「隠さないで。全部、俺に見せて」
あらすじ
「隠さないで。全部、俺に見せて」
野良犬のように反抗的な伯爵令息・ウーヴェを、紳士へと育て上げるため、家庭教師として尽くしてきたコルドゥラ。三年間の集大成として、彼はついに夜会デビューを迎える。ウーヴェの好意には、ずっと気づいていた。けれど、6歳も年の差がある自分と将来有望な彼――釣り合うはずがない。そう思いながらも、夜会後、ふわふわとした高揚感の中で酒杯を交わした。酔いが回るにつれ、二人の距離は縮まり、触れる指先が熱を帯びる。「約束だったよな? ご褒美くれよ」低く囁かれた瞬間、息が詰まり――気がつけば事後だった。「閨のレッスンだと思って忘れて」震える声でそう告げ、コルドゥラは逃げ出した。胸の奥で鳴り止まない鼓動を抱えたまま……。
作品情報
作:猫屋ちゃき
絵:カトーナオ
配信ストア様一覧
4/11(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読み
プロローグ
「先生、俺を見てくれ」
熱のこもる声と視線でウーヴェが言った。
窓から射し込む月明かりに照らされた金の髪がキラキラして、きれいだなとコルドゥラは思う。
つい今しがた教え子に押し倒され、口づけをされたばかりだというのに。
酩酊しているから正しい判断ができなくなっているのだと頭の片隅ではわかっているものの、彼を振り払うことができなかった。
彼が今、必死な気持ちで自分を見つめているのがわかるから。
「コルドゥラ先生、ちゃんと俺を見てくれ」
「……見ているわ」
彼の灰青色の瞳に見つめられ、コルドゥラは答える。そういう意味ではないとわかっているものの、何も返事をしないでいることは無理だったから。
そのくらい、彼が必死なのが伝わってきた。
「なあ……俺のこと嫌い? 嫌いなら、この手を振り払ってくれ」
切ない声でウーヴェは言った。
眉根を寄せて、苦しみに耐えるような表情で言われて、ずるい……とコルドゥラは思う。
彼は教え子だ。
家庭教師として、彼を立派な紳士に育てるのがコルドゥラの役目である。
彼が教師である自分に懐くのは当然のことで、思慕と恋慕を取り違えているだろうことも理解できている。
理解できているのに、今この手を振り払えば彼がとても傷つくのがわかっているから、できない。
これまで傷ついて生きてきた彼をこれ以上傷つけたくなくて、彼の心に傷をつける存在になどなりたくなくて、できない。
それに、ともに三年間過ごしてきた教え子のことが、コルドゥラも可愛くて仕方がないのだ。
「……振り払わないってことは、受け入れてくれるんだな」
「ん……」
二度目の口づけをされた。
先ほどよりも激しい。
一度目の口づけは荒々しく唇を押しつけてくるだけだったのに、今度の口づけは舌をねじ込まれた。
歯列を何度も何度も舐められるうちに、息苦しくなってつい口を開いてしまった。その隙に、口内に舌が侵入してくる。
ウーヴェの舌が、コルドゥラの舌を捕らえる。絡められ、啜られ、コルドゥラは全身にゾクゾクとした感覚が走るのを感じた。
頭の芯が熱を持ってクラクラしてくる。息ができていないからかと思ったが、きっとそれだけではない。
「俺、今日の夜会でちゃんと頑張れただろ? 約束だったよな? ご褒美くれよ」
唇を離したウーヴェが、先ほどよりもさらに悩ましげな表情で言う。
その表情の意味がわからないほど、コルドゥラは初ではない。下腹部に押し当てられる硬い感触が何かを、経験はなくとも知識では知っている。
「ご褒美……」
「俺、コルドゥラ先生が欲しい」
「……っ」
まっすぐな瞳で射抜くように見つめられ、コルドゥラは自身の体に稲妻が走るような感覚がした。
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