作品情報

強面騎士団長は、推しの給仕娘を愛しすぎている~可愛すぎるだろうがッッッ!!(心の声)~

「小さい体……肩も腕も……唇までも……」

あらすじ

「小さい体……肩も腕も……唇までも……」

横暴な経営者に楯突き、給仕娘をクビになったレスリー。途方に暮れた孤児の彼女に手を差し伸べたのは、いつも無口な謎の常連客――こと教会騎士団の団長・ギルベルトだった!!突然紅一点の雑役婦となったレスリーはいつしか恩人の彼に淡い恋心を抱くが、寡黙なギルベルトは彼女に冷たくて……。しかし夢見よく目が覚めたある日、どこからかよく知る低い声が聞こえてくる――『好きだ‼ この世界の、誰よりもッッッ!』出所はギルベルトの【心の声】!?恋に奥手な団長を何としても振り向かせたい……レスリーの闘い(?)が今始まる!

作品情報

作:小達出みかん
絵:逆月酒乱

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一 幸運は突然に

 朝起きると、お花の形にくりぬかれた年代物の天窓から、青い空ともくもくとした白雲が見える。
 透きとおった空に、浴びると元気いっぱいになりそうな明け方の太陽の光。今はおそらくちょうど、朝の六時だ。
「おお~~~。なんてすばらしい目覚めなのっ」
 レスリーはずばんと起き上がって、貝殻の形をした陶器の洗面台で顔を洗いに向かった。
 ――なんとこのお部屋には、専用のバスルームがついているのであるっ!
 レスリーが高い塔の中のこの部屋に越して、数週間が経つ。にもかかわらず、毎日毎日起きた瞬間に感動してしまうのだった。
(日の光の差し込むお部屋っ! ふかふかのベッド、蛇口をひねれば水が出て、制服もたくさんあって……っ!)
 クローゼットを開ければ、支給されたお仕事用の服とエプロンが並んでいる。どれも、もともとレスリーが持っていた服たちより、数十倍上等のものだ。
(最高すぎるぅ……! 神様、このレスリーめに幸運を恵んで下さりありがとうございますっ)
 思わず両手を合わせて天を拝む。
 真っ白で清潔なシャツに袖をとおし、小花柄の赤いスカートの上に、エプロンのひもを前結びにして準備完了! ……のはずが。
「んっ⁇ なんかひも、前より短くなってない……?」
 なんかスカートもキツイような。レスリーは恐る恐る、鏡に映る自分の姿を見た。
 そしてちょっと、顔がひきつる。
(前より……前より嵩が増してない⁉ 私の体……)
 見たくない。見たくない――が。
(こ、ここでちゃんと現実見ないとダメよ……ッ!)
 そして、鏡の中の自分にしっかり目を合わせた結果。
「うん……私、太ったね……ッ!」
 声に出して、現実を認める。レスリーはしおしおとエプロン前結びをあきらめ、しゅるっと後ろ側でリボンを結んだ。これなら十分な長さで結べるからだ。
(あ~~~あ……)
 こんな数週間で、明らかに服がきつくなるほど太ってしまうとは。
(このままじゃ大変なことになっちゃうよ……風船みたいになったらどうしよ……ごはんが、ごはんが美味しいのがいけないんだよ‼)
 いや、人のせいにするのはよくない。
「よし、今日から節制だ!」
 そう決心して、レスリーは部屋を出て、いくつかの廊下を渡って階段を下りて厨房をめざした。
 この荘厳な建物、人呼んで『聖ミスティア教会』は石造りの大きな城塞で、食堂があり、中庭があり、医務室があり、騎士たちの宿舎があり――まるで一つの街みたいになんでもあるのだ。歴史ある建物で大昔から増改築を繰り返していたらしく、建物はなかなかに入り組んでいる。
(迷路みたいで楽しいけど……私の部屋から下まで行くとなると、けっこう時間かかるんだよね!)
 けれど、痩せるには好都合かもしれない!
 そう思ったレスリーは、食堂に下りるための分岐点で、あえて長いほうの階段を選んだ。
 すると、階段の先に、大山みたいな黒い背が見えて、レスリーの全身に緊張が走った。
(うわっ……団長さまだ!)
 彼はレスリーにとって憧れの人であり、この幸運にあやかれた大恩人なのだけれど、それはそうとして、今はちょっと会いたくなかった。
(うぅう、私に気がつかないで……)
 そろり、と引き返そうとしたそのとき、騎士団長・ギルベルトが振り向いた。
 燃えるような赤い髪に、鋭い緑色の目。強面のその顔と目が合うと、どうしたって狼に睨まれたウサギみたいな気持ちになってしまう。
「あっ、団長さま! おはようございます……!」
「……おい」
 レスリーに気がついたとたん、ギルベルトは階段をこちらへと上ってきた。
(ひいい! な、なにッ⁉ 私なんか悪いことした……⁉)
 レスリーの数段下で、ギルベルトは止まった。
(ひえっ……階段の下に立ってても、私見下ろされてるッ……!)
 緊張しながらも愛想笑いを浮かべたレスリーの耳に、大音量が響き渡った。
『けしからんッッッ‼』
 うわんと頭の中で、ギルベルトの『心の声』が聞こえる。
『今日も……かっっっっ……可愛すぎるだろうがッッッ‼』
「うッ……」
 あまりの大きな音に、レスリーは足元がふらついた。
『どうした⁉ まさか具合が悪いのかっ……? 俺のレスリーがッッ‼』
 レスリーの腕を、がしっ、とギルベルトが掴む。
「だ、団長さま……」
 見上げたその顔は、どこまでも無表情で強面だ。地面の石ころに向ける顔とそう変わらないに違いない。
「大丈夫か」
 地獄の低重音で聞かれて、レスリーはやっとのことでこくこくうなずいた。
 と同時に、また彼の『心の声』がさく裂する。
『さ………ッ、触ってしまったッッ‼』
 やけどに触れたように、彼の手がばっとレスリーの腕を放す。その反動で、レスリーはまたふらついた。
「おっとと……」
 レスリーは手すりに手をついてちょっとうつむいた。
 ここ数日、ちょっとしたハプニングのせいで、レスリーはギルベルトの『心の声』が聞こえるようになってしまっていた。
 しかし、ギルベルトは当然そのことを知らない。
(うっ、ううっ、団長さまが、私に心の声を盗み聞きされてるって知ったら……!)
 そんなの自分だって嫌だ。こうして秘密の声を聴かれているなんて。
 ――まずい。無駄に頬が熱くなる。
(ごめんなさい! 団長さま! だからちょっと、もう、先にいきまーーす!)
「失礼しますッ!」と礼をして、レスリーはバビュンと彼を追い越し階段を走り下りていった。後ろに結んだエプロンの紐がはためく。
『なんだとっ⁉ 今日はエプロンが後ろ結びじゃないかッッ』
 ギルベルトの『心の声』が追いかけてくる。レスリーは走りながら耳をふさいだ。
『一体どんな心境の変化があったんだッッ‼ だがっ……かわいいからよしッ‼』 
 しかしそれでも、頭の中に直接響いてくる!
(ひぇぇぇ~~~! ごめんなさいっ、団長さま――!)

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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