作品情報

ひと目惚れ騎士団長と溺甘新婚生活~強面紳士に夢中です!~

「言っただろう、今の俺は抑えが利かないと」

あらすじ

「言っただろう、今の俺は抑えが利かないと」

強面の騎士団長ヴォルフガングに一目惚れし、自身の恋心を手紙を綴り続けた伯爵令嬢セレナ。ヴォルフガングもまた、軍人の自分が彼女と不釣り合いでないかと悩みながらも、今度の舞踏会で告白する決意を固める。想いを通い合わせ、早速甘い甘い新婚生活を始める二人。だがセレナに横恋慕をする隣国の公爵令息エリックが、二人の仲を引き裂こうと目論見を始め……。

作品情報

作:さくら茉帆
絵:ちろりるら
デザイン:RIRI Design Works

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序章 ~強面騎士団長の恋煩い~

 ドレディア王国の王立騎士団長、ヴォルフガング・シュタウフェンは、書きかけの手紙を前に深いため息をつく。
 執務机の上には開封された手紙の他に、書き損じて丸めた便箋がそのまま放置されている。
 ここ数週間、ヴォルフガングはずっとこの調子で、手紙の返事を書けずにいた。
 ――どうにかして、良い文章が書けないものだろうか?
 あれこれ考えを巡らせているものの、書き出してはどうもしっくりこないと、便箋を丸めるといった作業を繰り返していた。
 普段の報告書なら、ここまで頭を抱えることなどない。それが手紙となると、こうして思うように筆が進まなくなる。
 ヴォルフガングは昔から、手紙を書くのが苦手であった。生来の悪筆だから人に見られたくないというのもあるが、最大の理由は自身の想いを相手に上手く伝えられないからだ。特に今書いているのは恋文なので、尚更書くのに苦戦している。
「やはり代筆業に頼むべきか……?」
 作家や詩人の中には、本職だけでは食べていけないので、手紙代筆の仕事をしている者もいる。いっそのこと彼らに頼んで、手紙を書いてもらった方がいいかもしれない。
「いや、それでは意味がない」
 せっかくの恋文に他者の力を借りるなど、それこそ想いを寄せる相手に失礼である。何より自分自身の言葉で書かなければ、胸に抱く気持ちを伝えることなどできない筈だ。
 逡巡しながらひとりごちていると、背後からクスッと笑い声が聞こえてくる。
 ヴォルフガングが驚いて振り返ると、壁にもたれかかって可笑しそうに笑う美青年がいた。
 ドレディア王国第一王子にして王太子、次期王位継承者ジークヴァルトであった。
「ジークヴァルト殿下、一体いつからここに!?」
 全く気配に気付かなかった。普段のヴォルフガングなら、絶対にあり得ないことである。
「少し前からだよ。最初は声をかけようと思ったのだが、ずいぶん集中しているようだったから、しばらく様子を見守っていようと思ってね」
「申し訳ございません……」
 ヴォルフガングは姿勢を正して謝罪した。
 ジークヴァルトとは日頃から、剣の手合わせをする仲である。気の置けない親友も同然だが、それでも王太子の存在に気付かないなど失礼極まりない。
「そんなに恐縮するなよ。騎士団の面々が、団長のお前がいつにも増して厳つい顔が迫力満点だと噂していたから、ちょっと様子を見に来ただけだ」
「あいつら、陰で好き放題言いおって……!」
 部下達が面白おかしく話をしている様子が目に浮かび、ヴォルフガングは何とも複雑な気分になる。
 だが、手紙の文面に悩む自分は眉間に皺が寄っていて、傍《はた》から見れば相当迫力のある表情を浮かべていたに違いない。
「それにしてもすごい量だな。まだ悩んでいるのか?」
「ええ、まあ……」
 書きかけの手紙や丸められた便箋を見て、ジークヴァルトは呆れ笑いを浮かべる。
 そんな反応をされるのはもっともだ。我ながらみっともない有様であると、ヴォルフガングも自覚しているところである。
「いい加減、早く令嬢に返事を書いてしまえ。彼女もきっと、お前からの手紙を心待ちにしている筈だ」
「いえ、書きたい気持ちは山々なのですが、なかなか良い文章が思い浮かばないもので――」
 相手の令嬢からもらった手紙は、どれも素晴らしいものばかりで字も美しい。ヴォルフガングはそれに見合った返事がどうしても書けず、おまけに令嬢の字とは比べものにならないほど字が汚い。
 それだけではない。令嬢は由緒正しき伯爵家の生まれに対し、自分は十年前の大戦で功績を上げて爵位を得た、言わば軍人貴族。とてもじゃないが、彼女と釣り合っているとは思えない。
 事実、血筋を重んじる貴族の中には、ヴォルフガングの存在を快く思っていない者もいる。そんな自分が令嬢と結ばれたとしても、「成り上がりの分際で」とか「伯爵に取り入った」などと陰口を叩かれるのは目に見えている。
 自分だけが言われるならまだしも、彼女にまで悪い評判が立つのは耐えられない。
 ヴォルフガングの心情を察したのか、ジークヴァルトはたまり兼ねた様子で口を開く。
「ヴォルフガング、悩んでいても始まらないぞ。手紙が無理なら今度の舞踏会で直接、自分の想いを令嬢に伝えるんだ」
 普段は穏やかなジークヴァルトが、こんな風に強い口調で物を言うのは初めてである。さすがのヴォルフガングも、この時ばかりは驚いてすぐに返答することができずにいた。
 その後もジークヴァルトは真摯な面持ちで話を続ける。
「父がお前に爵位を与えた際、難色を示していた貴族はいたし、今も快く思っていない者もいる。だが、私はもちろん、父も母もお前の味方だ。もちろん我が妃のロザリンダもだ。お前と彼女の仲を反対する者がいても、誰にも文句は言わせない」
「殿下……」
「それに、ロザリンダの従兄弟殿も、令嬢を狙っているという話を耳にした。あまりグズグズしていたら、その男に取られてしまうかもしれないぞ。お前はそれでもいいのか?」
「いえ、良くありません!」
 ヴォルフガングは迷うことなく即答した。
 想いを寄せる令嬢が、他の男と添い遂げる場面など、想像するだけで胸に痛みが走る。もしそれが現実となれば、嫉妬のあまり気が狂ってしまうかもしれない。
 自分と令嬢が釣り合っているかはともかく、彼女を誰にも渡したくない気持ちは人一倍強い。それだけは、嘘偽りのない正直な気持ちである。
「ならば、一週間後の舞踏会に必ず参加しろ。そして令嬢の想いを掴み取るんだ。いいな?」
「はっ!」
 ヴォルフガングが敬礼をすると、ジークヴァルトは小さく笑って「その意気だ」と返す。
 それからヴォルフガングは今一度、想いを寄せる令嬢の容姿を脳裏に思い浮かべた。
 たおやかな微笑みに華奢な体。波打つ栗色の髪に菫色の煌めく瞳――あの美しい姿を思い出すたびに、胸の奥が震えてジンと熱くなる。
 何よりヴォルフガングを惹きつけたのは、やはり令嬢からの優しい数々の手紙である。
(セレナ、まるで女神のように美しい人……)
 かつて荒地だったこのドレディア王国を、一年中花が咲く緑豊かな大地に変えたという伝説の女神。その生まれ変わりなのではと思うほど、彼女は美しく神々しい。
 令嬢を思い浮かべて陶然となるヴォルフガングを、ジークヴァルトは可笑しそうに笑って眺めていたが、当人は少しも気付いていなかった。

第一章 ~強面騎士団長のプロポーズ~

 ブラッドフォード伯爵令嬢セレナは、花も恥じらうほどの美しさと評され、若者からの求婚が絶えなかった。
 ところがセレナ当人は、邸《やしき》に訪れる求婚者をことごとく追い返しては、彼らを一人残らず泣かせている。
 そして今日もまた、一人の男性が大量の贈り物を手土産に、求婚のために邸を訪れていた。
「申し訳ございませんが、何度来られても私の考えは変わりません。私が想いを寄せているのはあの方だけですので、どうかお引き取り下さい」
 セレナはいつものように、しつこい婚約者を追い返すための常套句を口にする。
 目の前にいる男性――エリック・ルーガンは、ドレディアの友好国ソラリスの公爵令息。ここ毎日のように邸を訪ねてきては、セレナがいくら断ろうともしつこくプロポーズしてくるのだ。
 そして毎回、こうして山ほどの贈り物を持ってきて、こちらの気を引こうと躍起になっている。
「相変わらず釣れないですね、セレナ嬢。ですが、あなたのそんなところも愛らしくて素敵だ」
 エリックの芝居がかった言い回しに、セレナはうんざりしてため息をつく。彼のしつこい性格はもちろんのこと、この自分自身に酔いしれるような言動が、最初から好きになれなかった。
(私と同じ年頃の女の子は、彼に求愛されたら喜んで受け入れるのでしょうね……)
 エリックは容姿端麗で、多くの女性を惹きつけているのが容易に想像がつく。本人もその自覚があるようで、母国では未婚の令嬢がこぞってやって来るのだと話していた。
(そんなにモテるのだったら、ソラリスで婚約者を探せばいいのに……)
 以前、エリックを追い返す際にそう言ったことがある。すると彼はキザったらしい口調で「私はぜひ、花も恥じらう美貌を持つあなたと結婚したいのです」と、陶酔したような笑顔を見せてきた。
 その時の会話を思い出して顔をしかめると、エリックはおもむろに口を開いて話し始める。
「セレナ嬢。あなたが想いを寄せているあの男は、国王陛下に上手いこと取り入って爵位を得た卑劣な男です。それに、奴は戦で勝って出世することしか頭にない。そんな相手と結婚しても、あなたは決して幸せにはなれませんよ」
「あの方の人となりを知りもしないで、勝手なことばかり言わないで下さい。私はそうやって、他者を悪く言う方は嫌いです」
 恋焦がれている相手を悪く言われたことで、セレナの怒りはついに頂点に達した。
 これ以上、エリックと顔を合わせていたくなくて、セレナは素早く立ち上がり応接室をあとにする。
「あぁ、セレナ嬢! 待って下さい! 気を悪くしたのなら謝ります!」
 背後からエリックの慌てた声音が聞こえてくるが、セレナは完全に無視してそのまま自室へ戻る。
 その後、客に対してあの態度は失礼だと母に注意された。しかしセレナもセレナで、悪いのはの想い人を侮辱したエリックで自分は何も間違っていないと、一歩も引かずに主張した。
 ひとまず気分を落ち着かせようと、侍女が用意してくれたハーブティーを飲んで深呼吸する。
 そこへ五歳年下の弟カイルが来て、セレナの向かいの席に腰かけた。
「あの方、今日もしつこかったですね。あれでは女性の心を射止めるのは無理だって、いい加減に気付くべきですよ」
 騎士に憧れを抱いているカイルは、正義感が強く真っ直ぐな性格の持ち主である。また、常日頃から女性や年配者への気配りを大切にしており、セレナはそんな弟の芯の強さに感心していた。
「お母様は、いつまで求婚を断り続けるつもりかと呆れているけど、私は好きなあの方と添い遂げられるまで諦めるつもりはないわ」
「僕も、エリック殿が義兄《あに》になるなんて、絶対に嫌です。だから姉上の恋を応援しますよ」
「ありがとう、カイル。あなたのこと大好きよ。今日もお菓子、私の分まで食べていいわ」
「わぁ! ありがとうございます、姉上!」
 頼もしいとはいえまだまだ子供で、カイルはお菓子をもらえてすっかり大喜びする。
 そんな弟を微笑ましく見つめたのち、セレナはペンを取って手紙をしたため始める。その際、恋焦がれる男性の姿を思い浮かべるのも忘れなかった。
(ヴォルフガング様……)
 このドレディア王国の騎士団長にして、十年前の戦争で軍事国家アーガス帝国を退けた救国の英雄。その人こそ、セレナの想い人にして初恋の相手でもある。
 あれは三ヶ月ほど前、貴族令嬢が通う王立女学園を卒業して間もない頃のこと。
 カイルと二人で近くの修道院にお菓子を持って行った帰り。慣れないピンヒールの靴を履いて歩いていたせいで、足がもつれて転びそうになってしまった。
 そこへ一人の男性が駆けつけてきて、素早くセレナを抱き留めてくれた。その相手がかの騎士団長ヴォルフガング・シュタウフェンである。
 彼を間近で見た瞬間、セレナは自身の胸が大きく高鳴るのを感じた。
 軍人らしいたくましい体躯に、勇ましく精悍な顔立ち。きちんと整えられた情熱的な赤髪に、鷹を思わせるような鋭い目つき。
「怪我はありませんか? お嬢さん」
 容姿だけでもときめいたのに、男らしい低い声で優しく問いかけられ、セレナは完全に虜になってしまった。
 騎士団長に恋焦がれるうら若き娘など、この国ではセレナぐらいしかいないだろう。
 血筋を重んじる貴族の中には、戦争で功績を上げて伯爵の地位を得たヴォルフガングを、快く思わない者もいる。事実、女学園の同級生にも彼を恐れたり、「成り上がりのくせに」とか「野蛮人」などと悪く言ったりする子もいた。
 確かに屈強かつ強面なヴォルフガングは、その第一印象から初対面では怖いと感じるかもしれない。それでも、国を救った英雄に悪口を言うのは間違っていると思う。
(ヴォルフガング様のご活躍があったからこそ、アーガス帝国の脅威に怯えることなく平和に暮らせるというのに……)
 それだけではない。今も戦争が続いていれば、ジークヴァルト王太子とソラリス国のロザリンダ王女との結婚も、実現していないところである。
 十年前までドレディアとソラリスは、大国アーガスの脅威に晒され戦争が続いていた。
 幸い、セレナ達が暮らす王都に戦火が届くことはなかった。それでも国境付近の都市や村では、その地に住む民や兵士が数多く犠牲になったと聞く。
 苦戦を強いられていた同盟軍であったが、勇猛果敢に敵の本拠地に乗り込み、見事に勝利に導いたのがヴォルフガングの部隊である。
 隊の先頭に立ってアーガス軍を討つヴォルフガング――この目で実際に見たわけではないが、神話に描かれる軍神のように勇ましかったに違いない。
 実物のヴォルフガングは軍神より精悍でたくましく、それでいてとても優しく紳士的な男性である。
(あんなに素晴らしい殿方、ヴォルフガング様をおいて他にいないわ)
 以前から、精悍で凛々しい男性に憧れを抱いていたセレナだったが、あの日を境にヴォルフガング一筋となった。
 それから毎日のように、自身の恋心を手紙に綴っては、ヴォルフガングに送り続けている。
 だが、彼からの返事は未だに一通も来ない。
(やっぱりあの方からすれば、私はまだ子供なのかしら?)
 ヴォルフガングは今年で三十歳になると聞く。それに対してセレナは十七歳。
 社交界デビューを果たしたとはいえ、十三歳もの年齢差とあれば子供と見られても仕方ないかもしれない。
 それに容姿の問題もある。セレナは女性の中でも小柄な方で、おまけに顔立ちもやや幼い。唯一、他の女性と比べると胸だけは豊かに実っているが、他に大人っぽい要素はどこにもない。
 セレナはペンを置いて頬杖をつき、王太子妃となるロザリンダの容姿を思い浮かべた。
 亜麻色の長い髪をたなびかせ、優美で大人びた雰囲気を持つ王女。ヴォルフガングも、ああいう女性が好みなのだろうか。
 もしそうだとしたら、とても振り向かせられるとは思えない。
(ううん、諦めては駄目よ。想いが伝わるまで、手紙を書き続けると決めたんだもの)
 弱気になりそうな心を奮わせ、セレナは気を取り直して再びペンを手に取る。
 一週間後に控えた王太子の婚約祝いの舞踏会で、ヴォルフガングと再会できるかもしれない。
 彼にこの恋心が届くことを願って、セレナは丁寧に言葉を綴っていった。

 舞踏会当日の夜。
 王太子の婚約祝いを兼ねているということで、王宮はいつにも増してにぎやかである。
 この日のセレナは、肩から胸元にかけて大胆に開かれた、ブルーのドレスを身にまとっていた。
 普段はリボンやフリルたっぷりの、愛らしいドレスを中心に着ることが多い。しかし今日は母から、大人の淑女らしい装いをするよう言われたため、こうしていつもと違うドレスを着ている。
 靴に関しては、以前転びかけた経験があるので、最も履き慣れた普通のヒールを選んだ。
(それにしても、ヴォルフガング様はまだいらっしゃらないのかしら?)
 親しい令嬢とお喋りに興じている間も、セレナはずっとヴォルフガングの姿を探していた。
 彼は成人男性の中でも背が高いので、多くの貴族でにぎわう大広間でもすぐにわかる。
 ――このまま現れなかったらどうしよう……。
 セレナが不安になりかけたところで、人だかりが左右に広がると同時にヴォルフガングが広間に入ってきた。
「まあ、ご覧になって。場違いな方がいらしたわ」
「全く、成り上がりの分際で我々と同じように振舞うとは。本当に厚かましい男だな」
 年頃の令嬢は怯えた様子で目を逸らし、地位や名誉にこだわる貴婦人や紳士はひそひそと陰口をつぶやく。
 そんな中、セレナだけは陶然とした眼差しで、ヴォルフガングに見惚れていた。
(ヴォルフガング様、何て素敵なのかしら。軍服がとても似合ってらっしゃるわ……)
 そこへ一人の青年貴族がやって来て、セレナをダンスに誘う。
「セレナ嬢、私と踊っていただけますか?」
 だが、ヴォルフガングに夢中になっていたセレナは、彼のことなど眼中になかった。
「あの、セレナ嬢……?」
 完全に無視された形となった青年は、がっくりと肩を落として立ち尽くすばかりである。
 セレナが熱烈な視線を送り続けていると、不意にヴォルフガングと目が合う。
 すると彼はこちらの存在に気付き、貴族達の間を縫うようにして近づいてきた。
(ヴォルフガング様が私の方に向かってくる!)
 それだけで、セレナの気分はすっかり高揚してしまい、ドキドキが止まらなくなる。
 ヴォルフガングはセレナの前で立ち止まり、男らしい大きな手をおずおずと差し出してきた。
「よろしければ、私と踊っていただけないだろうか?」
 ヴォルフガングは硬い表情で、セレナをダンスに誘ってくる。
 初対面の時も彼は、その精悍な顔に厳めしい面持ちを浮かべていた。
 大抵の人は怖いと思うところだろうが、セレナはその表情も魅力的であると感じている。
「はい、喜んで」
 セレナが微笑んで応じると、差し出された手の上に自身の手をそっと乗せる。
 その刹那、ヴォルフガングはわずかに息を呑み、包み込むようにセレナの腰に手を添えた。
 こうして再び触れ合えたことで、セレナの心は早くも歓びに満ち溢れていく。
 程なくして流れていた曲が終わり、楽団は次の曲の演奏に移る。
 二人は他の貴族に混ざり、広間の中央付近に出て踊り始めた。
(まるで夢みたい……)
 ダンスでこんなにもときめいたのは初めてである。
 社交界デビューをしてから、何人かの青年と踊った経験はあったが、いずれもセレナの心が動かされることはなかった。
 こういったことはあまり慣れていないようで、ヴォルフガングのリードやステップは若干たどたどしい。しかしセレナは、想いを寄せる相手と踊れただけで充分である。
 ――この幸せな時間が、いつまでも続いてほしい。
 心の中でどんなにそう願っても、やがて曲は終わりを迎えてしまう。名残惜しく感じていると、ヴォルフガングが唐突に話しかけてくる。
「あの、どこか二人きりになれる場所に行かないか? その、少し……あなたと話がしたい……」
 ヴォルフガングの表情は先程にも増して硬く、声も最後の方はほとんど今にも消え入りそうであった。
 だが、セレナにはヴォルフガングに誘われた喜びが大きく、表情や声量などは些細なことでしかない。
 ――これは想いを伝える、またとない機会である。
 セレナはこの機を逃すまいと、彼の誘いに迷うことなく応じて、人々の喧騒から一番遠い中庭へ行こうと促す。
 色とりどりの薔薇が植えられた中庭は、月明かりが降り注ぐだけでしんと静まり返っていた。
 ところがヴォルフガングは、話がしたいと言っていた割には、いつまでも黙り込んだままである。その上、ちらちらとセレナに視線を送っては、ばつが悪そうにすぐ目を逸らしてしまう。
 それからどれほど時間が経った頃だろうか。やがてヴォルフガングは意を決した様子で、ようやくその重い口を開いてくれた。
「セレナ嬢。一目見た時から俺――じゃなくて私は、あなたに心惹かれていた」
「え……?」
 ヴォルフガングの告白を聞いて、セレナは菫色の瞳を大きく見開く。
 一瞬、都合の良い夢を見ているのではないかと思った。
 だが、目の前で起きているのは間違いなく現実。たった今、自分は憧れの人に恋の告白をされたのである。
 その後もヴォルフガングは、緊張しつつも言葉を紡いでいく。
「あなたからの手紙、私を心から想っていてくれているのだと伝わり、とても嬉しかった。気付けば届くのを楽しみに待つようになっていたほどだ」
「良かった。手紙、読んでいただけていたのですね。ありがとうございます」
 手紙に綴った想いは、ちゃんとヴォルフガングに伝わっていた。胸の中がその歓びで満たされて、セレナは頬を上気させて笑みを浮かべた。
「いや、礼を言うのは私の方だ。どの手紙も私の心の支えとなった。本当は返事を書きたかったのだが、あなたの手紙があまりにも素晴らしくて、どう書いたらいいかわからず……。だから今日、こうして直接想いを伝えることにしたんだ」
 ヴォルフガングはおもむろに跪くと、真摯な眼差しをセレナに向ける。
「セレナ嬢、私を一途に想い続けてくれた女性はあなただけ。どうか私と結婚してほしい」
 恋の告白に加えて求婚までされ、セレナは感極まって陶然と微笑む。
「はい、もちろんです。私も、あなたと結婚したいです」
 セレナが大きくうなずいて返事をすると、ヴォルフガングから突然体ごと抱き上げられた。
「きゃっ!?」
 驚いて小さく悲鳴を上げるセレナを見て、ヴォルフガングは慌てふためきながら「すまない!」と謝る。
「求婚を受け入れてもらえて、嬉しかったものだからつい……。未婚の女性にいきなりこんなことをするのは、さすがに不躾だったな……」
「いえ、ちょっと驚いただけなので大丈夫です。それに、ヴォルフガング様にこうやって抱き上げられるの、とても嬉しい」
 そう言ってやんわりと微笑んでみせると、ヴォルフガングはほんのりと頬を赤くする。
 彼のその様子がかわいらしく思えて、セレナはクスッと小さく笑った。
「善は急げというからな。明日、ご両親に結婚の許可をいただくために、さっそく邸の方へ挨拶に伺うとしよう」
「では、美味しいお菓子を用意して、お待ちしておりますね」
 お菓子作りは得意中の得意である。ヴォルフガングのために、とびきりのお菓子を用意しようと、セレナは彼のたくましい腕の中で意気込んでいた。

 舞踏会の翌日。ヴォルフガングが挨拶のために邸を訪れるということで、セレナはいつも以上に張り切ってお菓子を作っていた。
 色とりどりのマカロンに、摘み立てのベリーをたっぷり乗せたタルト。中でも特に自信作なのは、セレナの大好きなミルフィーユパイ。
(ちょっと作り過ぎてしまったかしら?)
 だが、相手は自分より何倍もの体格を有する男性なので、これぐらいあった方がちょうどいいかもしれない。
 そうこうしているうちに時刻は昼過ぎになり、ヴォルフガングがブラッドフォード邸《てい》にやって来る。
 彼は指定した時間通りに邸を訪れ、騎士団長として常日頃から規則に忠実なのだと窺えた。
 両親も、そんな人物になら娘を託して大丈夫だと判断したようで、快く結婚を承諾してくれた。
「救国の英雄であるあなたに、私共の娘を見初めていただけて光栄です。あなたのような誠実な方なら、この子もきっと幸せになれることでしょう」
「わたくしも、娘の結婚相手が見つかって一安心ですわ。今まで何度か縁談があったのですが、娘はどれも全て断ってきたので、このまま嫁ぎ遅れるのではないかと心配しておりましたの」
 それから結婚式の日取りについても順調に話が進み、ブラッドフォード邸は早くもお祝いムードに包まれつつあった。
 セレナもセレナで、ウェディングドレスはどんなデザインがいいかとか、ブーケのリボンは何色がいいかとか、あれこれ考えを巡らせてときめいていた。
 一通り話が済んだ後、セレナとヴォルフガングは中庭に出てお茶をする。
 その際、弟のカイルがヴォルフガングと話をしたがっていたが、またの機会にと諭して下がらせた。
「セレナ嬢のご両親に、結婚を認めていただけて安心した。もし駄目だったらどうしようと、昨夜から気が気でなかったんだ」
 紅茶を一口飲んだところで、ヴォルフガングは安堵した様子でため息をつく。彼のその様子から、相当緊張していたのだと窺える。
「結婚するなら心から好きになった殿方が良いと、ずっと言い続けておりましたから。父も母も私の意思を尊重してくれたのだと思います。もっとも母からは、いつまでもそんな子供みたいなわがままを言うなと、何度も叱られましたけどね」
 だが、最終的にはこうして結婚を認めてくれたので、結果万歳である。
「私の両親も、もし生きていればきっと、結婚を祝ってくれただろう」
「確か、ご両親は二人共すでに亡くなられているのでしたね。お噂で少しだけ耳にしました」
「ああ。母は私が十歳の時に、父は戦争が終わって二年後に病で亡くなった。母からは人を守り助ける強い人間になれと教えられ、父からは騎士としての生き方を教わった。あんな素晴らしい人達の息子として生まれたことに、私は誇りを抱いている」
 ヴォルフガングの話を聞いているだけで、彼の両親がいかに誠実な人間であるかが伝わってくる。そんな両親の元で育ってきたからこそ、今の強く優しい彼があるに違いない。
「すまない、私の話ばかりになってしまったな。せっかく菓子まで用意していただいたというのに、いつまでも手をつけないのはもったいない」
「遠慮せずに召し上がって下さい。どれも私が腕によりをかけて作りました」
「これを全部、セレナ嬢が作ったのか?」
 テーブルに並べられたお菓子を前に、ヴォルフガングは感心した様子で瞠目《どうもく》していた。
「はい。あと、私のことはセレナで構いません。もうすぐ夫婦になるのですから、普通に呼んでいただけると嬉しいです」
「わかった。ではセレナ、あなたの作ったお菓子をいただくとしよう」
 そう言うとヴォルフガングは、手前に置かれていたミルフィーユパイを取り、ぱくりと口に含む。
「これは……美味い! こんなに美味い菓子を食ったのは初めてだ!」
 ヴォルフガングは大きな声で絶賛すると、そのままあっという間に平らげてしまう。
(ヴォルフガング様が喜んでくれた……!)
 もうすぐ夫になる人が、手作りお菓子を美味しく食べてくれたことに、セレナは感動して満面の笑みを浮かべた。
 その後もヴォルフガングは、次々とお菓子を口に運んでは、そのたびに「これも美味い!」と絶賛する。
 その言動がはしたないと気付いたようで、彼は決まりが悪そうに伸ばしかけていた手を引っ込める。
「すまない、みっともない姿を見せてしまった。それに、言葉遣いまで荒っぽくなってしまって……。伯爵の地位を得てから、どうにか言葉遣いを直してきたが、あなたを前にすると気が緩んで昔の口調に戻ってしまう。良くないのはわかっているのだが……」
 うなだれるヴォルフガングを元気づけるように、セレナは頼りがいのある大きな手をそっと包み込む。
「二人きりの時ぐらいは構わないと思います。だから私の前では、あなたのありのままの言葉で話してくれませんか?」
「本当に……いいのか……?」
「もちろんです。私も、二人きりの時はもう少しくだけた言葉で話しますね。夫婦になるのに、いつまでも他人行儀な口調で話すのは変でしょう?」
 セレナの言葉がよほど嬉しかったのだろう。ヴォルフガングはたちまち感激した様子で破顔した。
「あぁ、セレナ。何て優しい人なんだ。ありのままの俺を受け入れてくれるとは……! やはり君は俺の女神だ!」
「え? 女神だなんて……私はそんな大層なものでは――……」
 急に褒めそやされたセレナは、困惑して苦笑いを浮かべる。
「いや、大袈裟などではない。君は紛れもなく俺の女神だ。初めて会った時、俺を見ても怯えたりせず真っ直ぐ見つめ返してくれたのも、一途に愛を伝えてくれたのも、そしてこんなに美味い菓子を作ってくれたのも、この世で君一人しかいない」
 嬉々として饒舌に語るヴォルフガングに圧倒されつつも、セレナはそれほどまでに自分が愛されているのだと実感する。
「これからは毎日、君の作る美味い菓子が食べられるのだな。あぁ、結婚式が待ち遠しくてたまらない」
「私も、早く結婚式を迎えたいです」
 ここまでヴォルフガングと思いが通じ合っていることに、セレナはより一層胸を高鳴らせ、同時に彼との幸せな結婚生活に思いを馳せた。

 結婚式当日。
 新郎新婦であるヴォルフガングとセレナを祝福するように、空は雲一つなく晴れ渡っていた。
 式の参列者は両家の親族に、セレナの女学園時代の友人、そして騎士団の面々。誰もが皆、二人の結婚を心から祝福してくれた。
 数週間前に結婚したばかりの王太子夫妻からも、王宮からの使者を通じて祝福の手紙と共に豪奢な贈り物が渡された。
 式の間、ヴォルフガングは事あるごとに、ウェディングドレス姿のセレナを「女神のように美しい」と褒めそやしていた。
 女神と呼ばれるのは未だに照れくさいが、その一方で愛する彼の口から告げられて嬉しいのも事実である。
 式が滞りなく執り行われた後、セレナはそのまま馬車に乗ってシュタウフェン邸へと向かう。
(私、ついにヴォルフガング様の妻になったのね)
 ずっと恋焦がれていた人と一緒に暮らせる喜びに、セレナの胸はこの上ない多幸感に満たされていた。
 だが、喜んでばかりなどはいられない。これからは騎士団長の妻という自覚を持って、気を引き締めて振る舞う必要がある。
 乗っていた馬車が門をくぐり、邸の前で止まるとヴォルフガングが先に降りる。
 それから恭しく手を差し出し、「お手をどうぞ」と低く優しい声で促してくれる。
 セレナはほんのり頬を赤く染めて、ヴォルフガングの手を取り馬車を降りた。
 大きな扉を開けて邸に入ると、家令と思しき初老の男性が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。留守の間、特に変わりはなかったか?」
「はい。侵入者はもちろんのこと、蟻一匹も通さぬ心づもりで、留守を預かっておりました」
「うむ、ご苦労」
 何だかまるで、軍の要塞でも守っているかのようなやり取りである。
(この邸では、こういうやり取りが普通なのかしら?)
 そんな疑問がセレナの頭に浮かんだところで、邸の使用人一同がエントランスに集まってくる。
 ヴォルフガングは全員の顔を見渡した後、よく通る声でセレナの紹介をした。
「今日から妻となったセレナだ。皆、決して粗相のないように」
「御意」
 これも軍人相手に紹介するような感じで、セレナはたまらず面食らってしまう。
 驚く彼女をよそに、家令、侍女、料理人……といった具合で、次々と使用人の自己紹介をしていく。
 一通り終わったところで、セレナは寝室へと案内される。
 家具一式は全て新調したらしく、傷一つ付いていなかった。壁紙も、セレナのためにとわざわざ張り替えたようで、花柄の愛らしいものが施されていた。
「奥様、荷物の方はこちらでよろしいでしょうか?」
 部屋に荷物を運んでくれたのは、セレナの侍女として紹介されたアスタ。
 年齢は使用人の中でも若く、セレナより少し年上といった感じである。体つきはほっそりしているものの、身長は平均的な女性に比べると高いように思われた。
「ありがとう。荷解きは私がするから大丈夫よ」
「かしこまりました。では、ご入用の時はいつでも声をかけて下さい。奥様の侍女兼護衛として、この命を懸けてお守り致しますので」
「命を懸けてだなんて、そんな大袈裟な……」
 セレナがたまらず眉をひそめると、アスタは真摯な面持ちのまま「大袈裟などではありません」と首を横に振る。
「三年ほど前、この邸に不逞の輩が侵入する事件がありました。男の素性を調べたところ、アーガスから遣わされた密偵であることが判明しまして。それ以降、邸の警備をより一層強化したのです」
「そうだったの……」
 敗北を喫したアーガス軍の上層部が、ヴォルフガングを恨むのは当然のことと言える。
 アーガス軍だけではない。このドレディア国内にも、ヴォルフガングの出世を快く思わない貴族がいる。
 彼らがヴォルフガングを失脚させるために、妻となったセレナを狙う可能性もないとは言えない。
「あなたのことは頼りにしているわ。だけど、命を懸けるというのはやめてね。私はあなたに怪我をしてほしくないから」
「私でしたら心配いりません。日頃から、鍛錬をしておりますので」
 アスタは自信たっぷりに答えてみせた。
 日が完全に落ちて夕食の時間になると、セレナはダイニングルームへ移動する。
 結婚祝いということで、豪勢な料理がたくさん振る舞われた。
 前菜からメインディッシュのハーブチキンまで、出てきたのは全てセレナの好物ばかり。味の方も、実家のブラッドフォード邸で食べていた料理と引けを取らず、文句なしの満点であった。
「君の好物を出すよう、料理人に頼んでおいたんだ。口に合うだろうか?」
「ありがとうございます。どのお料理も、とても美味しいわ」
 セレナが満面の笑みで答えると、ヴォルフガングは安堵した様子で表情を緩める。
 結婚式までの間、手紙の練習をしたいというヴォルフガングのために、簡単な文通を交わしていた。その中で、互いの好きな料理やお菓子について語ったこともある。
(ヴォルフガング様は、私の意を汲んで下さったのね)
 夫の細やかな気遣いが、セレナにはとても嬉しかった。だからこそ、料理もこんなに美味しく感じられるに違いない。
 ただ、その量が半端なく多くて、セレナはだんだんと口に入らなくなってきた。
 毎日こんなにたくさん出されても敵わないので、心苦しいと思いつつもセレナは話を切り出す。
「せっかく美味しい料理を振る舞っていただいたのに、水を差すようなことを言うようで申し訳ないのだけど……」
「いや、君はもう俺の妻になったのだから、何も遠慮はいらない。だから何でも言ってほしい」
 屈託のない笑みで言うヴォルフガングを見て、セレナはホッと胸を撫で下ろす。
「この量、私にはちょっと多すぎて……。だからこれからは、もう少し減らしてもらえるかしら?」
「す、すまない! 俺としたことが、つい自分を基準に考えてしまった……。結婚初日からこんな失態を演じてしまうとは……」
 ヴォルフガングは大袈裟と思うぐらい、肩を落としてうなだれてしまった。
 せっかくの晩餐。ヴォルフガングとしては、セレナに満点をもらえるよう完璧なものにしたかったに違いない。
「そんなに落ち込まないで。料理の味は完璧だから、量さえ調節してもらえれば大丈夫よ」
「そう言ってもらえるとありがたい。俺もまだ至らない部分があるだろうから、この邸で暮らす上で不便を感じたらその都度言ってほしい。料理長を含め使用人全員にもその旨を伝えておく」
「はい」
 ヴォルフガングは誠心誠意を込めて、セレナが快適に暮らせるようにと考えてくれている。その気持ちがとても嬉しくて、彼女はますます夫に惹かれていった。

 和やかな晩餐会が終わり、満たされたお腹が落ち着いてから湯浴みをした。
 初夜を迎えるということもあり、セレナはいつも以上に念入りに体を洗う。
 ヴォルフガングと肌を重ねる場面を想像するだけで胸がときめく。同時に下腹部の奥がジンと疼いて淫欲が込み上げてくる。
(だけど、少し緊張する……)
 男女の房事《ぼうじ》に関する知識は、ある程度身に着けているとはいえ、不安はいくらか残っていた。
 優しいヴォルフガングのことだから、無理強いをするようなことはないと思う。それでも、処女を失う時に伴う痛みを考えると、果たして上手くやれるだろうかと自信が薄れてしまう。
 湯から上がると夜着に着替え、ヴォルフガングが部屋に来るのを待つ。
 その時間がセレナには妙に長く感じられた。
 程なくして、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ」
 セレナが返事をするとすぐに、ヴォルフガングが室内に入ってきた。
 いつものきっちりした軍服とは打って変わって、白いシャツに黒のトラウザーズという簡素な出で立ち。シャツの釦《ボタン》は二つ目まで留めておらず、そこから覗く鎖骨や胸元が色っぽい。
「すまない、セレナ。待たせてしまっただろうか?」
「いえ、大丈夫よ」
 そう返答する声音が、若干上擦っているのが、自分でもよくわかった。また、緊張のせいか先程よりもさらに鼓動が速くなっている。
 ヴォルフガングはベッドの端に腰かけると、セレナの長い髪を優しく撫でてくれる。
「君と二人きりになりたくてたまらなかった。今もたくさん触れたくてたまらない……」
 ヴォルフガングも気分が高揚しているのか、男らしい低い声が掠れており息遣いも荒い。
 今から彼にこの体を見つめられ、大きな手で感じる部分を愛でられる――その様を想像しただけで、セレナはますます胸が高鳴り体も熱く火照っていく。
「怖いか?」
「いえ、怖くはないけれど、少しだけ緊張しているわ……」
「そうか。だが、俺は絶対に君を傷つけるような真似はしない。それだけは約束する」
 ヴォルフガングの言葉の端々や眼差しから、彼の誠意がはっきりと伝わってくる。それだけで、セレナは迷うことなく夫に全てを委ねる決意をする。
 セレナが笑顔で首肯すると、ヴォルフガングは自身の方へ抱き寄せてそっと唇を重ねた。
「ん……ふ……ぅ……」
 結婚式での誓いのキスは優しく重ねる程度だったが、今はセレナの口内を味わうような濃密なものであった。
 どうやらヴォルフガングは、今の今まで相当抑えていたらしい。
 そんな彼の想いに応えるように、セレナはたどたどしく舌を動かして、彼の舌と絡ませる。
 すると大きな手で頭の後ろを押さえられ、より深く口内を舐られていった。
「ンン……ぅ……」
 深く口づけされて少し息苦しかったものの、それ以上に甘い陶酔で満たされて胸の高鳴りが増していく。
 蕩けるような口づけを交わしながら、ヴォルフガングはセレナの華奢な体を撫で回す。
「ふ……ぅ……」
 触れられた瞬間、体の芯がざわついて官能の熱が込み上げてきた。
 やがてヴォルフガングの指先が、夜着のリボンにそっとかけられて、そのままするりと解かれていく。
 そうして一糸まとわぬ姿にされると、セレナは性急にベッドに押し倒された。
「すまない! 君を傷つけないと約束しておきながら、つい乱暴に押し倒してしまって……」
 ヴォルフガングはしどろもどろになりながら、謝罪の言葉を口にする。
「謝らないで。ヴォルフガング様だから、私は少しも怖くないわ」
 セレナが優しく微笑みかけると、ヴォルフガングは安堵した様子で相好を崩す。
「セレナ、やはり君は女神だ。こんな俺にも優しく、そしてとても美しい」
 ヴォルフガングは熱を帯びた眼差しで、セレナの全身をじっくりと眺めた。
「そ、そんなにじっと見つめられると、すごく……恥ずかしいわ……」
 セレナは途端に顔を赤らめ、羞恥心から裸を隠そうとする。
 だが、ヴォルフガングによってすぐに阻止されてしまう。
「なぜ隠そうとする? 俺達はもう夫婦になったんだ。君の美しい体をもっと見せてほしい」
 ヴォルフガングはセレナの腕を押さえたまま、食い入るように彼女の裸体を見つめていた。
「あ……」
 恥ずかしいけれど、見られているとどういうわけか胸が高鳴り、同時に淫欲も掻き立てられていく。
 こんな気分になったのは初めてのことで、セレナは自身の心境に戸惑うばかりである。
「このまま……触れてもいいか?」
「はい」
 決して欲望に流されることなく、こちらの意思を確認してくれる夫の優しさに、セレナは改めて絆された。
(こんな優しい方と結婚できて、本当に良かった……)
 安堵と歓びを胸にセレナが小さくうなずくと、ヴォルフガングは遠慮がちに乳房に手を伸ばす。
「あ……っ!」
 触れられた刹那、体がビクンと震え口から自然と声が漏れ出る。
 そんなセレナの様子を見て、ヴォルフガングは慌てて乳房から手を離した。
「すまない! 痛かっただろうか?」
「いえ、そんなことはないわ。触れられるのは初めてなので、少しばかり驚いてしまっただけで……」
「そうか、それなら良いのだが……」
 ヴォルフガングはホッとため息をつくと、セレナに気遣わしげな眼差しを向ける。
「セレナ、もし本当に痛かったり嫌だったりしたら、遠慮せずに言ってほしい。俺も、こうして抱くのは初めてだから、ちゃんと君を悦ばせられるか少し不安なんだ」
「そう……なの?」
「ああ。若い頃に同僚から、娼館に行こうと誘われたことはあったが、好きでもない相手を抱くのは気が進まなかったからな……」
 ばつが悪そうに話すところを見ると、どうやら本当に今夜が初めてらしい。
 ヴォルフガングの年齢を考えると、女遊びの一度や二度ぐらいは経験済みだと思っていた。それだけに、彼が全くの初心者であるという話は、少しばかり意外であった。
 しかしその一方で、ヴォルフガングにとっても自分が初めての女であることに、セレナは喜びを抱いてもいた。
「それじゃあ、続けるぞ」
「はい」
 ヴォルフガングは気を取り直すように、乳房への愛撫を再開する。
「は……あぁあ……」
 たわわな実りを揉みしだかれ、セレナは頬を上気させて甘い嬌声を上げた。
 気持ちいいようなくすぐったいような、不思議な感覚がせり上がってくる。
「あぁ、何という極上の柔らかさだ……」
 豊満な膨らみを堪能するように、ヴォルフガングはじっくりと揉みしだいていった。
 そうやって直接口に出して言われると、羞恥心がより一層掻き立てられる。
 だが、豊かな胸を賛美されて満更でもない。
 触れているうちにますます気分が昂ったのか、ヴォルフガングの手つきは次第に淫靡なものになり、乳房を大きく捏ね回してくる。
「あぁ……あぁあ……ッ!」
 同時に乳首も一緒に弄られ、セレナは身を震わせながら淫らに喘ぐ。
(何……今のは……?)
 胸の先端を触れられただけで、ピリピリとした小さな痺れが奔る。下腹部の辺りがじんわりと熱を帯びて、疼きに似た感覚が生じ始めた。
 指先で弄ばれている乳首は、徐々に硬くしこり始める。それに伴って、体に生じる甘い痺れも大きくなっていった。
「君の乳首がすっかりかわいい形になっている」
 ヴォルフガングは陶然とつぶやいては、尖った頂をクリクリと擦り上げていく。
「あ……あぁ……ン……」
 執拗に愛撫されるたびに乳首の感度は上がり、セレナの嬌声も一段と艶めいたものになる。
 彼女が初めての快感に乱れる様を、ヴォルフガングは感慨深げに見つめてため息をついた。
「あぁ、すごく……そそられる……。もっと……君を乱したい……ッ……!」
 ヴォルフガングはおもむろに乳房に顔を近づけ、薄紅色に染まった先端に口づけを落とす。そしてそのまま乳首を口に含み、乳輪ごとじっくりと舐め始めた。
「あぁん」
 一瞬、乳首を食まれるかと思ったが、ヴォルフガングは優しい舌遣いでなぞるだけだった。
「ンッ……あぁああ……ッ」
 まるで乳嘴《にゅうし》を味わうような丹念な口淫。胸の先端で蠢く舌がたまらなく気持ちよくて、セレナの体にたちまち甘い愉悦が生じる。
「ん……ふ……ぅ……」
 ヴォルフガングは熱心に乳首に舌を這わせては、時折やんわりと吸い立てる。
 やまない刺激に快感が一層掻き立てられ、セレナは小刻みに全身を戦慄かせた。
 ヴォルフガングは尖った乳首を味わいながら、空いている手でもう片方の乳房を揉みしだく。
「あっ、あぁ……ぁあ……ン」
 異なる二つの愛撫によって、淫靡な快楽が更に引き出される。セレナは頬を上気させて繰り返し甘切なく喘いだ。
 快感が広がるにつれて、下腹部の奥の疼きも増していき、尿意に似た感覚が生じる。少しでも足を開けば、熱い蜜がすぐにトロリと溢れ出てしまいそうだ。
(何だか……恥ずかしい……)
 まだ見られたわけではないのに、秘花がはしたない状態になっているというだけで、この上ない羞恥心を掻き立てられる。
 セレナが太腿を擦り合わせてもじもじしていると、そのことに気付いたヴォルフガングはすぐに顔を上げた。
「俺に何かしてほしそうだな」
「それは――」
 セレナはたちまち顔を真っ赤にして目を逸らす。
「そんな風に恥じらうところもかわいい」
 ヴォルフガングは相好を崩すと、セレナの頬に愛しげにそっと口づけする。
「ん……」
 それから鎖骨や胸の谷間などに次々とキスをして、最後に閉ざされた秘処を暴きにかかる。
「あ、いや……」
 セレナは脚をきつく閉じて拒むが、抵抗も虚しく呆気なく暴かれてしまう。
(あぁ、恥ずかし過ぎる……)
 濡れそぼった秘唇が晒された瞬間、セレナは今にも泣き出しそうに目を潤ませた。
 しかしその一方で、もっと触れられたいという淫欲も湧き起こり、胸の高鳴りも増していく。
「やはり君は何もかもが美しい」
 ヴォルフガングは感極まった様子で賛美すると、割れ目をなぞるように指をそっと這わせる。
「ひ……っ、あぁぁあン!」
 セレナは下肢を引き攣らせて悲鳴に似た声を上げた。
 快感から背筋がゾクゾクと震え、花唇も同じようにヒクヒクと戦慄く。濃厚な淫蜜も溢れ出しており、セレナは自分の身に起きたことに戸惑いを隠せない。
「セレナ、大丈夫か?」
「ええ。初めて触れられてびっくりしたけど、でも……何だかとても気持ちよくて……」
 初めて抱かれる身で、気持ちいいなどと言うのは、少々はしたなかったかもしれない。
 しかしヴォルフガングは、そんなセレナに軽侮《けいぶ》の眼差しを決して向けず、むしろ安堵した様子で「良かった」とつぶやく。
「妻を悦ばせられないようであれば、夫として失格だからな。初夜から早々、君を失望させるのだけは避けたいと思っていたんだ」
 ヴォルフガングはこんな時でも真面目な人だ。それぐらい、セレナを心から愛そうとしているのがわかる。
 花唇全体を弄りながら、彼は熱のこもった眼差しでじっと見つめる。
「それにしても、君のここは可憐な花のようだ。他の男に穢されなくて本当に良かった」
「ひゃ……ン!」
 上端にある突起を撫でられた瞬間、今までで一番強い刺激が生じた。
 セレナが過敏に反応するのを見て、ヴォルフガングはわずかに口角を吊り上げる。
「ここが最も気持ちよく感じるようだな」
「あっ! あぁぁあン……!」
 指の腹で淫芽を優しく転がされ、セレナは甲高い嬌声を上げて大きく戦慄く。
 雌核は瞬く間に充血して膨らみ、歓喜に震えるように小刻みに脈打ち始めた。淫襞も繰り返しヒクついては、新たな蜜を滴らせていった。
 ヴォルフガングは指先を蜜で濡らすと、花芽に塗りつけるようにクリクリと擦り上げていく。
「あぁぁああん!」
 愛撫されるたびに雌核は鋭敏になり、下肢全体の疼きも強くなる。それに伴って、セレナの嬌声も大きくなって激しく身悶えた。
「セレナ、もっと……君の乱れた姿を見せてほしい……」
 花芽を撫で回しながら、ヴォルフガングは自身の長い指を蜜口に挿入し、ゆっくりと動かし始めた。
「や……あぁぁあぁッ!」
 蜜腔をクチュクチュと撹拌《かくはん》され、淫芽を擦り上げられて、強い快感が絶え間なく全身に広がっていく。そのたびにセレナは歓喜の悲鳴を上げて、腰を大きく引き攣らせる。
 重点的にくすぐられている花芽は、一段と赤く充血して膨らみを増していた。淫襞も何度も収縮しながら、ヴォルフガングの指をキュウキュウと締め付けていく。
「セレナ、気持ちいいか?」
 ヴォルフガングは淫靡な指戯を続けながら、甘い声音でそっとささやきかけてくる。
「ン……気持ち……いい……」
 本当は正直に答えるのは恥ずかしかったけれど、同じく初めての夫を安心させたくて、セレナは喘ぎ混じりの声で返答する。
 するとその直後、花芽を転がす速度を上げられ、蜜腔に挿入されている指の本数も増やされた。
「や……っ! はぁぁああン!」
 一際強い快楽が全身を駆け抜け、セレナは甲高い嬌声で啼いて激しく身悶える。
 花芯全体を容赦なく攻め苛む指は、セレナの感じる部分を的確に突いてきた。
 官能の愉悦を初めて知った体は、ますます熱が上昇して疼きも増していく。同時にセレナの理性も蕩けさせ、全てが快感一色に溺れていった。
 弄られている花芽や恥裂だけでなく、下腹部の奥もドクドクと脈打っている。それはまるで、指よりも太いものを欲しているかのようである。
 セレナの中にもう不安も恐怖もなかった。ただ、甘く壮絶な快感を味わいたいという、強い淫欲に突き動かされていた。
「ん、あ……ヴォルフガング……様……」
 セレナは甘えるような声で呼びかけると、ヴォルフガングのたくましい体をそっと抱きしめる。
「セレナ、俺が欲しいのか?」
「ええ、欲しい……」
 セレナが素直にこくりとうなずくと、ヴォルフガングは絶頂に向けて花芯を激しく攻め立てていく。
「あっ、あっ、あぁぁああ――ッ!」
 淫芽は歓喜に打ち震えるように戦慄き、官能の滴りがどっと溢れ出す。強烈な快感が全身を突き抜けて、セレナは何度も背を仰け反らせて啼いた。
 一瞬、頭が真っ白になって気を遣りそうになった。これが達《イ》くという感覚なのだと、セレナは半ば放心状態で実感する。
 ヴォルフガングは未だに脈打つ花唇からそっと指を離すと、自身の着ているものを脱ぎ捨てていった。
 鍛え抜かれた裸体は筋肉隆々。鍛錬の際に付いたのか、あるいは戦で負ったものなのか、胸板や腕にいくつもの傷痕がある。
 男らしいたくましい裸に見惚れていると、不意に下肢の中心にあるものが目に入る。
(何て、大きいのかしら……)
 ヴォルフガングの半身である剛直は、すでに雄々しく屹立《きつりつ》していた。その大きさと凶器のような形に、セレナは目を離せなくなってしまう。
 するとヴォルフガングは、たちまち頬を赤くして困惑気味に眉をひそめた。
「セレナ、その……あまりじっと見つめられると、少し……恥ずかしいのだが……」
「ご、ごめんなさい! 私ったら、つい――」
 いくら夫のものとはいえ、男性器をまじまじと見つめるなど、淑女としてはしたない行為である。
「いや、俺も恥ずかしがる君の花びらを見たのだから、どうこう言える立場ではないか……」
 ヴォルフガングはもごもごとひとりごちると、セレナの濡れそぼった蜜口に硬い切っ先を宛がう。
「あん……」
 亀頭が触れた瞬間、また花唇がヒクついてたまらず嬌声が漏れ出た。
 ヴォルフガングは少しためらうような素振りを見せた後、真摯な眼差しでセレナをじっと見据える。
「セレナ。さっきも言ったように俺は、絶対に君を傷つけたりはしない。それでももし痛みを感じたら、我慢しないで言ってほしい」
「はい」
 彼の気遣いがとても嬉しくて、セレナはやんわりと微笑んでうなずく。
(本当に、とても優しい方だわ)
 そんな夫であれば、安心して身も心もゆだねることができる。
 それからヴォルフガングはセレナの腰を引き寄せ、静かに挿入を開始する。
「ンッ……あぁぁあッ……!」
「く……ぅ……!」
 約束通り、彼は傷つけないようゆっくりと、淫襞を押し広げてくれた。それでも、初めて男を受け入れるセレナにはとても辛く、痛みのあまり目に涙を浮かべて悲鳴を上げた。
「すまない、セレナ。やはり俺のやり方が下手なせいで――」
「謝らないで。ヴォルフガング様は……何も悪くないから……」
 ヴォルフガングは本当に、優しく押し進めてくれている。ただ、剛直があまりにも太いので、狭い淫襞がなかなか受け入れられないだけだ。
 苦悶の表情を浮かべるセレナを見かねてか、ヴォルフガングは一旦挿入をやめると、涙を拭うようにそっと口づけてくれる。
「あ……」
 それだけで、痛みが和らいだような気がして、セレナは小さくため息をつく。
「あまりにも辛いようなら、ここでやめるがどうする?」
「いえ、大丈夫。だからこのまま……続けて……」
 せっかく初夜を迎えたというのに、こんな中途半端な状態で終わらせたくなどなかった。
 痛いのは辛いけれど、それは処女を失う今夜だけ。それを乗り越えられたら、愛する夫と一つになれた悦びを味わうことができる。
 セレナの意思を感じ取ったのか、ヴォルフガングは再び己の猛りを押し進めていく。
「ン……んん……」
 その間、セレナは夫の広い背中にしがみついて、最奥まで到達するのをひたすら待った。
 痛みに耐えるセレナを気遣うように、ヴォルフガングは何度も口づけと愛撫を繰り返しながら、時間をかけて隘路を拡げていった。
 そうしてようやく、硬い先端が子宮口に触れたところで、ヴォルフガングは労わるような口づけを落としてくれる。
 愛する人と身も心も一つになれた悦びと幸せから、セレナは唇を重ねたまま静かに涙を流す。
「セレナ、まだどこか痛むのか?」
 辛くて泣いていると勘違いしたようで、ヴォルフガングはうろたえながら問いかけてくる。
「いいえ、違うの。愛するあなたと一つになれたのが嬉しくて――」
 それ以上の言葉が続けられなくて、セレナは笑顔を浮かべて今の気持ちを伝えた。
「そうか。俺も君と一つになれて、すごく幸せだ……」
 ヴォルフガングは感極まった声音で言葉を返すと、再び唇を重ねてくる。
「ん……ふぅ……」
 互いの呼吸音とくぐもった声、そしてチュッというリップ音が、静かな部屋に響き渡る。
 最初は軽くついばむ程度だったが、口づけを交わすうちに徐々に濃密になり、口内を貪るように互いの舌を絡ませ合う。
 そうしているうちに、体の芯もどんどん熱く疼いて劣情も増していった。
 甘く濃厚な口づけが終わると、ヴォルフガングはおもむろに腰を動かし始めた。
「あ……あぁぁ……」
 いきり勃《た》った雄茎が蠢く感覚に、最初は驚いたもののそれもすぐに快感に変わる。
 淫襞を何度も擦られ、子宮口を優しく突かれて疼きが強くなる。
「はぁ、はぁ……」
 ヴォルフガングは熱い吐息を吐きながら、切羽詰まったような面持ちで腰を動かしていく。
 その様子がこの上なく色気に満ちていて、セレナは頬を上気させて見惚れていた。
 するとヴォルフガングと目が合い、同時に埋め込まれていた肉茎がビクンと大きくなる。
「あぁ、駄目だ……。君があまりにも愛らしくて……抑えられない……」
 セレナを傷つけまいとする気持ちと、もっと深く愛したいという欲望の間で葛藤しているのが伝わってくる。ヴォルフガングは悩ましげな表情を浮かべては、必死で自分を抑え込もうとしていた。
 そんな夫の姿を見ていると、とてももどかしくなってくる。セレナはためらいつつも、意を決して口を開く。
「ヴォルフガング様の……好きなようになさって……」
 セレナの言葉を聞いたヴォルフガングは、一瞬だけその瞳に欲望の色を宿す。
 だが、すぐに冷静さを取り戻して、「いや、駄目だ」と首を横に振った。
「いくら君が良くても……そんなことはできない……」
 どれだけ劣情に駆られていても、処女を失ったばかりのセレナを気遣うことを優先する夫に、セレナはますます絆され愛おしさも増していく。
 しかし彼女としては、ヴォルフガングにも気持ちよくなってほしかった。
「いいの。ヴォルフガング様になら……何をされても怖くないから……」
 セレナが優しく微笑んでみせると、ヴォルフガングはたちまち頬を赤らめてうっとりとした面持ちになる。
「ほ、本当に……いいのか……?」
「ええ」
 尚も確認してくるヴォルフガングに、セレナは迷うことなくうなずく。
「君がそう言ってくれるのなら……。だが、痛かったらすぐに言ってほしい」
「ええ、そうするわ」
 セレナの返事を聞いた後、ヴォルフガングは少しずつ抽送の速度を上げていった。
「ン……あぁぁあぁ……っ!」
 広げられたばかりの隘路が痙攣して、いきり勃った雄肉をキュウキュウと締め付ける。
「く……っ……」
 その締めつけが刺激になったらしく、ヴォルフガングは短く喘いで腰を震わせた。するとまた、剛直が硬く隆起して蜜腔を更に広げる。
 ヴォルフガングは繰り返し雄茎を擦りつけて、セレナに深く壮絶な快感を与えていく。
「あっ、あっ、あぁぁああ!」
 やまない刺激に背筋がゾクゾクと震え、セレナは歓喜の涙を流して嬌声を上げた。
 何も考えられないほど気持ちよく、身も心も完全に蕩けていくようである。初夜でこれほどまでに、官能の愉悦に溺れるとは想像もしていなかった。
 ヴォルフガングも高揚した様子で、荒々しく息を吐きながら熱い律動を繰り返していく。
「あああああん!」
 熱い屹立で突き上げられ、グチャグチャと水音を立てるほど掻き乱され、媚肉が淫らにヒクついて引き締まる。
 快感が広がるたびに、セレナは歓喜にむせび泣いて大きく背を仰け反らせた。
 体の奥から熱い塊のようなものがせり上がってくる。花唇全体が引き攣り、下腹部の奥もたまらなく疼く。
 程なくして隘路を行き来する硬い剛直も、限界まで漲り熱い脈動を開始する。
「ンッ……く……っ……! 駄目だ、もう……これ以上は持たない……ッ!」
 ヴォルフガングは苦悶に似た声でつぶやいた直後、腰を深く打ちつけて最奥に欲望の精を解き放った。
「ん……あぁああぁぁぁ――……っ!」
 続いて絶頂に達したセレナが、一際甲高い声で啼きながら激しく身悶える。
 初めての情交は想像以上に気持ちよく、そして壮絶なものであった。同時に疲労感も半端なかったが、今はそれさえも心地良いと感じられた。
 ベッドに身を沈ませ、夢見心地で快感に酔いしれていると、ヴォルフガングがいたわるように優しく抱きしめてくれる。
「あまり優しく抱いてやれなくてすまない。あれでも欲望を抑えたつもりだったんだが、思うように君を気持ちよくしてやれなかった……」
 暗い表情をするヴォルフガングに、セレナは優しく微笑みかけて「そんなに落ち込まないで」と言葉を返す。
「私達の結婚生活は始まったばかりなのだから、時間をかけて少しずつ慣れていけばいいと思うの」
「セレナ。そう言ってくれるとは、君は本当に優しい女性だ。愛している!」
 ヴォルフガングは感極まった様子で、セレナを愛しげに抱きしめて口づけてきた。
「ン……ふ……ぅ……っ」
 行動で深い愛を伝えられて少し気恥ずかしくなるも、それ以上に多幸感も込み上げてきて胸がジンと熱くなる。
 これからの結婚生活が、ますます幸せになる様を想像しながら、セレナは最愛の夫を強く抱き返した。

(――つづきは本編で!)

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