「今度こそ、頷いてください。あなたを抱きたい」
あらすじ
「今度こそ、頷いてください。あなたを抱きたい」
就職活動中に出会ったプラチナブロンドの彼、利央と、四年越しの約束を果たす時が来た。名前も知らない間柄だったけれど、次に再会した時には必ずセックスの誘いに応じると、友梨香は約束したのだ。
スイートルームで極上のひと時を堪能し、これきりと思って別れた朝。職場で再会した彼は、なんと友梨香が勤める企業の御曹司で……!
作品情報
作:桜旗とうか
絵:高辻有
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本文お試し読み
●プロローグ
高平《たかひら》コーポレーションの九月はめまぐるしく過ぎていく。決算月ということもあって、ギリギリまで営業に駆けずり回る社員も多い。かくいう私も、今日は夕方まで新規契約の獲得に奔走していた。
この三年、高平コーポレーションの業績は芳しくない。私たち営業は、その成績を物理的に上げることができる存在だ。だから、とにかく契約を取って、あるいは新規プロジェクトを立ち上げて成功させなくてはならない。
「私、そろそろ帰るけど……」
「新藤《しんどう》さん、お疲れした~」
後輩が死にそうだ。明日生きてるかな。
「……手伝おうか? 大丈夫?」
「大丈夫す。あとちょっとなんで。新藤さんもここのところまともに帰れてないし、今日はゆっくりしてください~」
「うん……ありがと。それじゃあお疲れ様」
九月末の営業部は、当日中に帰宅することも難しい。日付が変わり、終電がなくなって仮眠室に泊まり込むことも珍しくない。この時期はいろいろと終わってるなと思う。肌はガサガサに荒れてしまうし、ゆっくり休めないし、生活のリズムも確実に狂う。
今日、ご飯食べたっけ。
なんだかお腹が空いたな、と気づくのも一日が終わってからだ。
会社を出て駅へ向かった。改札を通り、ちょうど到着していた電車へ乗り込み、二駅だけ運ばれてすぐに降りた。乗換駅でもないし、自宅の最寄り駅でもない。しいて言うなら、かつて通っていた大学の最寄り駅。そこで途中下車して、改札を出た。駅前にあるコンビニに入り、コーンマヨのパンをひとつと缶ビールを一本買う。そうして近くの公園に立ち寄って、仕事終わりの一杯を楽しむ。
人通りの多い通りを眺めながらパンをかじった。コーンの甘みと、こっくりとしたマヨネーズの風味が好きだ。ビールのプルタブを押し開け、爽やかな音が聞こえたあと、一気に喉へ流し込む。シュワシュワとした炭酸が喉を刺激した。
「美味しいー!」
この一週間は苛烈すぎてここへ立ち寄れなかったことは気がかりだったのだが、それですれ違ったのだとしたら、そういう巡り合わせなのだと諦めようと決めていた。
……もう、諦める時期なのだ。
「四年……と半年か」
自分でも馬鹿だなと思う。四年以上前の約束を未だに果たされるかもしれないと思っているのだから。あんなもの、その場しのぎの言葉に過ぎない。それなのに。
「あれから彼氏もできなかったしなぁ……」
約束に義理立てしたわけじゃない。仕事が忙しくて、つらいことも多いがそれでも楽しくて、恋をしている場合ではなかったのだ。いまはもう仕事が恋人ですと言い張ってもいいかなと思っている。いや、それは負け惜しみかと一人で笑った。
「……一度も?」
不意に聞こえた声に、缶ビールを持つ手が滑りそうになる。そのあとおもむろにパンにかじりつき、目をしばたたかせ、何食わぬ顔で隣に座った人に目を向けた。
色素の薄い金色の髪。目を瞠るほど端整な横顔。その手にビールが収められているのが似つかわしくなくて、彼の手からそれを取り上げた。
「一度も」
問いかけに答える。彼はこちらを向いて微笑んだ。二十二時も過ぎた時間。街灯があるとはいえ、明るいわけではないから彼の瞳は黒く見えるけれど、暗青色だということを知っていた。
「……覚えてたの?」
「約束は守る主義です」
私は、彼と四年前にある約束をしている。
「あなたこそ、覚えていてくれたんですね」
「……約束は守る主義なの」
彼と同じ言葉を返すと、肩を抱き寄せられた。長い腕は私をすっぽりと包み込んでしまう。
「だったら話が早くて助かります。あの日の約束を果たしてもらいに来ました」
あの日、私は彼を拒んだ。そして、次に再会したときに応じると約束をしたのだ。
「今度こそ、頷いてください。あなたを抱きたい」
「……はい」
その誘いに、ノーはなかった。
都心部にある高級ホテルの最上階。スイートルームに誘われた私は、心臓が破裂しないことだけを祈っていた。
シャワーは浴びた。彼が気を遣ってあとに使わせてくれたのは幸いだったけれど、バスローブの紐がうまく結べなかったし、混乱しすぎてしっかり入浴をしたあとにメイクはしておくべきだろうかと洗面台の前を何往復もしてしまった。さすがに時間をかけすぎたのか、彼が心配そうに外から声をかけてきて慌てて飛び出す。プラチナブロンドの髪色と、ちゃんと覗き込めば青だとわかる瞳。彼はクォーターだと昔言っていた。
「倒れているのかと思いました」
その端麗な容姿にふさわしい、綺麗な声に穏やかな笑みが含まれる。
「大丈夫。でも、心配してくれてありがとう」
「お礼はぜひキスで」
そう言って彼は私の口を唇で塞いだ。抵抗なんて無意味だ。これから肌を重ね合おうというのだから、照れても仕方がない。啄むようなキスを受け、離れていく温度を名残惜しく思った。
「ベッドへ行きましょうか」
彼は、昔から変わらない。丁寧な口調で話し、穏やかに笑う。いつも近くにいてくれて、程良い距離感を保ってくれる。そんな彼との時間は心地よかった。
手を取り、私を促す彼の横顔をその肩越しに見つめる。通った鼻筋も彫りの深い顔立ちも、四年という歳月の中で曖昧になって、美化された記憶になったかもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。彼は間違いなく美しい。
これだけの美形が、なぜ私を誘うのだろうか。
その疑問は消えないけれど、いまこの状況は私が望んだものだ。あの日からずっと、冗談だ、本気だ、約束なのだからとあれこれ言い訳をしながら繋ぎ止めた、曖昧な誘惑。それが、現実になった。
寝室へ入り、ベッドへ座らされる。私がふっとひとつ呼吸をしたのを確かめたあと、彼が覆い被さってきた。柔らかく身体が沈み、体重がかけられる。顔の横に肘をつかれ、髪をそろりと撫でながら、ゆっくりと顔が近づけられた。鼻の先が一瞬掠めたのを合図に、唇が重なる。
「んっ……」
啄みながら、唇を舐められて濡らされていく。強引ではなく促すように口を開かせられると、舌が口内へ押し込まれた。
「ん……、ふ……」
彼のバスローブを縋るように掴み、与えられる感触の心地よさに意識が飛ばないよう懸命に堪える。荒っぽくはないが、情熱的だ。深く絡み合い、交わりながら口内を貪られる。粘膜を舐められると背筋が甘く震えた。歯列をなぞられ、口の端から唾液が溢れる。クチュクチュと水音を立てて互いを交えあうと、ゾクゾクと下腹部に疼きが走り、心拍数が上がって息苦しくなった。
彼が自らのバスローブを取り払い、続いて私のそれにも手をかけられる。するりと脱がされると、彼が眩しいものを見るように目を細めた。
「可愛い……」
胸元に目を向けて言われ、バストサイズを気にしてしまったけれど、おそらくそこではない。
「外していいですか?」
バスローブの下は下着を着けるべきか、と洗面台を何往復もする中で浮かんだ疑問に、身につけるという答えを出した私に向けて彼は「可愛い」と言ったのだろう。恥ずかしい、と思ったのは一瞬。すぐにホックが外されて取り払われてしまう。
「返事、してない……」
「嫌だと言われても、外してしまうものですから」
拗ねたように言ってはみたが、彼の答えは至極当たり前のことだ。だめだという意味がない。
彼が胸元に顔を伏せ、頂を口に含む。
「んんっ……」
舌先で先端を刺激され、硬く尖らされていく。手で柔肉を揉みしだき、指先が肉粒を掠める。空いたもう片方の手は下肢へ伸ばされた。
心臓がバクバクとうるさい。男性とこんなことをする自体久しぶりなのに、後ろめたさが尋常ではない。
「ね、ねえ……、名前、聞いてもいいかな」
四年前に約束を交わし、大事にそれに縋っていたけれど、実は名前すら知らないということが後ろめたさの原因だろうと思った。
「リオです」
嘘か本当かわからない名前だけれど、それでもいい。彼の色素の薄い髪に触れ、指に絡ませた。柔らかで癖がない。するりと指の間をすり抜けていく。私たちもこんなふうに、触れたのにすり抜けていくだけの関係なのかなと思ったけれど、彼の顔を見るとどこか照れたような表情が見て取れた。まるで、この再会を喜んでくれているようで――。
勘違いしそう……。
それでもいいか。ただの成り行きで誘われたわけじゃない。四年前に交わした約束があった。彼ならかまわないと思ったから頷いたのだ。
ショーツが脚から引き抜かれ、膝を割られる。内腿に手が滑り、そろりと秘された場所へ体温が迫った。花弁に優しく触れられる。
「ふっ……ぅ」
ただそれだけなのに、人に触られる刺激に慣れない身体は過剰なくらいの反応を示した。
彼の指先が秘裂を押し開く。そうしてぬるりと滑ったとき、自分でも驚いて顔が熱くなった。優しく触れられていただけなのに、そんなに濡れているなんて思ってもみなかった。ヌチュヌチュと擦られるたびに音が立ち、羞恥を煽る。
「んっ……」
恥ずかしすぎて消えたい。いくら久しぶりだからといっても、これではただの淫乱だと思われてしまいそうだ。だけど彼はそれを揶揄するでもなく、笑うでもなく、そっと身体をずらし、脚の間に顔を伏せた。
「ま、待って……! そんなこと……」
ちゅっと秘部へキスをしたあと、ねっとりと舐め上げられる。蜜と彼の唾液が混ざり合って強烈な刺激をもたらした。
「あっ……、あ、ぁっ……」
シーツを掴んで快感に流されまいと抵抗したが、身体は正直にもっととねだって腰を揺らす。それに応えるように、彼は花芯を優しく吸い上げた。
「んっ、あぁ……っ」
敏感な場所を柔らかく食まれ、脚が震える。熱を帯びて蜜が溢れ、花芽が熟れていくのが自分でも鮮明にわかってしまう。
膨らんで敏感になる芽を丹念に愛撫され続け、快感の高みへ押し上げられるのはあっという間だった。
「あっ……、ああぁっ!」
シーツを波打たせ、下肢が激しく痙攣する。白く弾けて絶頂へ意識が飛び、やがて身体が弛緩した。呼吸を荒らげ、ベッドの上で肢体を投げ出す。人に触れられ、上り詰めさせられるということは、こんなにも気持ちいいものだっただろうか。
ぼんやりと快感の縁に意識を漂わせていると、彼が首筋に顔を埋めてきた。舌を這わせ、鎖骨へ滑ったあと、胸元をちゅっと吸い上げる。
「あっ……、跡は……」
「だめですか? 見えないところにしか付けませんけど」
それならいいかと、彼の頭を引き寄せた。ちゅっ、ちゅっとひとつずつ、丁寧に赤く花を散らされ、くすぐったいような、気持ちいいような不思議な感覚に恍惚とする。無意識に彼の髪に触れて梳かしていると、手首を掴まれて手のひらに唇を押しつけられた。
「前にも言ったんですけど、僕、この髪があんまり好きじゃなくて」
「……、ごめんなさい。触られるの嫌だった……?」
「いいえ。あなたがそんなに大切そうに触れてくれるなら、悪くないなって思ったんです」
それを伝えたくて、と照れくさそうに彼が言った。
「綺麗だよ。私は好き」
目を覗き込んで伝えると、深く優しいキスをくれる。舌を絡ませ合って、快感に思考が蕩けていく。彼の背に腕を回して抱きしめると、それに応えるようにぴったりと肌を密着させ、呼吸も奪われた。
「んっ、ふ……」
銀糸を引いて唇が離れていく。そうして、彼の手に脚を大きく開かされた。はしたなく濡れる秘部を見つめられ、恥ずかしくて彼の身体をせめてもの抵抗として押し返す。けれどそれになんの意味もなく、薄く笑みを浮かべながら彼は自身に避妊具を装着する。そして、濡れそぼつ蜜口に欲望を押しつけてきた。
「んっ……あっ」
ゆっくりと押し入ってくる感覚にぞくりとする。身体が勝手に身構えたが、意に介する様子もなく彼は腰を押し進めてきた。
「あっ……、あっ、ん……」
膣壁を押し開き、屹立が侵入してくる。灼けるような熱さと圧迫感に眉根を寄せると、彼は瞼や頬にキスを落とす。労りながら、ゆっくりと進めようとするのは、彼なりの気遣いだ。そんなふうに扱わなくてもいいはずなのに、と思いながらもそれが嬉しかった。
ぬぷ、ぬぷと内壁が擦られていく。そのたびに彼のものを離すまいとして絡みつき、締め付ける己の身体に羞恥を覚えた。
「ッ……」
息を詰める彼を見上げ、切なげで苦しそうな顔にそっと手を当てる。向けられる瞳の奥には獰猛な本性が見え隠れした。優しげで、紳士的だけれど、彼は紛れもない雄なのだ。
根元までしっかりと自身を挿入したあと、彼はゆっくりと息を吐く。
「キツイですね……、大丈夫ですか?」
頷いた。幸いにも痛みはなかったから。けれど、内側に納められた熱塊の存在感に眩暈がする。隙間なくぎっちりと埋め込まれ、息をするのもままならない。浅い呼吸を繰り返していると、ゆったりとした律動で彼が動いた。
「あぁ……っ」
引き抜かれると呼吸は幾分楽になるが、突き入れられたときの反動に視界が明滅する。
「もう少し待ちますか?」
身体を撫でられながら聞かれ、私は首を横に振った。
「続けて……」
苦しい。だけど、擦られると気持ちいい。
彼が頷くと、今度は大きく腰を打ち付けられた。
「っぅ、あ……ああっ」
身体が仰け反る。逃げられないように腰を掴まれ、最奥をぐりぐりと擦られた。
「あっ、あ、ああっ……」
そのたびにビクビクと身体が震えて、つま先が浮き上がる。膝裏に手を入れられて脚を抱え上げられると、容赦なく抽送を繰り返された。
「は、あっ、ああ……、っあ、んっぅ」
せめてなにかを掴んでいなければ、とても自分を保っていられないと爪の色が変わるほどシーツを掴んだけれど、その手はあっけなく彼の手によって解かれる。指を絡めて手を繋がれ、そのままベッドに押しつけられた。
「あ……、リオ、くん……」
彼はかすかに笑みを浮かべ、応えるように動きが大きくする。肌がぶつかり合う乾いた音と、混ざり合う粘膜の水音が聞こえ、意識が遠くなりそうで彼の手をぎゅっと握り返した。内壁を抉られ、子宮口が激しく突き上げられる。
「あ、ああっ、んっ、く……ああぁ……っ!」
快感が弾けて絶頂へと押し上げられた。内側で薄い皮膜越しに彼の欲望が爆ぜて脈動する。ビクビクと震える私の身体を労り、宥めるように彼がキスを落とした。ずるりと中から彼自身が引き抜かれたとき、満たされた気持ちとともに、一抹の寂しさを覚えたけれど、ここ数日の疲労感には抗いきれず、彼の腕の中で意識を手放してしまった。
(――つづきは本編で!)