てていた。コンパや遊びには参加せず、教授お気に入りの花音は周りから疎まれている。
「ボッチだもんねー。そのうち二次元彼ぴを紹介されたりして?」
「ばか、シー!」
 気にしない。しても仕方がない。彼の存在は証明しようがないし、信じてくれない人を相手にする気もない。
 ヴィンスはいつだって月光の中、花音の自宅の庭へ訪れる。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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