「……じつは俺、もうきみを帰したくないんだ」
あらすじ
「……じつは俺、もうきみを帰したくないんだ」
ジリアノ国終戦百年を目前に、生家の命により出資先のダフネ騎士団に入団した伯爵令嬢・マリーナ。見習いとして精一杯に努める彼女であったが、理不尽な理由により男子騎士団員からの明確な嫌がらせを受けることとなる。そんなマリーナを助けたのは、彼女の出自を唯一知る騎士団長・ファウスト。一見表情がなく、温情も敵意もなにもない壁のような男。だが、二人きりになって初めて知る彼の素顔はひどく優しく、彼女はその姿に心を奪われていく。薄暗い団長室で、潤んだ瞳に貫かれると、マリーナは動けなくなってしまう。「俺はきみのことばかり考えてる」――気持ちに蓋は、できなかった。彼の獣欲を目の当たりにし、腹の奥から温かいものが突き上げて……。
作品情報
作:日野さつき
絵:ぼんばべ
デザイン:RIRI Design Works
配信ストア様一覧
2/14(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)
本文お試し読み
始
舌や指先、ふれ合った肌の温度だけでも翻弄されてしまうのに、たくましくなった彼に貫かれたらどうなってしまうのか。
のしかかってくる彼の下腹部で、すでにかたちを変え天を仰いでいる。きまりが悪そうに彼が目を逸らす姿にさえ、マリーナは胸を躍らせていた。
彼が興奮していることが嬉しい。自制しようと懸命になっている姿が愛しい。荒くなった吐息に恍惚とし、マリーナは彼の背中に腕をまわしていく。
そこには優越もあった。
高潔さで高名な彼が劣情を見せるのは、マリーナだけだ。夢中になって乳房に吸いつく彼を抱きしめるのも、マリーナだけだった。
「あ……っ」
そしてはしたないマリーナの姿を知るのも、彼だけだ。
肌をあらわにするのも、ひざを開いていくのも、彼だからこそさらけ出せる蜜事のひとひらだった。
ぬかるんだ秘所に彼の指が沈んでいく。自分の身体が深く反応するのがわかる――悦んでいる。
「……あぁ……あ、っん……」
はしたない音が淫裂から聞こえた。シーツの上で胸を反らし、目を閉じる。秘泉で指が戯れる音だけでなく、彼の吐息や身じろぎに合わせシーツが立てる音が耳に届く。
「い……っう、ぅあ……あっ」
腰が揺れはじめ、マリーナは彼の肩にひたいを押しつけた。
「マリーナ……なかが、うねって……こんなじゃ、俺がすぐ果てそうになるのも仕方ないよな」
「あぅ……っ」
否応なしに自覚するほど、自分の花孔が疼き、彼の指にむしゃぶりつくようになっていた。見上げたそこで微笑んでいる彼の瞳は、獣欲を隠していなかった。ありありと浮かんだそれにも当てられてしまう。
「私だけじゃなくて……一緒に」
それ以上の言葉は羞恥心から出せなかった。身体を明け渡す戯れ寝の場で、まだそんな羞恥心があることにいまさらながら驚かされる。
言葉の代わりに、マリーナは彼の頬にくちづけた――彼はそれだけでよしとせず、くちびるを重ねてくると餓えたように貪りはじめた。
「ぅう、……っん……」
息もつかせないくちづけのなか、彼が下腹部のそれをマリーナの肌に押しつけてきた。隠しようがないほど怒張は熱くなっている。マリーナは腹腔に溢れるような情欲に素直にしたがい、ふくらはぎを彼の足に押し当てこすりつけた。
「俺のこと……抱きしめてくれ」
マリーナは彼の背を引き寄せる。腕がまわらないほど彼の体躯はたくましく、たやすく開かされた双脚の根元に屹立が打ち込まれていった。
「あ……う、んぅ……っ」
前後をはじめた彼に合わせ、マリーナも腰を揺らしはじめる。蜜事でどれだけ積極的になっても、彼が揶揄することはなく――むしろ歓迎してくれていた。
「マリーナ、たくさんしよう。ずっとこうして……っ」
おびただしいほどの快感に満たされながら、マリーナはうなずいていた。
「……あっ、あ……っ、ずっと……一緒にいる……っ」
性急になっていく彼との快感に陶然とし、マリーナの肉欲は絶頂に向かっていく。
「マリーナ――愛してる」
その囁きが呻く声に呑まれる。打ちつけてくる腰が深いところで止まり、マリーナを穿っていた灼熱が大きく身震いした。
精を放つときの彼もまた、全身が疼きに包まれるほど愛おしい。力を抜き、体重を預けてきた肌を抱きしめ、マリーナはその耳元にくちびるを寄せた。
「私も……愛してる」
1
ジリアノ国首都デルカンは、思っていたよりずっと暖かかった。
関節が痛むから、と南の国に移住した大叔母を思い出した。ジリアノ王国に大叔母はもう帰省するつもりがないらしい。
「目的地、変えたら駄目かしら」
正直、少しばかり気が重かった。進路を変えて大叔母のもとに顔を出せば、きっと歓迎してくれる。大叔母の転居地は気候が温暖で、やり取りしている手紙では食べ物がどれもおいしいという。
「マリーナさま、式典までは」
「わかってるわ。サージ、式典が終わるまでに、デルカンのいいお店を調べておいて。一緒に行きましょう」
これから入寮することになるが、侍女は連れていけない規則になっていた。自分のことは自分でおこなうようになる。
入寮――首都デルカンに拠点を置くダフネ騎士団に、マリーナは入団することになっている。
騎士団内は男女で職務は分けられるが、統括するのは侯爵家の次期当主であり、団員は半数ほどが貴族の子女で占められているという。
スカートの裾をさばき、騎士団本部に向かう。
サージとトランクをひとつずつ持っていく。彼女はマリーナが荷物を持つことに不満たらたらだった。
彼女が不満をいうのはいまにはじまったことではなく、北に位置する領地を出る前から文句をいっていた。騎士団に所属すること自体反対しているのだ。だが当主である父の決定には逆らえない。騎士団への入団が通達され、はじめてサージが父を睨みつける姿を見た。
先王の御代からジリアノは平和であり、近々終戦百年を迎える。周辺諸国との関係も目立って悪いわけではない。諸国それぞれが水面下での備えを怠ってはいないだろう。しかし表立って感じ取れる開戦の気配などはない。
ダフネ騎士団にとって、終戦百年は節目になる可能性があった。
そのためにマリーナは入団するのだ。
「お嬢さま、怪我をしたことにしてみませんか」
不満に満ちた提案に、吹き出しそうになる。
「いまもこの先も、怪我なんてしないわ。そんなに心配しないで」
領地を離れる馬車に乗りこんでから、ずっとサージのその提案を聞かされていた。
本部正門はすぐ目の前に迫っている。
「ここまででいいわ――休日にでも顔を出すわね」
トランクを受け取り、サージに微笑みかける。生家――アルディーニ伯爵家が王都に所有する屋敷で、サージは管理人の名目で控えていてくれることになっていた。
「お嬢さま、ご無理なさらないでくださいね」
「ありがとう。じゃ、またね」
騎士団本部からアルディーニの屋敷まで、徒歩でもいこうと思える距離だ。
いつも見てきたサージの黒髪と黒い瞳、そこから離れるのははじめてのことだった。
正門に向かっていく。
ここからは、はじめての経験を重ねていくことになる。
胸が高鳴っている。
期待と不安がない交ぜのそれは、マリーナの歩みを後押しするものだった。
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