「俺のものになれ。いつでも可愛がって褒めてやる」
あらすじ
「俺のものになれ。いつでも可愛がって褒めてやる」
恋人に裏切られ、自分が浮気相手だったと告げられたOL・未亜は、茫然自失のままその場を離れる。お洒落なバーでやけ酒をしていると、隣から聞き慣れた声が聞こえてきた。その声の主は、職場の御曹司であり直属の鬼部長、怜司。思わず彼に愚痴をこぼすと、失恋の痛手が少しだけ癒された気がした。未亜は酔った勢いで「私を慰めると思って、いい男がどんなのか教えてください」ととんでもない誘いを口にしてしまう。初めて見る怜司の優しげな目に見つめられて、距離感が狂っていく。「いい度胸だ。なら、鬼らしく手加減なく啼かせてやるよ」触れてほしい。虐めてほしい。未亜の心には淫らな望みがいっぱいになって――。
作品情報
作:Adria
絵:逆月酒乱
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11/15(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)
本文お試し読み
プロローグ
――どうかしてる。
そう思うのに、自分の頬に触れる手の熱さと鼻腔をくすぐる彼の匂いが、いとも容易くその考えを濁らせる。
「部長……」
震える声で彼を呼ぶと、まるで何も言うなというように彼の熱い唇が自分の唇を塞ぐ。キスをされたのだと自覚したときには、花村未亜《はなむらみあ》は上司である綾川怜司《あやかわれいじ》の体の下にいた。
服の上からでも分かる逞しく引き締まった体。そして彼が放つ少し刺激的でスパイシーな香りと、そこに僅かに混ざるアルコールのにおい。その香りと彼の力強い腕に包まれて、未亜は小さく息を詰めた。
どうしてこんなことになっているのだろう。怖くて苦手な上司に組み敷かれて、なぜこんなにも胸がときめいているのだろうか。自分の気持ちなのに考えてみても分からなかった。分かるのは、今夜彼に抱かれるということ――
未亜は壊れそうなくらい激しく鼓動を打つ自身の心臓の音を聞きながら、躊躇いがちに怜司を見た。瞬間、凛々しくて鋭い瞳に射貫かれる。
「……っ!」
「花村」
キリッとした眉にスッと通った鼻筋、それから芯の通った意志の強い瞳。
普段は簡単に揺るがない彼の目が、今は優しげに細まって未亜を捉えている。そして甘やかな声が、未亜を呼んだ。
ただそれだけのことなのに、心臓がどくんと大きく跳ねて体温が上がる。
(私、どうしたの……変だわ)
怖く厳しい上司が、打って変わって甘い雰囲気で未亜の興奮を引き出してくる。怜司が作る場の空気に呑み込まれてしまいそうで、未亜はふいと目を逸らした。
今日は早く仕事が終わったから久しぶりに恋人に会いに行った。そうしたら恋人が見知らぬ女の肩を抱いて歩いていたのだ。問い詰めると、お前のほうが浮気だと罵ってくる始末。つらくて悔しくてバーでやけ酒をしていたら、偶然怜司と会い盛大に彼に愚痴った。そしてお酒といつもとは違う彼のギャップにあてられ、つい彼の家まで付いてきてしまったのだが、いざそうなると本当にこんなことをしていいのだろうかという疑問が脳裏をかすめる。
(で、でも、こんな部長……滅多に見られないし。正直もっと知りたい……)
仕事以外での彼の表情をもっと見たい。どんなふうに女性に触れるのか知りたい。何より裏切られ傷ついた心を癒してほしかった。飲み過ぎたお酒が未亜の背中を押す。
怜司が恋人に捨てられた未亜を憐れんで慰めてくれるというのなら、今だけは上司と部下というしがらみを忘れてこの甘い誘惑に身を委ねてもいいかもしれない。いや、委ねたい。
「部長、私……」
「怜司、だ」
「怜司さん、嫌なこと全部忘れたいです。忘れさせて?」
命じられるまま、彼を名前で呼んだ。気恥ずかしさもあったが、それ以上に強い興奮と期待が未亜を包む。熱でうかされた目で怜司を見つめると、彼が満足げに笑ったので、未亜はそれを了承と受け取り彼の背に手を回してそっと目を閉じた。
「いい子だ」
すると、彼の低い声が耳朶を打つ。優しく甘い声で褒められて、未亜は胸が高揚していくのを感じていた。
(部長から褒めてもらえるのって、こんなに甘美なんだ……)
それはまるで毒のように未亜の体に染み込んでいった。
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