作品情報

記憶を失くした令嬢は軍人王子の独占愛で甘く目覚める

「俺の前でだけ、もっと乱れてほしい」

あらすじ

「俺の前でだけ、もっと乱れてほしい」
 ビーモント王国第二王子パーシヴァルは、湖のほとりに倒れていた美しい令嬢を助ける。クリスティアナという名前以外の記憶を失くしてしまった彼女をパーシヴァルは城に連れていくが、やがて彼女に心奪われ体を重ねてしまう。
 婚約者を持つパーシヴァル、そしてクリスティアナも、いつか記憶が戻った時の事を不安に思いながらも淫らな蜜月の日々を過ごし……

作品情報

作:御子柴くれは
絵:haruka

配信ストア様一覧

本文お試し読み

序章 政略結婚の午後

 ビーモント王国の第二王子、パーシヴァル・コルトハードは深い溜息をついていた。政略結婚の相手として、隣国クレイブンの公爵令嬢を迎えることになってしまったのだ。先ほど父王に「アボット公爵家の娘だ」と告げられ、パーシヴァルは頭を鈍器で殴られたような心地がした。
 パーシヴァルは今年二十五歳、王子としてはそろそろ身を固めたい年頃である。軍人でもある彼は強く勇ましく、女性からの人気は高かったが、パーシヴァルはこの年で女性経験がいっさいないという一途さを持っていた。だからこそ、一生添い遂げる相手は自分自身で選びたいとも思っている。
「たったひとり……自分が選ぶ、たったひとりでよいのに……!」
 パーシヴァルは自室の椅子に腰かけ、膝の間に顔をうずめている。苦しそうに眉根を寄せて俯くパーシヴァルを、側近のアランがそっと見守っていた。
「いまからお相手をお捜ししても、もうクレイブンとの約定は変えられないでしょう。殿下、そろそろお覚悟をなさらなければなりません」
「……わかっている。だが、だが、俺は――」
「…………」
 主より二歳年上のアランは、パーシヴァルと兄弟のように育ってきたことから、彼の気持ちが手に取るようにわかるらしい。筋骨隆々で厳つい顔の彼は、だから何も言えず、ただパーシヴァルに寄り添っていた。
「湖畔の空気が吸いたい」
「は?」
 唐突なパーシヴァルの言葉に、アランが反応する。
 パーシヴァルは椅子から立ち上がると、さっさと外出の準備を整え始めた。
「し、しかし陛下が此度の政略結婚の詳しい話がしたいと先ほど――」
「わかっている。だからそれを聞く前に、心身を整えたいのだ」
「……わかりました」
 パーシヴァルが言う湖畔とは、ビーモント王国とクレイブン王国の国境にある大きな湖エンリコのことだ。軍人でもある彼らは遠征するたび、夏は涼しく冬は暖かいそのエンリコの湖畔で身を休めている。パーシヴァルら軍人にとってエンリコは、とても馴染み深い場所でもあった。国境にあることで警備の観点から普通のひとはあまり立ち寄らず、静かなところなので、パーシヴァルはそこでいよいよ決心を固めたいのだろう。
 だからアランも黙って外出の支度を手伝い、一緒に馬を出すことになったのである。

 秋の始まりを告げる風が吹き、エンリコの大きな湖面を揺らす。人っ子一人いないこの場所で、パーシヴァルはただ水の流れを見つめていた。
「ここは……変わらないな」
 金髪をなびかせるパーシヴァルは、憂いた碧眼も相まって絵になるほど美しい。軍人らしく背も高く、体格もがっしりしているので、旅装であってもその高貴さは隠せなかった。内から滲み出る彼の王子という重圧が、いまのアランには可視化できるように感じられた。
 先ほどからパーシヴァルは哀しみを漂わせ、ざああっという葉擦れの音に耳を傾けているようだ。
「葉も落ちていくころか」
「そうですね」
 同行しているアランが、小さく呟いた。
「もし公爵令嬢をお迎えしたとしても、ここには気軽に来られますよ」
「……ああ、それはわかっているが、王子という宿命からは逃れられないものか」
「それは――」
 ともすれば独り言に聞こえるパーシヴァルの言葉に、アランが返答に詰まる。主が望んでいることを、たかが側近の自分では叶えてあげることができないからだ。そしておそらく望む答えも、自分では持ち合わせていない。
「いいんだ、アラン」
 返答に窮するアランを気遣ったのか、パーシヴァルがここで言葉を切り、ふいに目をすがめた。
「ん?」
「いかがなさいました?」
 アランも反応して、パーシヴァルと視線を同じくする。目線の先の沿岸には、何かこんもりとした人型の塊があった。まさかあれは人だろうか。
 アランが考えているうちに、気づけばパーシヴァルは沿岸に向けて走り出していた。
「パーシヴァルさま!?」
 アランの呼びかけにも答えず、パーシヴァルは止まらない。やはりあの塊が人だということを確信したらしく、一心不乱に駆けていた。
「おい、アラン!! 手伝ってくれ!」
「は、はい!」
 アランも慌ててパーシヴァルを追う。
 すると沿岸に、倒れている人が認められた。これは一大事だと、アランは急いで鞄の中から応急措置に必要な物を取り出していく。
 パーシヴァルがしゃがみ込み、倒れた人――水色のドレスをまとったひとりの女性を介抱し始めた。
 アランもそれにならい、応急措置を施していく。
「若い女性だな」
「はい。入水自殺でもはかったのでしょうか……?」
 アランの見立てに、パーシヴァルは首を横に振った。
「いや、それにしては服が濡れていない。身なりは高貴なものだから、それなりに身分のある女性らしい。城へ連れ帰るぞ」
「ええっ!?」
 当たり前のように言うパーシヴァルに、アランはつい声を上げてしまう。
「陛下が許しませよ! そんな見ず知らずの女性を城に入れるなんて!」
「では、俺の離宮に運ぶ」
 パーシヴァルはそんなことでは諦めない。
 アランにはこれにも驚いて声を上げた。
「いまからファレル邸に!?」
 ファレル邸とは、パーシヴァルが所有する彼専用の離宮のことだ。王都からは少し離れており、ここからだと馬を飛ばしても三時間はかかる。
「そこまでこの女性が保つでしょうか……?」
「わからん。見たところ大きなケガはなく、気を失っているだけのようだから、おそらくは大丈夫だろうと思う」
 そう言って、パーシヴァルは女性を横抱きに抱え上げた。
「アラン。すぐに馬を走らせる準備を」
「は、はい! わかりました」
 アランは急ぎ、馬を繋いでいる木まで向かったのであった。

 離宮のファレル邸に着いたのは、すっかり日が暮れたころだった。パーシヴァルは女性を大事そうに抱え、急いで屋敷の中を整えるよう使用人たちに促す。それとともに女性については秘匿にするよう箝口令を敷いた。
 パーシヴァルは準備の整った客間のひとつに入ると、大きなベッドに女性を横たえる。ウェーブのかかった美しいピンクブロンドの髪が波打ち、パーシヴァルの目を引く。小さな顔に通った鼻筋、いまは少し紫を帯びているが形のよい唇、まつげの長い閉じた瞳はいったい何色なのだろうと、想像するだけで胸が高鳴った。
「女性にこんな気持ちを抱くなど、初めてだ……」
 パーシヴァルは自分の気持ちに戸惑う。軍人として馬を駆って戦争に出ていた彼は、生来の一途さも相まって、女性に対して免疫がなかった。なんなら女性を抱えたことも初めてだったのだ。
 しかしだからといってそれが恋に直結するとは限らないと、パーシヴァルは懸命に自分を落ち着かせる。
 するとそこで、思考を打ち切るように扉がノックされた。
「失礼します。殿下、氷を入れた水を張ったたらいと布をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。リタ」
 リタは茶髪の三つ編みにそばかすが特徴の、このファレル邸での侍女頭だ。箝口令も彼女の働きのおかげで使用人たち全員に伝わっているはずだった。
「私が看病を変わりますので、殿下はどうぞお休みになってください。殿下の寝室も整えてございます」
 リタの提案に、しかしパーシヴァルは首を横に振る。
 そして自らたらいを受け取り、布を浸して絞ると、眠る女性の額に載せた。
「今晩は俺が彼女を看ているつもりだ。リタはもう休んでくれ」
「で、ですが――」
 おそらくアランにきつく言われているのだろう。リタが困ったように眉を下げる。
 パーシヴァルは苦笑した。
「アランにも俺からよく言っておく。俺が彼女を見ていたいんだ」
「左様でございますか。承知いたしました。失礼いたします」
 そう言ってリタは下がっていく。
 残されたパーシヴァルは、言葉通り一晩中、謎の女性の看病を続けたのであった。

 翌朝、ピチチという鳥の声が窓から入ってきて、パーシヴァルは目を覚ました。ベッドに頭を付けていたことから、女性の看病をしているうちに眠ってしまったのだろうと思い、慌てて身体を起こす。するとベッドの上に、女性はいなかった。
「え……あ、あれっ!?」
 パーシヴァルの声に反応したように、カタンと窓が閉まる音が聞こえる。
 窓のほうに顔を向けると、ベッドに寝かせていた女性が立ち上がり、窓辺に佇んでいた。すらりとした肢体に小さな顔、波打つピンクブロンドの髪――そのあまりの美しさに、パーシヴァルはごくりと息を呑む。
「お、起きたのか……?」
 パーシヴァルの絞り出したような声音に、美貌の女性がサクランボのように小さな唇を開いた。
「はい。つい先ほど……あなたが、私をここに?」
「ああ。俺はパーシヴァルという」
「パーシヴァル……」
 女性は噛み締めるように、その名を繰り返す。
 パーシヴァルは驚きを隠せない。ビーモント王国で“パーシヴァル”と言えば、第二王子の自分のことであると、老若男女誰もが知っていることだ。それに反応を示さないとは、どうやら女性はこの国の者ではないらしい。とすると、倒れていた場所からして、隣国クレイブンの者なのだろうか。
「君はいったい……?」
 すると女性は困ったように眉を下げた。
「……覚えて、いないのです」
「覚えていない、だと?」
 眉間にしわを寄せるパーシヴァルに、女性は静かにうなずく。
「私の名前はおそらくですが、クリスティアナと申します。けれどそれ以外、何も思い出せないのです」
「クリスティアナ……」
 パーシヴァルは女性――クリスティアナが記憶喪失だということより、彼女の素敵な響きの名前と鈴の音を転がしたような声に心惹かれてしまう。
「素敵な名だ……」
 するとクリスティアナは、恥ずかしそうにポッと頬を染めた。
「あ、ありがとうございます……苗字が出てくれば、身分を明かせるはずなのですが……申し訳ございません」
 パーシヴァルは立ち上がり、クリスティアナのところに歩み寄る。そして迷いなく、彼女の華奢な白い手を取った。
「君が何者でも構わない。クリスティアナが元気でさえいてくれれば」
「まあ……パーシヴァルったら」
 敬称を付けられないことは、本来ならば不敬罪に当たるのだけれど、パーシヴァルは何も気にならない。それどころか、クリスティアナに名前を呼ばれて浮かれていた。
「クリスティアナ。行く当てがないのであれば、俺のところにいるといい」
「そ、それは大変ありがたいお申し出ですが、おそらく私にも心配している身内がいるはずです。ですから甘えるわけには……」
「ならば、その身内が見つかるまでは俺の傍にいてほしい」
 パーシヴァルはまっすぐにクリスティアナの瞳を見つめ、真摯に乞う。その双眸が美しい翠緑色をしていることに、パーシヴァルは心をときめかせた。
「クリスティアナ。君はエンリコという湖畔で倒れていたんだ。その経緯も思い出せないのか? 隣国クレイブンの者だと思うのだが――」
「エンリコ、ですか……はい、残念ながら。何があったのか、どうしてここにいるのか、まったく……クレイブンという国にも覚えがありません」
 パーシヴァルは湖畔で倒れたクリスティアナを、アランとともに助けたという経緯を話して聞かせる。するとクリスティアナは、アランにも礼を言いたいと申し出てきた。
 ほかの男――アランに会わせることを一瞬だけためらったパーシヴァルだったが、クリスティアナの願いを聞かないわけにはいかない。急いでベルを鳴らし、アランを客間に呼び寄せた。
 客間にやってきたアランもまた、クリスティアナのあまりの美しさには驚いたらしい。目を丸くして、しばらく穴が空きそうなほど彼女を見つめていた。
 パーシヴァルが咳払いをして、ようやくアランがクリスティアナから視線を外す。
「あなたがアランですね。私を助けてくれたそうで……パーシヴァルにも言いましたが、本当にありがとうございました」
「……い、いえ、主の言うことに従ったまでですから」
 遠慮がちに言うアランに、クリスティアナが小首を傾げた。
「主? もしかしてパーシヴァルは高貴なお方なのですか?」
 アランは驚いてパーシヴァルのほうを見る。
 パーシヴァルはまだ身分を明かしていないことを、それとなく目線でアランに伝えた。アランが彼の代わりに紹介する。
「クリスティアナ嬢、こちらのお方はこのビーモント王国の第二王子、パーシヴァル・コルトハードさまです。自分はその側近になります」
「まあ!」
 初めてクリスティアナが驚愕の声を上げ、パーシヴァルを見つめた。
「パーシヴァル、さま! なんでおっしゃってくださらなかったのです! 私ったらなんて失礼なことをっ……」
「いいんだ、クリスティアナ。君には呼び捨てで呼んでもらいたい」
「殿下!」
 パーシヴァルの要望に異を唱えたのはアランだ。
「殿下は王子としての自覚を持つべきです! これからご結婚なさる身なのですよ!」
「アラン!!」
 今度怒ったのはパーシヴァルだった。パーシヴァルは慌ててクリスティアナに向き直る。
「クリスティアナ、いまのアランの言葉は忘れてくれ! 俺は君と――」
「結婚……私、何か思い出せそうな気がします……」
「本当か!?」
 パーシヴァルとアランはふたりして大きく目を見開き、考え込むクリスティアナを見守るも、彼女はやがて諦めたように嘆息するのだった。
「申し訳ございません……何も出てきませんでしたわ……」
「そうか……」
 パーシヴァルは可哀想なクリスティアナに、元気を出してもらおうと励ます。
「気にすることはない、クリスティアナ。いつかは思い出せるさ。それまでは俺が身元を保証するから、何も心配することはない」
「で、ですが……王子さまだと伺って甘えるわけには……」
 遠慮するクリスティアナに、アランが論理的に味方してくれた。
「自分が見たところ、クリスティアナ嬢の容姿や話し方から、身分が高い方だとお察しします。殿下の元にいれば、そのうち身元も明らかになるのではないでしょうか」
「その通りだ!」
 パーシヴァルもうなずくが、クリスティアナは戸惑っているようだ。
「パーシヴァルさま、アランさん……」
 最初、クリスティアナはふたりを呼び捨てにしていた。それは彼女に使用人がいた証拠であるとパーシヴァルとアランは踏んでいる。だからおそらく彼女の身分は高い。
 それならばと、パーシヴァルは希望を見出していた。
「アラン。俺はクリスティアナを王城に連れて行こうと思う」
「し、しかし陛下がなんとおっしゃるか……」
 ここでパーシヴァルは、クリスティアナに聞こえないようアランにささやく。
「俺はクリスティアナを妻にするつもりだ」
「な、なんですって!?」
 愕然とするアランに、パーシヴァルはさらに続けた。
「ようやく見つけたのだ。彼女こそ、俺の理想の女性だ」
 クリスティアナの気持ちをよそに、パーシヴァルの想いの熱量は上がっていく一方のようだ。アランは溜息をつき、主が暴走しないよう見守っていくことを決意した。

一章 深窓のご令嬢

 クリスティアナは離宮のファレル邸から王城に招かれていた。
「クリスティアナと申します。王陛下におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」
 玉座に座る王――パーシヴァルの父親にそう挨拶したら、王は「ほう」と感嘆の溜息をつく。
「そなたには記憶がないと聞いているが……なんというか、洗練されておるな。パーシヴァルの言う通り、おそらくは高貴な身分にあるのであろう」
「そうでしょう、父上。それで、このクリスティアナを王城に住まわせたいのですが、問題はありますでしょうか?」
 パーシヴァルが口を挟むと、王は「うーん」と首を捻り、隣の王妃と顔を見合わせた。
「パーシヴァルが連れてきた子なのですから、わたくしは構いませんわ」
「だがのう……」
 しかし王には納得できない部分があるらしい。
「パーシヴァルには婚約者がいるのだぞ。何かあってからでは、クレイブン王国に申し訳が立たぬ」
「…………」
 悩む王夫妻を前に、クリスティアナは黙り込む。
 パーシヴァルはそんなことまったく構わないという態《てい》だったが、クリスティアナは気がかりだ。特別な恩情を与えられても、婚約者に失礼に当たるのではないだろうか。それともパーシヴァルは、それ以上に自分のことを気にかけてくれているのだろうか。
 戸惑っているクリスティアナを見て、パーシヴァルがさらに言い募った。
「父上。責任はすべて俺が持ちます。クリスティアナが記憶を取り戻すまで、どうか一緒にいさせていただきたい」
 王は渋い顔をするも、最終的にはうなずくことで返事とする。
「あい、わかった。言っておくが、くれぐれもクリスティアナに変な気を起こすではないぞ」
「わかっております!」
 ぴしゃりとパーシヴァルが言ったものだから、クリスティアナに芽生えていたほんの小さな期待は霧散してしまう。
 パーシヴァルが自分のことを気にかけてくれているのは確かだが、それは記憶喪失だからであって、クリスティアナ自身のことではないのだと、改めて思い直す。
「では、部屋は俺の隣に用意させましょう。リタ、準備を」
「はい、かしこまりました」
 パーシヴァルは事情を知るリタを、そのままクリスティアナの専属侍女にすることに決めたようだ。離宮ファレル邸からここまで、リタがクリスティアナの世話を焼いてくれていた。
 若干諦めかけたような王の「下がってよい」という合図とともに、クリスティアナは華麗に礼をして、玉座をあとにする。それとともにパーシヴァルと側近のアランも一緒に付いてきた。

「今日からここが君の部屋になる、クリスティアナ」
「はい」
 パーシヴァルとアラン、そしてリタに案内された部屋は豪華な調度品が並ぶ、バスルームが完備された素敵なところだった。パーシヴァルの自室の隣ということで、警備の観点でも万全らしい。
 本来であればここは婚約者の部屋になるところだったそうだが、隣国クレイブンからはなぜか連絡が途絶えているという。ただ契約は契約なので、パーシヴァルには正式に婚約者がいることにはなっていた。
 それが気にならないといったら嘘になるが、行き場のないクリスティアナはいまパーシヴァルに頼るしかない。
「パーシヴァルさま」
「クリスティアナ、俺には敬称を付けないでいいと言っただろう?」
「いえ、そういうわけには……あの、私はここでどのように生活をしていけばいいのでしょうか?」
「それは俺の――」
 しかしここで、アランが「ううん!」と大きな咳払いをする。
 何事かとアランを見ると、彼はクリスティアナに申し訳なさそうな顔を向けるが、次の瞬間にはもうパーシヴァルのことをきつく睨み据えていた。
 パーシヴァルもはっとしたように、慌てて言葉を繕う。
「す、好きに過ごして構わない! できれば俺やアランの目の届くところで、常にリタとは一緒にいてほしいという条件付きではあるが」
「好きに、ですか……」
 誰もが憧れの王宮で好きに過ごせるなど、おそらくは記憶のあった自分でもうれしいことのはずなのに、なぜか戸惑ってしまう。それでも記憶の欠片をかき集め、自分が何をしたいか懸命に思い浮かべた。
「では……さっそくですが、図書室に」
「図書室、だと?」
「はい」
 きょとんとするパーシヴァルに、クリスティアナが続ける。
「私、どうやら勉強が好きだったようなのです。いま何がしたいか考えてみましたが、本が読みたいと思っております」
「なるほど! 本で知識を得ていくうちに、思い出すこともあるかもしれんな!」
 じゃあ、俺も一緒に――と言いかけたパーシヴァルを、しかしアランが留めた。
「いけません、殿下。殿下はこれから軍での訓練が控えております」
「ああ……そうだったな」
 がっくりとうつむくパーシヴァルがなぜかかわいく見えて、クリスティアナがくすくすと笑う。
 その様にすっかり見惚れていたのが、当のパーシヴァルだ。穴が空きそうなほどじっくりクリスティアナを見つめるものだから、クリスティアナは思わず頬を染める。
「あの、パーシヴァルさま?」
「い、いや、すまない! 俺は訓練に行くから、リタに城を案内してもらうといい」
「はい、そうさせていただきます」
 クリスティアナがリタを振り返ると、リタが任せてほしいとばかりに大きく首肯した。
「ではクリスティアナ、夕食の席で会おう」
「はい、わかりました。いってらっしゃいませ」
 クリスティアナは手を振り、出ていくパーシヴァルとアランを見送った。

 * * *

「殿下、お気をつけください」
 訓練施設に向かって廊下を歩いていると、アランがそう忠告してきた。
 パーシヴァルはむっとするが、その通りなので何も言い返せない。
「記憶のないクリスティアナ嬢を困らせても、殿下の得にはならないでしょう。それに殿下には正式な婚約者がクレイブンにいらっしゃるのです。それをゆめゆめお忘れなきようお願いいたします」
「……わかっているが、お前には俺の気持ちは話してあるはずだ」
 パーシヴァルが立ち止まり、己の側近を見上げた。
 アランは恐縮そうに腰を折って、主の言い分を聞くことになる。
「俺は必ずクリスティアナを妻にすると誓ったのだ。記憶を取り戻すためならば、協力は惜しまない。だから少しでも長く一緒にいたいと思っている」
「もしクリスティアナ嬢が既婚者であったなら、どうするのです?」
「…………」
 今度こそ押し黙るパーシヴァルに、アランは続けた。
「その男から奪う気なのは、殿下の目を見れば明白です。ですが、記憶を取り戻したならば、クリスティアナ嬢が殿下の傍にいることを望むでしょうか?」
「それは……」
 アランの言うことはいちいち正しい。
 パーシヴァルは返答に詰まるも、訓練に遅れないよう再び歩き出す。
「殿下!」
 パーシヴァルが答えないものだから、アランが慌ててあとを付いてきた。
「殿下はもう少しこの国とクレイブンの関係を――」
「クリスティアナが既婚者でなければいいのだろう?」
「はい?」
「俺に考えがある」
「考えって……」
 戸惑うアランをその場に捨て置き、パーシヴァルは迷いなくまっすぐに歩いていく。

 * * *

 リタに案内され、クリスティアナは王城のだいたいの棟の位置を把握した。めまいがしそうなほど広い城内なのに、おかしなことにこの広さがすとんと身になじむのだ。記憶喪失になる前も、もしかしたら自分はこんなふうに広い場所で生きていたのかもしれないと思うようになるが、それ以上はやはり何も思い出せない。
「リタ、ありがとうございます。ここまでで大丈夫です。ひとりで部屋まで帰れますので、リタは仕事に戻ってください」
 図書室の前まで来て、クリスティアナはそう辞した。侍女であるリタに仕事が多くあることは知っているし、彼女の負担になりたくなかったのだ。
「ですが――」
 リタはパーシヴァルの言いつけを守る気でいたからか、クリスティアナの提案に戸惑っているようだ。
 クリスティアナは笑顔を浮かべ、リタを安心させようとする。
「私は確かに誰かが付いていないと危ういのだと思いますが、本はひとりでゆっくり選んだり読んだりしたいのです。パーシヴァルさまにもそう申し上げておきます」
 そこまで言われたらリタも断れなかったらしい。
「……わかりました。何かありましたら、近くの使用人にお知らせください」
「ええ、そうします」
 クリスティアナがそう返答すると、リタはひとりで来た道を戻っていった。
 クリスティアナはさっそく図書室に入ろうと、ドアを開けようとする。
 するとドアは向こう側からガラリと開かれた。
「あ……」
 鉢合わせたのは、見知らぬご令嬢だ。王城にいるということは、それなりに身分の高い女性なのだろう。臙脂色の高貴なドレスをまとい、ストレートの茶髪に鳶色の瞳を持ち、うしろに侍女をふたりほど引き連れている。毒々しいまでに赤く引かれた口紅が特徴的だった。
「こんにちは。私は――」
 クリスティアナが丁寧に挨拶しようとするも、しかし女性はクリスティアナを見て思い切り顔をしかめた。侍女ふたりも喧嘩腰の様相でクリスティアナを見つめている。
「あなたね? パーシヴァル殿下が連れてきた正体不明の女というのは」
 いきなり険を含んだ物言いをされ、クリスティアナは面食らった。
 驚きのあまりクリスティアナが何も言えずにいると、令嬢は続けて毒を吐く。
「記憶喪失だかなんだか知らないけれど、パーシヴァル殿下に取り入ろうとはしないことね。なんせ、あたしがいるんだから!」
「あ、あの……あなたは――?」
 ようやくそれだけ振り絞ったクリスティアナに、令嬢はふんとふんぞり返って身分を明かした。
「このメーガン公爵令嬢マリアベルを知らないなんて、記憶があってもなくてもとんだマヌケだと思うわ! 殿下の婚約者はこのあたしになるはずだったんだから、そのことを決して忘れないことね!」
 令嬢――マリアベルは敵意を隠そうともせず、クリスティアナに食ってかかる。
「殿下の隣の部屋をもらったそうだけれど、それが特別扱いだとは思わないでよ! 殿下はお優しいから、あんたの記憶が戻るまで面倒を見る気でいるだけなんだから!」
「…………」
 クリスティアナは何も言い返せず、ただ悲しい気持ちになった。
 もしマリアベルの言うことが事実だとしたら、パーシヴァルにはこれ以上は甘えられない。でもだからといって行き場がないことには変わりないので、八方塞がりの心境だった。
「おわかり? あんたはジャマな存在でしかないのよ! パーシヴァル殿下の寵姫にはこのあたしがなるんだから!」
 パーシヴァルさまの寵姫に……? 言葉にならないクリスティアナに、マリアベルは言葉を継ぐ。
「ふんっ、ジャマって言ったでしょう? どいてちょうだい!」
 マリアベルに突き飛ばされ、クリスティアナは無理やり道を空けさせられた。
 そして呆然とするクリスティアナを残し、マリアベルは侍女たちを連れてさっさとどこかへ行ってしまったのである。

 魅惑的な蔵書を誇るビーモント王国の図書室にいながらも、クリスティアナは浮かない顔で本棚を眺めていた。先ほどのマリアベルに言われたことが、いまも尾を引いていたのだ。
 読む気力もない本をぱらぱらめくり、記憶の彼方に思いを馳せる。
「私はいったい何者なのかしら……?」
 記憶がないから、紹介されること、案内されること、すべてが新鮮だった。そのことはクリスティアナの知的好奇心を刺激したが、何も思い出せないことには不安しか感じない。
 ふと窓辺に近寄ると、訓練施設を見渡すことができた。おそらくパーシヴァルとアランが向かったという場所だろう。
「まあ……」
 軍人たちの中に剣を振るパーシヴァルの姿を認め、クリスティアナはドキリと心臓を高鳴らせる。
 あの優しいパーシヴァルには婚約者がいて、さらに寵姫になる予定だというマリアベルの存在もあった。おそらくいまのクリスティアナには理解できない政略的な何かが働いているのだろうが、そこにまったく無関係の自分が介入できるはずがないと思う。
「パーシヴァルさまは本当なら雲の上のお方……私は邪魔な存在なの……?」
 クリスティアナはこのまま王城にいていいのかためらう。せめて記憶が戻ってくれれば――と、願うほかなかった。

 * * *

「クリスティアナが戻ってきていない?」
 夕方にリタの報告を聞いて、訓練帰りのパーシヴァルがきつく眉根を寄せる。
 アランのほうを振り返ると、彼はすぐに踵を返した。城内を捜しに行ったのだ。
「あれほど付いているようにと言っただろう!」
 激高するパーシヴァルに、リタが「申し訳ございません」と頭を下げる。言い訳をしないところがこの侍女の美点でもあるが、今回ばかりはパーシヴァルは冷静でいられない。
「最後に見かけたのは?」
「図書室でございます」
「わかった」
 パーシヴァルもまた身を翻し、とりあえずは図書室に足を向けるのであった。

 足早に図書室に赴き、ドアを開く。そこでパーシヴァルは安堵した。窓際のソファで寝入っているクリスティアナを発見したからだ。
「クリスティアナ」
 呼びかけながら、そっと近づいていく。
 しかしクリスティアナはまだ目を覚まさない。本を開いたままだから、読んでいる途中に寝てしまったのだろうか。それにしては眉間にしわが刻まれているので、もしかしたら何か考えごとをして疲れきってしまったのかもしれない。
 そう思うと、パーシヴァルは胸が引き裂かれる想いがした。
「クリスティアナ」
 もう一度名を呼び、隣にゆっくりと腰かける。
 それでもクリスティアナに起きる気配はない。すうすうと寝息が聞こえている。
 クリスティアナの美しい横顔を見ているうちに、気づけばパーシヴァルは吸い込まれるように自らの顔を近づけてしまっていた。
 桜色に染まった唇に、そっとキスをする。
 まるで目覚めのキスとばかりに、クリスティアナがその瞬間目を見開いた。
「え……」
 目の前にパーシヴァルの顔があったからか、彼女は状況が把握できずに戸惑っている。
 パーシヴァルは慌てて身を引き、顔を真っ赤にして許しを乞うた。
「す、すまない! クリスティアナ! こ、これは――」
「パーシヴァル、さま……」
 ぱち、ぱちと瞬くクリスティアナが、手で唇を触っている。つい先ほど、パーシヴァルが唇を重ねた場所だ。やはり違和感があるのだろう。
「あ、あの、いま……」
「ああ、本当にすまなかった」
 パーシヴァルはクリスティアナの手を取り、懇願する。
「どうか許してくれないか? 無防備な君を見ていたら、どうしても衝動が抑えられなかったんだ」
「ええ、怒ってはいません」
 クリスティアナの答えにほっと胸を撫で下ろすも、彼女の次の言葉には返答に窮することになった。
「パーシヴァルさまは、私を寵姫になさりたいのですか?」
「え……」
 どこで“寵姫”などという言葉を聞いてきたのか、パーシヴァルは言葉に詰まる。
「マリアベルさんが、パーシヴァルさまの寵姫になるとおっしゃっていたのです」
「マリアベルが?」
 パーシヴァルが眉根を寄せる。どうやらクリスティアナは自身に好意を寄せるマリアベルに会ったらしい。おそらく何か言われたのだろう。それでクリスティアナは悩み、疲れきって寝入ってしまったに違いない。
「マリアベルのことは関係ない」
 パーシヴァルは意を決して言葉を継ぐ。
「俺は、俺は……クリスティアナ、君が好きなんだ」
「えっ!?」
 クリスティアナは大きく目を見開き、ぽっと頬を染めた。
 パーシヴァルが続ける。
「君の記憶が戻り次第、君を寵姫ではなく唯一の妃に迎えたいと思っている」
「そんな……」
 まだすべて受け止めきれないのか、クリスティアナは戸惑っていた。
 パーシヴァルは堪えきれず、クリスティアナの手を握って矢継ぎ早に問う。
「俺のことが嫌いか? 好きか? 俺では君の助けにはならないか?」
「パ、パーシヴァルさまっ」
 クリスティアナは身を引くも、パーシヴァルが追い縋ってきた。
「クリスティアナっ……!」
 堪らないといった態で、パーシヴァルはもう一度クリスティアナの唇を奪う。
「ん、ぅっ!?」
 驚いたクリスティアナが目を白黒させていると、パーシヴァルは強引に唇を割り開き、彼女の口腔内に舌を差し入れた。
「あ……は、っ」
 クリスティアナが息苦しそうに喘ぐも、パーシヴァルは止まれない。クリスティアナの舌を無理に引き出すよう舐め取り、絡め、ちゅうっと吸い上げた。
「や、ぁっ」
 おそらくクリスティアナは“やめて”と言いたいのだろう。けれどそれを言われてしまったら、パーシヴァルは拒否されることになる。それだけは認めたくなくて、パーシヴァルは躍起になってクリスティアナの舌を吸い続けた。
 くちゅり、くちゅりと唾液の音が響き、夕暮れの図書室を淫靡に染め上げていく。
「ああ、クリスティアナ……ずっとこうしたかった……!」
 パーシヴァルがようやく唇を離すと、クリスティアナははあはあと肩で息をしていた。顔は真っ赤で、目には涙が浮かんでいる。
 やり過ぎたかとも思ったけれど、パーシヴァルに後悔はない。そしてこれで止まれる気もしなかった。
「パー、シヴァル、さま……な、なぜ……」
 クリスティアナが不可解に呟く唇を、パーシヴァルがもう一度貪る。
「んん、ぅっ!?」
 クリスティアナは相変わらず驚愕したままだったが、決して抵抗しようとはしなかった。パーシヴァルの行動に戸惑い、どう反応していいのか迷っているようにも感じられる。だからパーシヴァルは、ここぞとばかりに彼女の心のうちに入ることにしたのだ。
 ちゅ、ちゅっと啄むようなキスをしながら、口角、頬、首筋と、徐々に唇の位置をずらしていく。
「あ、あ……っ」
 クリスティアナは反応しているようだ。ここまでしても拒否することはない。
 パーシヴァルは首筋にキスを散らしながら、ドレスの上からクリスティアナの胸元に触れた。するとクリスティアナから「あっ」という甘い声が漏れ出る。
「クリスティアナ……ドレスを緩めるが、抵抗しないでほしい」
「パーシヴァルさま……」
 パーシヴァルがクリスティアナの背中に手を回し、コルセットの紐をほどいた。途端に緩くなった胸元が露わになっていく。
 クリスティアナのきれいな形の乳房に目を奪われていると、彼女が恥ずかしそうに声を上げた。
「そ、そんなに見ないでください……」
「だが、美しい」
 そのひとことに、クリスティアナは押し黙る。
 パーシヴァルはそっとクリスティアナの乳房を手のひらで包み込んだ。
「んんっ」
 柔らかな感触を手で楽しんでいたが、間もなく肌を吸いたい衝動に駆られる。パーシヴァルは唇を寄せ、つんと上向いていた薄いピンクの突起を口に含んだ。
「ふ、ぁっ……あ、あんっ」
 羞恥から出ていた声が、明らかに情欲を含むものに変わっている。
 それを感じて、パーシヴァルは情熱的にクリスティアナの胸に吸いついた。
「ああ……ダメ……そ、そこはぁ……っ」
 パーシヴァルが口腔内で乳首を転がすと、それは次第に固く存在を主張していく。
「クリスティアナ……感じてくれているんだね」
「そ、んなっ……恥ずかしいっ」
 クリスティアナが頬を朱に染め、ぶんぶんと首を横に振った。
 パーシヴァルはそんなクリスティアナが可愛くて仕方なくて、彼女の乳頭を吸い、攻め立てていく。
「んぁっ……ぁ……う、ん……や、ぁっ」
 乳房を揉みながら乳首を刺激し続けていると、ややあってドレスの下でクリスティアナが足をもじもじと擦り合わせていることに気づいた。
 おそらく下肢が疼いているのだろうと察したパーシヴァルは、クリスティアナのドレスをめくり上げていく。
「ああ!? な、何をなさるのです! そ、そこはっ」
「わかっている、クリスティアナ。だが、俺はやめられる気がしないんだ」
「パーシヴァル、さま」
 ごくりと、クリスティアナの白い喉が上下に動いた。
「私が、ほしいのですか……?」
「ああ、ほしいね。ずっとほしいと思っていたのだから」
「パーシヴァルさま……」
 それがどういう意味なのか、記憶喪失とてクリスティアナにもわかっているはずだ。それでも抵抗らしい抵抗をしないということは、少なからず自分のことを好いてくれているのだと、パーシヴァルは好意的に受け止めることにした。
 行動を止めたクリスティアナを横目に、パーシヴァルは一枚、二枚とドレスをめくっていく。中のペチコートまでめくり上げると、彼女のドロワーズが露わになった。
「ああ……」
 クリスティアナは恥ずかしそうに、両手で顔を覆ってしまう。
 その反応からクリスティアナは確実に処女であろうと、パーシヴァルは確信した。これで彼女が既婚者だという説は覆せることになる。さらに確信を深めるのなら、実際にこの先に進み、処女の証である破瓜の血を見ればいい。
「パーシヴァルさまぁ……!」
 クリスティアナが抗議の声を上げるが、それが本心でないことはパーシヴァルがよくわかっていた。なぜなら彼女のドロワーズは、すでに湿り気を帯びていたからだ。
「もうこんなにして……そんなに感じてくれていたんだね」
「言わないでぇ……」
 泣きそうなクリスティアナをこれ以上精神的に攻めることは置いておき、パーシヴァルは彼女の身体に焦点を移した。
 ドロワーズを引きずり下ろし、床に投げ捨てる。
 なまめかしい白い片足を肩に担ぎ、下肢をよく見えるようにすると、クリスティアナはさらに恥ずかしそうにすすり泣いた。
「ああ、クリスティアナ……こんなに濡らして……」
 クリスティアナの秘部はすでに潤っており、てらてらと光っている。
 パーシヴァルは手を伸ばすと、クリスティアナの秘密の花園を少しずつ暴いていった。中がよく見えるように、花びらを広げていく。
「や、ぁ……ダメぇ……!」
 クリスティアナはダメと言うけれど、パーシヴァルが触れれば触れるほど、彼女の蜜口からは愛液が滲み出てくるのであった。
 パーシヴァルは花びらの奥に潜む小さな突起を見つけ、そこを重点的に刺激する。するとクリスティアナは腰を跳ねさせ、びくんびくんとのたうち回った。
「ああっ、そこっ、ダメ、ダメぇっ! や、あぁあっ!!」
「ここが好きなんだね、クリスティアナ」
 パーシヴァルが穏やかな声でクリスティアナを宥めるも、彼女は相変わらずびくびくと感じている。蜜もとろりとろりと、次第に増えていき、ソファの座面をも濡らしていた。
「や、ああっ! それ以上はぁっ、そこ、そこはぁっ、や、あ、ダメぇ!!」
 淫らな芽は次第に大きく、ぷっくりと膨らみ、乳首のときのように存在を主張する。そこをくりくりといじりながら、手をずらして秘孔に指を埋め込んだ。
「え、ぁ……!?」
 妙な感覚がしたのか、クリスティアナが驚く。
 おそらく膣に何か異物を入れられるのは初めてなのだろう。パーシヴァルの指先に反応し、びくんと背を仰け反らせた。
「な、何それっ……え、え、ああっ!?」
 ぐっと中指を沈めると、すでに潤っていた隘路が広がり、パーシヴァルを受け入れていく。
「あああ! やぁっ、な、何ぃっ!?」
「大丈夫だ、クリスティアナ。力を抜いて、俺を感じて」
「ううっ……」
 クリスティアナは涙を零しながら、快感を堪えているようだ。
 パーシヴァルはその涙にわずかな躊躇を感じながらも、ここまできてしまえばもう進むことしかできない。
 中指を挿入し、前後に動かしていく。
「ああっ!? あ、あ、やぁっ……それ、やぁっ……!」
 じゅく、じゅくと、出し入れするたびに愛液が音を立てた。すっかり濡れそぼったクリスティアナの秘部は、二本目の指も容易に受け入れてくれる。
「ん、んぅっ」
 圧迫感に悶えるも、クリスティアナは腰をくねらせて感じていた。
「ああ、んぅ、うっ、ぁ……あ、んぁっ、は、あ」
「ああ、クリスティアナ……なんて、きれいなんだ」
「そんなこと、な……っ、ああ、あっ」
 パーシヴァルは興奮してきて、すっかり自分の下腹部が勃ち上がっていることに気づく。クリスティアナが処女だと思いつつも、思わず彼女の空いた手を自らの下肢に導いてしまった。
「ま、まあっ!?」
 パーシヴァルがぎんぎんに反応していることに、クリスティアナは驚き、自らの悦楽も一瞬忘れて目を見開く。
 パーシヴァルは情欲をともらせた瞳を向け、クリスティアナに懇願した。
「クリスティアナ……頼む。君の手で、触れてくれないか……?」
「こ、これを……?」
 クリスティアナはおそるおそるといった態で、パーシヴァルの膨らみを見つめる。
 パーシヴァルは下肢をくつろげ、中から生の陰茎を取り出した。
 びくっと、クリスティアナが震える。
「お、大きい……!」
 クリスティアナがそう言うのも当然だと、パーシヴァルは我がことながら思う。パーシヴァルの男根は平均よりも大きく、太く、長い。それは男としては誇れるものだったが、初めてのクリスティアナには恐ろしく映っているかもしれない。
「怖いか?」
「……ええ、少し」
 クリスティアナは正直に呟くも、ゆっくりと白い華奢な手でパーシヴァルの息子を擦り始めた。
「うっ……!」
 その拙い動きにも、それがクリスティアナの手だというだけで、パーシヴァルは余計に感じてしまう。
 クリスティアナはごくりと息を呑みながらも、竿の部分を懸命にしごいてくれた。
「ああ、クリスティアナ……!」
 そんな一生懸命なクリスティアナがさらに愛おしくなり、彼女の蜜孔に挿入したままの指をまた動かし始める。クリスティアナの膣道はますます潤い、滑りがなめらかだった。
「ああ、ダメ! パーシヴァルさま、集中でき、なっ……ああんっ」
「う、くっ」
 互いに互いの生殖器を攻め合い、快楽の熱量を高めていく。
「あ、パーシヴァルさまっ……先端から、何かっ」
 パーシヴァルの鈴口には、先走りの液体が滲み、きらりと光を放っていた。
「それは俺が感じているという証拠だ」
「そ、そうなのですね……!」
 クリスティアナは「ほうっ」と感嘆の溜息をつき、先走りの液体に触れる。ぬるぬるとしたそれを亀頭に塗りつけ、滑りをよくしてさらにしごいていった。
「ああ、クリスティアナっ……それ以上は――!」
 唐突に、パーシヴァルに欲望を吐き出したい欲が湧き上がってくる。慌ててクリスティアナの手を取り、自らもクリスティアナの秘部から手を引き抜いた。
「パーシヴァル、さま?」
 これで終わりだと思ったのか、クリスティアナがドレスを整えようとする。
 その手を取り、クリスティアナをソファに押し倒した。
「きゃっ」
 驚くクリスティアナに覆い被さり、パーシヴァルは彼女の足の間に身体を入れる。
「クリスティアナ、俺はもう我慢できそうにないんだ」
「が、我慢……?」
「ああ、俺を受け入れてくれ。頼む」
「パーシヴァルさま……」
 切羽詰まったようなパーシヴァルの言葉に、クリスティアナはごくりと固唾を呑んだ。そしてわかってくれたのか、静かにこくりと頷いてくれる。
「少し怖いですが、パーシヴァルさまなら、私は――」
「クリスティアナ……!」
 歓喜に打ち震え、パーシヴァルはクリスティアナの蜜口に己の先端をあてがった。それだけで先端が悦びに満たされ、先走りの液体を吐き出す。
 滑りがよくなるように亀頭を上下に動かしてなじませ、いよいよ秘孔に入れていく。
「あ……っ」
 クリスティアナがぴくんと反応して、小さく喘いだ。
「ゆっくりするが、痛かったら言ってくれ」
 パーシヴァルは宣言通り、ゆっくりと腰を沈めていく。
「あ、あ、あああっ」
 クリスティアナの隘路を、パーシヴァルの剛直が穿った。膣癖を擦り、奥へ奥へと自分を進ませる。
「や、ぁあああっ!!」
「痛い、か?」
 パーシヴァル自身も苦しくて、クリスティアナに問う。
 クリスティアナの目尻には、涙が光っていた。
「だ、大丈夫、です……そのまま――」
 乞われるがまま、パーシヴァルは腰を進める。
 そして灼熱の楔が、クリスティアナを貫いた。
「きゃ、あああああっ!」
「はあ、はあ」
 パーシヴァルはあまりのきつさに息を荒らげながらも、結合部を確認する。
 すると結合部は血で滲み、クリスティアナが紛うことなき処女だということがわかった。
「ああ、クリスティアナ……!」
 うれしくなり、パーシヴァルはそのままクリスティアナを抱き締める。
「パーシヴァルさまっ」
 クリスティアナは涙を伝わせながら、パーシヴァルの背に手を回してそれに応えた。
 パーシヴァルはちゅっと唇を合わせるだけのキスをクリスティアナに落とすと、彼女に真摯に問う。
「動いても大丈夫そうか? 痛かったら、ここまでにしておくが」
 するとクリスティアナは涙を浮かべながらも、緩く首を横に振ってくれた。
「大丈夫です、お願いします」
「わかった。いくぞ?」
 瞬間、パーシヴァルは抽挿を始める。
 ぐい、ぐいっと腰を上下に動かし、クリスティアナの蜜孔をかき回した。
「あああっ、んぁ、は、あぅっ、や、あぁあっ」
「痛い、か?」
「んんぅ、ううん、ううん!」
 クリスティアナはおそらく痛みを感じているに違いない。それでもパーシヴァルのために決して認めようとしないところが、パーシヴァルの心に刺さった。
 なるべく彼女の負担にならないよう、パーシヴァルはゆっくり腰を振っていく。
「ひ、ぁっ、んんぅ、ああ、あんっ、や、ぁあっ」
 それでもクリスティアナの中があまりに気持ちよくて、パーシヴァルは我を忘れないようにすることでいっぱいいっぱいだった。この気持ちを解放してしまったら、きっとクリスティアナを壊してしまう――だからなるべく加減して、中を穿っていく。
「ああ、んんぅっ、は、ぁ、あああ、や、んぁあっ」
「ああ、クリスティアナ、クリスティアナ!」
 しかし限界が近づくにつれて段々興奮してきてしまい、パーシヴァルはクリスティアナを呼びながら無我夢中で腰を振っていた。
「やぁあ、パーシヴァルさま、パーシヴァルさまぁっ!」
 クリスティアナもそれに応え、パーシヴァルの背中に爪を立てる。
 そしてパーシヴァルに限界が訪れた。
「ああ、クリスティアナ……もうダメだ……! 君の中で、俺は――」
 ぐいっと、ひときわ奥に亀頭が届いた瞬間、パーシヴァルは吐精する。びゅくびゅくと吐き出す精液が、クリスティアナの中に余さずに注がれていく。
 クリスティアナはそれを恍惚とした表情で受け入れていた。
「クリスティアナ……」
「ああ……パーシヴァルさ、ま……」
 疲れきったのかクリスティアナは、まぶたを落とす。
 再び彼女が眠りに落ちる前に、パーシヴァルは繋がったまま彼女に甘いキスをするのであった。

続きは本編で!

(――つづきは本編で!)

  • LINEで送る
おすすめの作品