作品情報

孤独の女騎士様は世話焼き淫魔の腕に抱かれる

「素直になって……もっと俺に精気、ちょうだい」

あらすじ

「素直になって……もっと俺に精気、ちょうだい」

魔獣の害に悩まされる国ロマーノ。魔獣討伐団の分隊長・女騎士ミラは、過去の後悔から「鉄壁のミラ」と囁かれるほど、周囲と孤立していた。ある日ミラは酒場で、淫魔と名乗る陽気な男・ラウルに半年続く不眠をスラスラと言い当てられる。……彼はどうにも怪しい。自暴自棄になっていたミラは、ラウルに「淫魔なら、私を抱いてみないか」と挑発。すると彼は、媚薬効果のある体液を流し込むように優しく口づけをしてきて――

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作:ハットリタクミ
絵:ちょめ仔
デザイン:RIRI Design Works

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「……ん、あぁっ……!」
 今まで男を受け入れたことのないミラの秘部には、今、熱く固い男の象徴が埋め込まれている。火であぶられたように体は熱くほてり、こぼれ出る言葉は今まで自分が出したことのないような甘ったるい声だとミラは思う。
「素直に声、出していいんだよ。だって俺と君以外誰も居ない場所なんだもの」
 一糸まとわぬミラの体を抱き込んだ男は、耳元で囁く。
 ぐっ、と中の壁をえぐられ、ミラは甲高い声をあげる。実際、彼女の甘い悲鳴は薄暗いこの空間だけに響きわたり、声を聞いているのも、彼女を抱く男だけだった。
「淫魔の夢の中では、誰だって乱れて、気持ちよく感じるものだからね」
 ミラと男――淫魔がいるのは、夢の中だ。周囲は薄暗いが、寝そべっている場所は適度な柔らかさがあり、どれだけ体が跳ねても受け止めてくれる。
「だからもっと気持ちよくしてあげる」
 ミラの上半身を起こした淫魔が、豊満な胸を撫でる。すっかり敏感になった頂をこねくりまわされたミラは喘ぎ声と共に体をよじらせる。
「うっ……んん、あ、はぁ……っ」
「そう、素直になって。もっと俺に精気、ちょうだい」
 向かい合った姿勢のまま腰を突き上げるようにして中を暴かれ、グチュグチュと淫靡な音を響かせる。ミラがその度に反応し声をこぼすのを見たあと、淫魔は再びミラを下にして覆いかぶさり、ミラに口づける。口内を舌でなめ尽くし、半ば強引に舌同士を絡ませて吸い上げられる。ミラの体の中で燻っていた余計な気が吸い取られ、全身が麻痺したような、ふわふわとした多幸感に包まれながら、ミラは自然と淫魔の体を抱き寄せて密着させる。
 すぐ側に誰かがいることが、こんなに満たされることだと思ったのは久しぶりだった。

:::

「ひぃぃぃっ! 騎士様、お助けぇっ!」
 黒くよどんだ霧――瘴気が立ちこめる、森の中。背の高い木立の中、ミラ・ジロット率いる魔獣討伐騎士団分隊が悲鳴を聞いて駆けつけて見たものは、白い粘着質な糸のようなもので体を拘束された一人の男と、糸の発生源である五、六歳の子どもほどの大きさの、巨大な芋虫――キャタピラと呼ばれる魔獣だった。
 伸び放題の草むらには籠が転がっており、中から飛び出たのか、薬草や木の実が散らばっている。キャタピラの餌食になった男はおそらく薬師。薬草を採るのに夢中で、うっかり瘴気の濃い、森の奥まで入ってしまったのだろう。まだ陽の高い時間だというのに、瘴気のせいで陰鬱な雰囲気は、まさに魔獣はびこる場所にふさわしいものだ。
 キャタピラは芋虫が瘴気を取り込んでしまったなれの果てだ。吐き出す糸は粘性があり、簡単に抜け出すことはできない。その糸を使って人間を絡め取り、体液を糧とする。そのことを知っている哀れな薬師は「ひぃぃ」とおびえる声を出した。しかし、大きさもさることながら、芋虫特有の特徴的な動きに生理的な嫌悪感を覚える隊員が多いのか、はたまた、経験の少ない新人が多い隊である故か、多くの隊員はその場でまごついたままだ。おまけに、副隊長のケネスは怪我をして遅れている新人をサポートするためここまでたどり着いておらず、つまりは戦力不足ではあるのだが。
「ひるむな、この軟弱もの!」
 そんな中、討伐団の分隊長であるミラは、ひるんだ部下に対し吐き捨てると、真っ先にひとりキャタピラめがけて飛び出した。長く伸ばしたつややかな黒髪が、必要以上にしゃんと伸ばした背中でたなびく。整った容姿の女性だが、キャタピラだけを見据えた視線は鋭く、近寄りがたい雰囲気を発していた。
 流れるような素早い手付きで、キャタピラに怯むことなく剣を繰り出した
 キャタピラの体は真っ二つになり、キャァァ! と断末魔の叫びを上げ地面に落ちて消える。すかさず薬師にからまっている糸を剣で切り裂き、解放させる。
 途端、新たにキャタピラが出現し「まだ居た!」と隊員の一人が緊張した声を上げる。
 瘴気の量に比例して出現する魔獣は数を増やし、いつの間にか隊員たちを取り巻いていた。さすがにこれだけの数になれば、軟弱ものと叱咤された隊員も、震えながら構えを取るしかない。
「ハアッ!」
 最初に動いたのは、やはりミラだった。
 養父に習った、単純だが応用の効く、軽い剣さばき。小柄な体躯としなやかな動きを利用しながら、ミラは密になっている木立の中にもかかわらず、次々と襲い来るキャタピラを無言のまま切っては捨て、切っては捨てを繰り返す。おそらく他の隊員が一匹倒す間に、三匹は倒しているはずだ。
 他はというと、必死で立ち回っているものや、おぼつかない足取りのものや、太刀筋が定まらないもの、魔獣を間近で見て恐怖を隠せないもの――見るも無惨な状態なのだが、基礎訓練を終えたばかりの新人が圧倒的に多いため、致し方ない部分があった。
 だからこそ、疾風のように駆け抜けるミラの姿が目立つ。
 あっという間に魔獣の数は減り、ミラは不意打ちで目の前に現れた一匹も難なく倒す。大方狩り終わったか、と振り向いた瞬間、潜んでいた一匹が襲いかかる。こいつも一刀両断だと腕を動かしたが、しかし。
「くそっ……!」
 ――薬で抑えていたはずの頭痛が現れ、ミラの視界が揺れる。ゆえに、キャタピラの体当たり攻撃を避けることができず、一撃食らってしまった。
 ミラの体は地面にしたたか打ち付けられ、がはっと大きなうめき声が出た。体はなんとか起こせたが、先程の頭痛で視界が定まらない。フラフラと立ち上がると同時に、キャタピラの叫び声が聞こえ、喧噪が収まる。これですべて、始末されたのだろう。魔獣の体がサラサラと黒い塵となって消え、そこには小粒の魔石が残っていた。
「これで最後だったか」
 男の声がした。ようやく到着したのか、副隊長のケネスが剣を振るって瘴気を払う姿が見える。先程のキャタピラを退治したのは彼らしい。顔を上げたミラと目が合うと、ケネスはフッと嘲る笑いを浮かべた。
「ふうん、ミラが一匹逃したかな? いくらお強くても、やっぱり詰めが甘いんだよな、鉄壁のミラ様なんてよばれててもさぁ。だから就任直後……おっと、この話は藪蛇だったな」
「……」
 ケネスの嫌味はいつものことだとわかっているミラは、黙ったまま剣を収めて、体勢を立て直す。半年前の失態をわざと出したあたり陰湿だと思うが、切り上げられた手前深掘りするのも癪だった。
「おい、行くぞ。我が分隊長どのに後れを取るなよ? そんなにえっちらおっちらしていたら、魔獣と間違われて斬られかねないぞ。どうも我が分隊長は、のろい動きのものは全て魔獣に見えるらしいからな、くわばらくわばら」
 ケネスは先に歩みだす。隊員たちは黙ったままのミラを横目に、おろおろと所在ない。中には、ケネスと同じように、どこか軽んじる表情を浮かべる隊員もいる。誰も、ミラに対して労る様子を見せないまま、気まずい空気だけが流れていた。
「……魔石を回収してから、行くぞ。定期巡回の場所はまだ残っている」
 これ以上なにを言うつもりはない、の意味を込めた短い言葉を吐く。歩き出すと、まばらな足音が後ろから聞こえてきた。

 マリト王国の西に位置する辺境の街――ロマーノ。賑やかな王都とは違い、畜産・農耕・林業を生業とする穏やかな気質の街である。だが、国境近くの広大な森から発生する魔獣の被害に、人々は恐怖していた。
 魔獣。現れたのは、魔族との戦争終結がきっかけである。
 魔力を操る、人間とは違う別の存在――魔族。長きに渡る戦争の末、魔族は別の次元に旅立ち、魔力だけが植物と動物の住む場所に残存。やがて使い手のない魔力は生き物を蝕む瘴気となり、動物を取り込むと、ひとや家畜、畑を襲う魔獣へと変化した。
 以後、七十年ほどの年月が経った今でも、ひとびとは魔獣の害に悩まされている。
 ロマーノ領主の住む城をはじめ、産業や住居などがあるこの街は城壁に囲まれているものの、城壁外にある農地への侵入や、森での狩りや採集時に遭遇したときには、生身の人間が対処するほかない。そして、瘴気に侵された魔獣は驚異的な回復力と能力を持っており、従来の獣に対する方法では対抗できなかったのだ。
 不幸中の幸いと言うべきか、魔獣はその命が終わると、魔力が結晶化した「魔石」を遺していく。それを利用して作られた武器であれば、魔獣を効率良く倒せることがわかり、今ではそれらを扱って魔獣を討伐する職が存在する。
 それが、ミラが所属する魔獣討伐騎士団であった。

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