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期間限定恋人役のはずが、色気だだ漏れCEOの最愛を手に入れました

「愛してる。やっと……やっと両想いになれた」

あらすじ

「愛してる。やっと……やっと両想いになれた」

化粧品メーカーで働く紗枝は、憧れの業界で仕事一筋に生きてきた。ある日、後輩のウエディングパーティーに誘われた彼女は、「恋人と一緒に参加する」と約束したものの、実際には恋人などいない。というのも、苦手な合コン回避のために「超エリートの恋人がいる」と嘘をついていたからだ!困り果てた紗枝の前に現れたのは、新進気鋭のCEOにして、かつての上司・奏斗。再会した彼は、彼女に思いがけない提案をする。「恋人役に俺がなってやるよ」申し訳なく思いつつ奏斗に頼る紗枝だが、恋人役の“練習”を重ねる中で、彼の態度は甘く大胆に変わり始める。「せっかく捕まえたんだ。逃がすか」低く掠れた声で名前を呼ばれるたび、心は激しく揺さぶられ、色っぽすぎる仕草や視線に触れるたび、恋人役のはずだった二人の関係は、危うくも熱を帯びていき――。

作品情報

作:秋花いずみ
絵:稲垣のん

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2/21(金)各ストア様にて順次配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

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第一章

「よし、今日もノルマはクリアだ」
 メイクカウンターにある店舗用のノートパソコンに表示されている【八月度売上表】の数字を見て、ホッとしている私。
 佐々木 紗枝《ささき さえ》、二十六歳。桜景《おうけい》百貨店の化粧品売り場で働いている。十代のころから美容部員になりたいと強く憧れていた私は、高校を卒業してメイクスクールで資格を取った後、高い倍率を勝ち取り、念願だった美容部員になった。
 私が入社した化粧品メーカー【コレイユ】は国内でも比較的新しいメーカーで、ハイブランドほど高くもなくリーズナブルというほどの価格ではないけれど、OLやバイトをしている学生なら手が届くくらいの値段と、流行りを先取りしたカラーバリエーションが若い女性に受けて、売り上げは右肩上がりのメーカーだ。
 私は新入社員のときから仕事にだけは熱心で、売り場の誰よりも売り上げ貢献と自身の美容部員としての成長に全力を尽くした。
 そのおかげで二十六歳になる前に売り場のチーフを任され、売り上げも全店の上位に入るくらい結果を残している。
 ただ、仕事にだけは……というだけあって、プライベートは散々な日々を過ごしている。それは現在進行形で、仕事中心の生活は私に恋愛では枯れた生活をもたらしていた。
 もともと異性が苦手な私は、恋人は高校生のときに一人いたくらいでそれも短い期間で終わった恋愛だった。
 もっと愛嬌のある性格だったら異性にモテて、いい恋愛ができたのかもしれない。でも、私の性格はドライでクール、それに見た目は百六十七センチの高身長で顔も派手な顔立ちをしていて、可愛いというより同性から「かっこいい!」と言われるくらいだから、異性に好意を持たれることは少なかった。
 そしてクールな性格なのだから、このままでは恋人なんかできるはずがない。だから、二十六歳になった今でも、キス以上のことは未経験のままだ。
 学生時代の友達はほとんど結婚をしていて、もうすぐ子どもが生まれる子もいる。それなのに私ときたら、仕事ばかり一生懸命になって恋人の一人すら作れず、アラサーを迎えてしまった。
 仕事は大好きだ。ずっと目指していた美容部員になれてやりがいもある。今の自分を誇らしく思えるくらい、仕事を頑張る自分は大好きだ。
 そしてそんな私を慕ってくれるかわいい後輩もいる。彼女たちを一人前に育て上げ、私自身もお客様が求めるニーズを叶える美容部員にこれからもなり続けることが、一番の目標だ。
 そんな私を新人時代のころからずっと支えてくれている上司も、かつてこの百貨店にいた。その人の名前は吉川 奏斗《よしかわ かなと》さん。歳は私より三歳年上の二十九歳で、元桜景百貨店の化粧品売り場の係長で、今は退職をして学生時代の友人たちとデザイナー会社を立ち上げてその会社のCEOを務めている。
 彼のデザイン会社【クールウィルデザイン会社】は設立してまだ一年という若い会社だけれど、次々と実績を残し経済の雑誌で若手起業家の特集の一つにあげられるくらい、注目されている。
 その実績は吉川さんが百貨店時代に築き上げた人脈を生かし、化粧品の広告デザインから洋菓子や紅茶のブランドのパッケージデザインなど、女性にターゲットを絞った戦略が成功したと彼自身は言っていた。
 余裕を見せて語る吉川さんの姿は、とても素敵だと思う。お互い仕事を頑張るもの同士として、たくさんの刺激をもらい、私の目標となる存在だ。
 そんな吉川さんの容姿は、まるでモデルのような整った顔立ちに百八十五センチと高身長、そして学生時代はサッカー部で活躍していて、今でも趣味でフットサルを続けている。
 そんな彼と、今夜は同僚たちを連れて久しぶりの飲み会だ。吉川さんは百貨店を離れても私たち部下のことを気にかけてくれていて、定期的に連絡をくれたり売り場に顔を出してくれる。
 だけど、彼も会社を立ち上げたばかりで忙しい立場。だから、短い時間だけしか会えなかったから、まだ会社の立ち上げのお祝い会をできていなかった。
 それが、今夜なら仕事がひと段落着いたから大丈夫ということになり、私が幹事となってお祝い会を開くこととなった。
 百貨店が閉店した後、売り場のパソコンをログアウトしてストック棚の施錠のチェックをする。後輩たちと分担して閉店業務をこなしたら、退勤だ。
「よし、閉店業務は終わったね」
 後輩の坂口 雛《さかぐち ひな》ちゃんに声をかける。彼女は私より二歳年下だけど幼い顔立ちで、キュートなメイクが似合う、後輩メンバーの中でも売り上げに貢献してくれる貴重な人材だ。柔らかい雰囲気だけど、しっかりと営業トークもできて、若いお客様からの支持も高い。
「はい、大丈夫です! さあ、吉川さんのお祝い会に行きましょう! あっ、でも先輩、本当に今日よかったんですか?」
「んっ、何が?」
「彼氏さんです。先輩、いつも彼氏がいるから飲み会は参加しないのに、吉川さんのお祝い会は幹事までしちゃって……帰ってから怒られませんか?」
「あっ、ははは……大丈夫よ。吉川さんにはすごくお世話になっているから、そんな人のお祝いの席まで参加しないわけにはいかないから」
「そっか、それもそうですよね。よかったー! 私、久しぶりに先輩と飲めるから嬉しいです!」
「そうね、私も楽しみ」
 笑顔で会話を続けるけど、心臓はバクバクと激しく動いている。それは、後ろめたさからだ。だって、いつも私は雛ちゃんには嘘をついているから……。
 なぜか、雛ちゃんや後輩たちの間で、私は超エリートなイケメンの恋人がいるとなっている。私は飲み会や合コンといった雰囲気が苦手なので、後輩たちからの誘いを断り続けていたら、彼女たちの間で「頑なに飲み会に来ないということは、先輩にはきっと恋人がいるに違いない!」という結論に至ったらしい。
 そう決めつけられて以来、合コンや飲み会の誘いはなくなったことから、私も断る口実ができて都合がいいと考え、嘘を貫き続けている。
 内心、申し訳なく思うけれど、恋愛を意識した異性とうまく言葉のキャッチボールを交わせない私が行っても場が盛り下がるだけだ。
 だから、恋人がいるという設定は継続させてもらっている。だけど、どこで超エリートなイケメン恋人がいると設定になったのだろう。
 この派手顔と高身長が原因だろうか。たしかに、私の容姿で子犬のような可愛らしい男性が恋人というイメージは違うかもしれない。
「私、彼氏さんに謝罪のお電話でもしましょうか? 先輩にまかせてしまってごめんなさいって」
 雛ちゃんが曇りなき眼で私を見つめ、そんな気遣いをしてくれる。ああ、こんな顔で見つめられたら、ますます後ろめたくなってしまう……。
「いいよ、私から説明するから。ありがとう、雛ちゃん」
「そうですか? でも、必要ならいつでも言ってくださいね。先輩の彼氏さんなら一度お話しをしてみたいですから!」
「ハハッ……」
 いない恋人と電話で会話なんてできるはずがないから、期待している雛ちゃんの顔を見ていると、本当に良心が痛む……。
 そろそろ恋人がいる設定も終わりにした方がいいのかも……。だけど、そんなことをしたら恋愛体質の雛ちゃんのことだから、私にいい出会いを与えようとして合コンのお誘いをいくつも持ち掛けてくるかもしれない。
 そんなことになったら、面倒だな……。やっぱりしばらくはこの設定を貫こう。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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