「……好きだ。ずっと昔から……好きだった」
あらすじ
「……好きだ。ずっと昔から……好きだった」
王位継承権を持たない異例の第一王女レイチェルは、王位継承権を持つ異父兄妹と過ごす中で、自身の存在意義を見失っていた。
そんなある日、彼女は国王を説得し、護衛騎士の付き添いを条件に留学を受けることになる。
しかし、護衛騎士として現れたのはなんと、幼馴染みで想い人のカラムだった。
10年振りの彼との再会に、レイチェルの心は揺れ動いていき……?
作品情報
作:春宮ともみ
絵:noz
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◆序章/背徳の秘密
あれは一夜の夢だ、と――そう思っていた。
「レイ」
あり得ないと思っていた。カラムの唇から自分の名前が紡がれる日は、もう二度と訪れないと。
だからだろうか。ただそっと名を呼ばれただけなのに、身体の奥がずんと甘く痺れたような気がした。
「あんッ……!」
「この前まで乙女だったはずなのにな。もうこんなにどろどろだ」
普段とは違う、よく知った砕けた言葉遣いに心を揺さぶられる。太陽を思わせるような金色の瞳に苛烈と呼べるほどの熱を浮かべ、凛々しい顔立ちをしたカラムは蜜壺に埋めた指をずるりと引き抜いていった。
今宵も何度となく頂点を極める快感を刻まれたレイチェルにとっては、指が引き抜かれる摩擦さえ鮮明な悦楽となる。下腹から背筋を走り抜けていく感覚に、レイチェルはぎゅうと目を瞑りシーツを掴んだまま小さく身悶えた。
「ふぁっ……」
「声、抑えろ。誰かに聞かれるぞ」
腰をより一層屈めたカラムは、レイチェルの耳元で咎めるように言葉を落とした。レイチェルは周囲の状況に意識を向けはっと小さく息を飲み、薄目で自らの記憶の中に生きるカラムよりもずっと大人びた表情をした男を見上げる。
今、自分たちは――異国の地で、二人だけの秘密を作っている。
皇女と騎士という肩書きをかなぐり捨て、ただの男と女として。
夜よりも深い漆黒の髪をしたカラムは、レイチェルを見下ろしながら蜜で濡れそぼった指先をぺろりと舐めた。淫らな行為の一端を見せつけ、レイチェルを煽るかのようなカラムの行動に羞恥心が募り、思わず顔を背けてしまう。
「やっ……そん、なの」
「どうしてだ? 俺らはもっと恥ずかしいことをしただろ」
仄かな愉悦を孕んだ言葉を放ったカラムはわずかに口の端を歪めた。窓から差し込む月の光に照らし出された彼の表情は、吐きだした言葉とは裏腹にどこか苦しげなもののように思えた。
青白い光に照らし出された自らの上半身。あっさりと彼にすべての衣類を脱がされ一糸まとわぬ姿であることを思い返し、レイチェルはそっと両腕で胸元を隠した。
胸の前で緩く抵抗するレイチェルの両腕を捕まえて開かせたカラムは、そのまま肩、鎖骨、胸元まで、余すところなく口付けを落としていく。静かな闇夜に響くリップ音は、軽い音にもかかわらずたまらなく淫らに感じられ、レイチェルは熱く重いため息を吐き出した。
カラムはわざとレイチェルの視界に入るように舌を差し出し、ざらついた舌先で胸の先端の飾りを掠めさせていく。
「あっ、んぅ……や、カラムっ……」
「どうした?」
胸元から響く返答の言葉にはかすかな加虐心が滲んでいて、得も言われぬ感覚がレイチェルの背筋を駆け抜けていく。
熱を持った舌先でくりくりと乳嘴《にゅうし》の存在を確かめるように転がされ、レイチェルはあえかな嬌声を上げて身悶えた。ちゅっ、ちゅぷ、と卑猥な水音を響かせながら胸元の飾りを執拗に弄ばれ、下腹の奥の疼きがずくずくと強くなっていく。
レイチェルはカラムの頭を掻き抱いて彼の行動を抑え込もうとするが、腕にまったく力が入らない。――そのとき。
『レイチェル様……? どうかなさいましたか?』
コンコンと部屋の扉が叩かれ、レイチェルは思わず悲鳴を上げそうになり慌てて呼吸を噛み殺した。と同時に、胸元への刺激が止む。
この声は、グロスター王室からつけてもらった侍女ドロシーの声だ。
――だめ、来ないでっ……!
扉を一枚隔てた密室での不埒な一幕が露呈してしまうことだけは避けなければならない。レイチェル自身に婚約者はいないとはいえ、曲がりなりにも第一皇女である自分が、自国から連れてきた護衛騎士と淫らな関係を持っていることなど――。
レイチェルは脈打つ心臓を抑えて必死に平静を装い、扉に向かって声を上げた。
「ご、めんなさいドロシー……眠れなくて。でも、大丈夫だから、っ……!?」
身体を捩ってカラムの腕から逃れようとするものの、カラムの戒めは解けることがなかった。胸元で戯れていたカラムの指先が腰を辿り、裂け目の淵に触れる。ぐじゅ、といういやらしい水音をさせ、蜜孔の浅い部分へと侵入する。
「――っ!」
「聞こえるぞ」
くつりと喉を鳴らしたカラムが小さく囁いた。上擦ったような、興奮したようなその声音が、身体の疼きを耐えがたいものへと変えていく。レイチェルは唇を噛んで必死に堪えるものの、感情とは裏腹に甘い吐息はどうしても止められない。
『ゆっくり眠れますよう、ハーブティーをお持ちしましょうか?』
「い、いえっ……大丈夫! 借りた、本を、ぅ……読んで、過ごすからっ……」
騎士らしく節ばった指先は、レイチェルに散々教え込んだ快楽を思い出させるかのようにねっとりとした動きを反芻させる。逃げようにも、大きな音を立てればすぐにでもドロシーが踏み込んでくることは明白だった。
――カラム、お願いやめてっ……!
眦《まなじり》に涙を浮かべたレイチェルは必死に視線で彼へと訴える。しかし、視線が絡んだカラムの瞳には明確な佚楽《いつらく》が滲んでいて、レイチェルの望みは届いていない。
浅瀬のざらついた箇所をぐじゅ、と刺激され、粘着質な音がレイチェルの鼓膜を犯していく。カラムは指の腹で臍側の壁を緩慢な動作で擦り上げては泉の淵まで引き抜いて、ふたたび押し込む動作を繰り返しレイチェルをじわじわと追い詰めていく。
レイチェルはせめてと視界を遮断するように目を瞑り、シーツを掴む指先にさらに力を込める。つぅとこめかみを熱い雫が零れ落ちていく。
『そう……ですか? なにかございましたら、向かって右手の部屋に控えておりますので』
「う、うんっ……ありがとう、ドロシーっ……」
ドロシーは思いのほかあっさりと辞していった。コツコツと廊下を歩く音が遠ざかっていき、レイチェルはほっと胸を撫でおろした。
「カラムっ……」
安堵したレイチェルは涙ながらにカラムへと批難の視線を送る。その刹那、蜜壺で戯れていた指先が引き抜かれて両脚を開かれる。激しい熱を持った熱杭の先端が宛てがわれ、レイチェルはびくりと身体を跳ねさせた。
「安心しろ。鍵ぐらいかけてある」
「あっ……っ、ぁあっ……!」
「すまないが、声は我慢してくれ」
我慢してくれ、と言いながらも、カラムは自身に蜜を纏わせぐぷりと容赦なくレイチェルを貫いていった。執拗な愛撫に潤みきったレイチェルの泥濘はなんの抵抗もなく剛直を飲み込んでいく。
「レイ……レイ」
レイチェルの片足をぐっと持ち上げたカラムは、金の瞳を苦し気に歪ませ、小さく声を落とす。その声音は、世界で一番大切なものを呼ぶかのような、切なげな音だった。
「カ……ラ、ム……」
壊れた呼吸を戻しながらレイチェルがシーツを握り締める手を緩めると、その指先にカラムが荒々しく指先を絡めて繋ぎ合わせてくる。自らをまっすぐに射抜いているカラムの表情に気を取られているうちに最奥まで穿たれて、レイチェルはあえなく涙を零した。
「あぅ……ぅ、あ、くぅっ……!」
ぐちゅ、ぐじゅ、と水音を響かせ深く挿入したまま掻き回すように腰を動かされ、レイチェルも思わず腰を浮かせてしまう。唇を強く噛んで必死に声を押さえるものの、どうしても鼻にかかった甘い嬌声が堪えられない。ぱちゅんと淫らな音をさせ敏感な襞を責め立てられるたび、身体の内側から焼かれていくような感覚に囚われていく。
緩急をつけた律動に、レイチェルは必死に呼吸を噛み殺した。それでも、唇からはうめきとも悲鳴ともつかない声が漏れ出ていく。
「ッ、……あ、っ、んっ、んんんっ……!」
シーツを掴んでいた指先にももう力が入らない。胎内を捏ね回され、欲望の形を刻み込まれ、自分を貫く楔のことしか考えられない――。
カラムによってゆさゆさと揺さぶられるままのレイチェルはブロンドの髪をシーツの海に散らす。重だるく、熱を溜め込んだ下腹が限界を訴えるように痙攣を始め、レイチェルははくはくと口を動かした。カラムの手がレイチェルの腰をより一層引き付ける。
「んぁっ、あ、んっ、――――!!」
最奥にぐりぐりと雄槍の先端を押し付けられ、強烈な甘い痺れがレイチェルの身体を苛んでいった。
滾る欲望を強く締め付け、隧道《すいどう》が激しく痙攣する。蜜窟を充溢する怒張が質量を増し、どくりと大きく震えた。と同時に、レイチェルの胎内から、ずるりとカラムが抜け出していく。
「あ……ぁ」
くたりと四肢を投げ出したレイチェルの下腹に熱い飛沫が散る。
なにか言わなければ――そう思うのに身体はいうことを聞いてはくれない。目を瞑ったレイチェルはそのまま、ずるずると深い宵闇の中へと引きずり込まれていく。ひりひりと熱を持った耳元に、カラムが小さくキスを落とす。
「……レイ……このまま……」
二人で、誰も私たちを知らないどこかへ行けたらいいのに。
声にせずともカラムと同じことを考えているような気がして――――レイチェルは刹那の幸福の余韻に浸りながら、ふと意識を手放した。
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