作品情報

妹に恋人を取られた結果、完璧御曹司の甘美な愛に包まれました

「……好きだから、もっと触れたい」

あらすじ

「……好きだから、もっと触れたい」

両親は妹を可愛がり、初めてできた恋人は妹に奪われ、常に妹の引き立て役として生きてきた不遇なOL・悠。トラウマを抱え黙々と仕事に集中する彼女であったが、ある日会社の御曹司・憧れの上司である類斗から交際を申し込まれて――『新たな恋がしたい。けどその一歩が怖い』悠の気持ちを汲み取るように、彼は優しく蕩けるほどの愛情で包んでくれる。「絶対に俺は君の味方だから」誰かに触れられたいと、こんなに強く思うことがあるなんて想像もしていなかった……一途すぎる彼から独占欲全開で迫られ、溺愛され、極上の幸せを手に入れるシンデレラストーリー♡

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作:沙布らぶ
絵:春名ソマリ

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9/20(金)より各ストア様にて配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

 

第一章

 ――昔の夢を見ていた。
 それはまだ、塩野悠《しおのゆう》という女性が社会に出る前の、ほんの学生だったころの記憶だ。
 生まれて初めて交際したのは、同じゼミの先輩だった。異性と交際することにずっと憧れを抱いていた悠は、一歳か二歳年上の恋人ができたことにひどく浮足立っていたのを覚えている。
 就職活動はどうだとか、将来はこんな仕事がしたいだとか、恋人が未来について話すときはいつも楽しくて、その将来に自分が一緒にいればいいと思っていた。
(そう、だ――あの日、先輩が家に遊びに来て……それで)
 ひゅ、と小さく喉が鳴る。
 週末に家まで遊びに来た恋人と鉢合わせるように、四歳年下の妹がやってきたのだ。
 高校を出て一人暮らしを始めた悠のもとに、子どものころからモデルをやっている妹がやってくるのは稀だった。
(確か、近くで撮影があるから泊めてとか……そういう理由、だったっけ)
 顔立ちがはっきりとして美しく、愛嬌もあって周囲から可愛がられる自慢の妹。
 あまり自分が派手な性質ではないと理解している悠は、そんな妹の願いをよく聞いてあげていた。その日も二人に食事を振舞って、家に泊まるという妹が着替えを持ってきていないというので、近くの店に買いに行ってあげたのだ。
 そして、恋人と妹が顔を合わせた数日後――突如、悠は恋人から別れを切り出された。
『なんか、妹ちゃんと付き合うことになっちゃって……ごめんな』
 申しわけなくなど思っていなさそうな、ヘラヘラとした笑い方で謝られて、悠の恋は終わりを告げた。
 ほどなくして妹と彼が別れたという話も聞いたし、その件で妹の方から長々と愚痴めいたメッセージが送られてきたけれど、そのときもできるだけ悠は妹の味方であろうとしたのだ。
(あぁ、でも……でも、そんなに早く別れるんだったら……)
 あのとき言えなかった言葉は、未だに胸の奥にわだかまっている。
(それなら、最初から付き合わなければよかった。わたしから大切な人を奪わないでほしかった)
 姉として、妹にそんなことを言ってはいけないと理解はしている。けれど、胸を引き裂かれそうな痛みと苦しみが、こうして時折夢として頭をもたげてくるのだ。
「……なんでなのかなぁ」
 掠れるような声とともに目を覚ました悠は、重く沈んだ気持ちのまま体を起こした。
 もう何年も前のことなのに未だにこんな夢を見るなんて、未練がましいにもほどがある。
(単純に、唯《ゆい》とあの人の性格が合わなかっただけかもしれないし――いい加減忘れたいのに)
 大学を出て五年経つのに、いちいち昔のことを思い出して心が辛くなるのは心底ばかばかしいと悠は思う。
 けれど、あのときのことを含め――妹の唯は、とにかく姉の持っているものを欲しがる性格だった。幼い子どものころから『お姉ちゃんが持っているものが欲しい』と言っては悠のことを困らせたし、両親も『お姉ちゃんなんだから』と彼女に我慢することを求めた。
 人に愛される才能というものがあるのなら、妹は確実にそれを持っている。
 だが、彼女のそばにいた悠自身はどうだろう。
 なにかといえば『唯ちゃんはこんなに愛嬌があるのに、お姉ちゃんは……』と比較され、大切にしていたものを奪われる。
「……最悪」
 心の中でどんどん広がっていく靄をかき消すように、悠は小さく呟いた。
(最悪なのは、妹のことを心の中で悪者にしてしまうわたしだ。こんな人間だから、両親は妹の方ばかりを可愛がったし、恋人だって去っていったのかもしれない……)
 カーテンを開けて、憎たらしいくらい晴れ渡った空を眺めながら、悠はもぞもぞと服を着替えだした。

「塩野さん、この前の社内研修――アレって資料作ったの塩野さんだよね?」
「え? あぁ、はい。なにかありましたか?」
 年輪堂株式会社――国内大手のWeb系広告代理店が、悠の働き先だった。
 インターネット黎明期からネット業界の広告事業に目を付けていた社長が一代で大きくした会社で、社風はかなり風通しがいい。
 そんな会社の総務部で働いている悠に声をかけてきたのは、部長である芦村類斗《あしむらるいと》だった。
「出来がいいから、新入社員向けの研修にも使いたいって話が出てるんだよね。もう少しブラッシュアップして、来年からの研修に使おうと思うんだけど――いいかな?」
「構いませんよ。ブラッシュアップの方向性を教えていただけたら、こちらで修正します」
「いいの? じゃあ、お願いしようかな。専門用語を使わず、来週までに一度見せてもらえる?」
 類斗の質問に、悠はこくんと頷き返した。
「かしこまりました。来週ですね――大丈夫です」
「もし持ってる仕事があるなら、俺巻き取るけど」
 悠の言葉にパッと表情を輝かせた類斗は、この会社の社長の次男だ。兄の瑛斗《えいと》は営業部の部長であり、兄弟そろって第一線で仕事を行っている。
「いやぁ、部長の方がお忙しいですよね。今持ってる案件はそんなに多くないので、大丈夫ですよ」
「なんか、任せっぱなしで申しわけないな……。でも、塩野さんは仕事丁寧だから助かるよ」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
 人懐っこい笑顔を向けてくる類斗は、確か今年で三十歳になったはずだ。
 だが、アーモンド形の大きな目元がそう見せるのか、笑うと悠よりも幾分年下に見える。
「あ、あと――井上さんなんですけど、ちょっとお仕事巻き取った方がいいかもしれません。頑張ってくれてるんですけど、少しタスクが多いかなって」
「わかった。じゃあそっちは俺が対応するよ」
 今年入ってきた新人の方が大変そうだと伝えると、類斗はすぐに対応してくれた。
 他部署の部長たちと比べるとまだ若いが、周囲をよく見る類斗を慕う部下は多い。
 こうして悠をはじめとした総務部の人間にはしっかりと声掛けを行ってくれているから、今誰がどんな仕事で悩んでいるのかもすぐに共有ができた。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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