「本気で、君に夢中なんだ。これ以上他に何を言えばいいか、わからないくらい」
あらすじ
「本気で、君に夢中なんだ。これ以上他に何を言えばいいか、わからないくらい」
街評判の酒場「華夏の桃ノ木亭」を営むルヴィニアは、気前の良さと高い接客スキルで客からの評価も上々。だが、彼女には決定的な弱点があった――大の男嫌い(特に顔のいい男)。にもかかわらず、最近は副騎士団長のシズネが「パトロール」と称して周辺をうろつき、隙あらば口説いてくる。彼の美貌と強引さは、ルヴィニアにとって厄介極まりない悩みの種だった……それなのに。今、彼女はシズネと濃厚なキスを交わしている。なぜこうなってしまったのか、その理由はわかっている。結局のところ、こうなることを望んだのは――他ならぬルヴィニア自身なのだ。全身がとろけてしまいそうなほどの甘美な衝動を。めくるめく官能を。──誠に、不本意ながら。
作品情報
作:蒼凪美郷
絵:史歩
デザイン:RIRI Design Works
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4/4(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)





















本文お試し読み
◆第一話 銀髪長髪の男、お断り
もう二度と、男なんかに気を許したりしない。
特に、顔が良い男。それも銀髪かつ長髪だったら、絶対にお断りだ。
そう誓ったはずなのに。
「……っ、あ……だ、め……」
「だめじゃない、でしょ?」
「ん、む……」
目を開ければ、彫刻のように整った美貌。ルビーのような赤い眼差しが優しく見つめてくる。
すでに何度も彼の吐息を味わわされた。甘く、深くと。
それでも抗いたくなるのは、心根にある無意識からだろう。
「ほら、逃げないで。俺の唇は、こっちだよ」
距離を取ろうとするルヴィニアの頭を引き寄せて、唇を奪う。
柔らかな感触に唇が包まれ甘い感覚がもたらされると、自然と瞼を閉じてしまう。
まるで、彼とのキスを受け入れているかのように。
口づけをされると頭がぼーっとしてきて、本能がそのまま貪ることを強要してくる。
彼をほしがれ、欲に忠実になれとそう言って。
──そんなつもりはまったくないのに。
閉ざされようとしている視界の端で揺れたのは、ルヴィニアのために短くしたという銀色の髪だった。
顔が良く、そして銀髪で長髪だった彼の名はシズネ・ブランシュ。どうしてか気に入られてしまい、近頃目の前をうろつくようになった男である。
長髪に関しては「元」ではあるものの、嫌いな特徴にぴったりと当てはまる彼とキスをしているこの状況が不思議でならない。軽薄なノリで口説いてくるのが煩わしくて、ずっと塩をぶつけるような態度であしらっていたのに。
なぜこうなってしまったのか、その原因はちゃんと自覚している。
ルヴィニア自ら、こうなることを望んだのだ。
──誠に、不本意ながら。
「集中」
「ぁ、ンんっ……」
ルヴィニアの意識が口づけから逸れていることを察したのだろう。ちゅるりと舌を差し込まれるという柔らかな刺激で叱られた。
甘い感覚がじわりと広がって声が漏れる。
頭の後ろで、するりと布が解ける音がした。髪をまとめるために巻いていたスカーフを解かれたらしい。
彼のしなやかな指先が落ちてきたルヴィニアの桃色髪を掬い、くるくると弄ぶ。その感覚でさえ、甘くじんわりと伝わってくる。くすぐったくて、喉の奥がうずうずして──声が、漏れてしまう。
「ん……はぁ……ふ、ンぅ……っ」
こんな声をシズネに聞かせたくない。
だけど、口腔内を撫でながら絡みついてくる舌が翻弄してくる。それが、チョコレートのように甘くて美味しい。もっとちょうだいとねだりたくなってしまう。
お腹の底からじわじわとせり上がってくる愉悦が、ルヴィニアの抵抗を阻み、口づけに熱中させる。
「ん、その調子……このままもっと夢中になって」
「はぅ……んっ……ふ、ぁ……」
シズネの手並みはさすがの一言に尽きた。
彼の美貌に惹かれない女性はいないと言われているほどに人気の厚い騎士のようだし、やはり女性に慣れているのだろう。このままではこの男のキスの虜にさせられかねない、そう思ってしまうほどの技巧がある。
だからといって、こんなのはおかしい。ルヴィニアはどうしてもこの状況を認められなかった。
何度でも言うが、苦手とする男の特徴をすべて持っていた男なのである。煩わしくて避けていた、そんな相手とのキスでいとも簡単に我を忘れるなんて信じられなかった。
残っていた理性がとろとろと溶かされていくのを実感する。箍が外れてしまえばもう最後、シズネの口づけに溺れるしかない。
(だめ……気持ちいい……)
本当にどうしてこうなってしまったのか──とろけた脳が思い出したのは、そもそもの原因。
ルヴィニアの男嫌いのきっかけを作った銀髪で長髪の──そして、シズネに負けないくらい美しい男を思い出しながら、彼の甘くとろけるようなキスに溺れていった。
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