異世界ナース閨教育~女嫌い王子が私なしではいられなくなるまで~

異世界ナース閨教育~女嫌い王子が私なしではいられなくなるまで~

「俺と結婚して、家族になって、俺の子供を産んでほしい」

あらすじ

「俺と結婚して、家族になって、俺の子供を産んでほしい」

 異世界の没落令嬢として転生したリジェルは、現実世界でナースだった記憶を活かし、倒れた隣国の王子ステフレッドを助ける。
 女嫌いの王子がなぜかリジェルの言うことはよく聞いている。感心した側近の計らいで王宮に勤めることになったリジェルだったが、その仕事の内容は、どんな女性をあてがっても反応しなかった王子の閨(ねや)教育係だった。

作品情報

作:ひなの琴莉
絵:Whimhalooo
デザイン:RIRI Design Works

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第一章 運命の出会い

 リジェルは両手を空に向かって伸ばし、深呼吸をした。
 春らしい陽気で気持ちがいい朝だ。
 店の周りに咲いている花に水をやり、扉を開いて中に入れば、老夫婦が忙しそうに働いていた。
 妻のジョジーヌは目を細めて縫い物をし、夫ヤニックは、店内をピカピカに磨いている。
「おはよう」
 元気いっぱい挨拶をするが、二人は耳がかなり遠くなってしまったらしく聞こえていない。
「おはようございまーす!」
 先ほどよりもボリュームを上げて声を発すると、二人はリジェルの存在に気がつき、こちらに視線を動かして微笑んでくれた。
「リジェルおはよう。今日も元気いっぱいだね」
「春らしくて暖かい日だから気持ちがいいんだもの」
「そうだね。気分がいい。今日も頼んだよ」
 ジョジーヌは優しく言って手元に視線を戻す。
 手に持っている布と針を眼鏡に思いっきり近づけて、とても見づらそうにしていた。
 ここで働いてもうすぐ二年になる。
 辺境地で縫い子をしながら生計を立てているリジェルは、元貴族令嬢だった。
 作物を育てている領地だったが、天候不良が続き不作になった。土地の評価が下落し街を出ていく人が増えてしまい、税収が大幅に減ってしまった。そしてついに没落し貴族をやめた。余った財産で両親と細々と暮らしていたが、事故で帰らぬ人に。
 両親の親戚に世話になる道もあったが、誰かに頼るのは嫌だった。
 というのもリジェルには前世の記憶が残っている。赤ちゃんの頃から前世の記憶があり、暮らすのもいろいろと大変だった。
 転生前は日本で看護師として働いていた。その知識を活かして生きていこうと思ったのだが、看護師としての仕事はほとんどなかった。どこにも行くところがなく気がつけばこちらの街にたどり着き、ここの手芸店を見つけたのだ。
 幼い頃から手先が器用だったリジェルは必死で懇願し、住み込みで働かせてもらうことになった。
 彼女が働くことで店の評判が上がり、来客も増えて老夫婦は喜んでくれた。
 リジェルも誰かに頼られて喜んでもらえることにやりがいを感じ、毎日忙しく働かせてもらっている。
 店を開店させると、すぐに婦人の客が入ってきた。
「リジェル、娘のドレスのボタンが取れてしまったんだよ。直してもらえないかい?」
「ええ、わかったわ」
「少し急いでるのだけど」
「お見合いするって言ってたわよね! 明日の朝までに仕上げておくから安心して」
「頼りになるね。じゃあ」
 リジェルは婦人を見送ると、早速仕事を始める。
 桃色のレースがふんだんに使われているドレス、これを綺麗に仕上げるのが自分の仕事だ。
 単価が安く裕福な生活ではないがのんびりと暮らすことができている。
 二十三歳になったリジェルはお年頃だから結婚をしたほうがいいと言われ、縁談を持ち込まれることもあった。
 今までははぐらかしていたが、いよいよ真剣に考えなければいけないところにきている。というのも老夫婦がこれ以上仕事を続けていくことが困難らしく、今月いっぱいで閉店するのだ。
『一人で店をやってみるかい?』
 ヤニックが提案してくれたが、さすがに一人で切り盛りするのは無理だと判断した。この仕事が好きだったので辞めなければいけないのはとても悲しいがやむを得ない。
(ここでゆっくりと過ごす日々は楽しかったんだけどなぁ)
「そういえば、今日はこれから他国の王子様が通行なされるそうね」
 ジョジーヌが思い出したようにおもむろに呟いた。国賓がこの道を通って行くということで迷惑のないようにとあらかじめ報告されていたのだ。
「たしか隣のルークフェルト王国、第一王子、ステフレッド・ド・マゼッタ・ルークフェルト様だったかしら。私と同じ年齢だと聞いていたわ」
 その姿を見たことはないが、とてもハンサムな王子だと噂は聞いたことがある。自分とは生きる世界が違う人なので、あまり関係ない話だと思って興味を持っていなかった。しかし実際にこの道を通ると思えばどんな姿なのか見てみたくなるものだ。
「そろそろかしらね? ちょっと窓を開けて見学してみようかしら」
 リジェルが明るい口調で言ったとき、ものすごい勢いで扉が叩かれた。入ってきた男性は護衛のような格好をしている。
「すみません! この街には医者はいますか?」
「残念ながら……五時間離れたところに」
 ヤニックが告げると詳しい住所を聞いて、他の護衛が走り出した。リジェルが外に出ると店の周りには立派な馬車があり、いつもと違う雰囲気になっていた。
 何事だと近所の人が駆けつけてきたが、この街の人は本当にいい人ばかりで王族が来たからといって騒ぎ立てることはない。
「医者って……どうしたのですか?」
「実はステフレッド殿下が腹痛を起こされまして……」
「あら、大変。横になったほうがいいですね」
「少しこちらで休ませていただいてもよろしいでしょうか?」
 老夫婦に視線を動かすと「入っていただきましょう」と言ってくれた。
 ステフレッドが担がれて入室する。
 腹を抱えて眉間にしわを寄せ額には脂汗をかいている。
「……うっ」
 痛そうで可哀想だ。
 寝室に運び、バイタルチェックをする。
 呼吸・心拍・体温・瞳孔反応。この世界には医療機器がないので、目で判断してわかるものだけの確認になってしまうが、前世の知識を活かして確認する。。
 額に触れるとものすごく熱くなっており、首と手首から拍数を確認すると心拍数も多い。この症状から見て、風邪からくる胃腸炎を発症しているのだろうと判断した。
「大丈夫ですか? 寒気がしませんか?」
「とても寒い」
「まずは身体を温めましょう」
 夫妻にお願いして毛布を持ってきてもらった。
「普段からお腹を壊しやすいなどの症状は持っていますか?」
「いつもはとても健康体だ」
 リジェルは側近に質問したのだが、本人が苦しそうな声で答えてくれる。
「そうですか。おそらく風邪からくる胃腸炎だと思います。今は無理して食事をなさることはありませんので、薬草の煎じたお茶を飲んでいただけますか?」
「気持ち悪い」
「少しでいいので飲んでいただければと……。横向きになってお腹を丸めるようにすると少し楽になるかと思います」
 ステフレッドは、言われた通りの体勢になった。苦しそうにしているので心配だ。
(もしここに鎮痛剤があれば少しは楽にしてあげられるのに)
 眠れるように鎮静効果のある薬草も用意したほうがいいだろう。
(確か裏の庭に薬草が生えてたはず)
「私はこれから、胃腸に優しい薬草と、鎮静効果のある薬草を摘んでお茶にしてまいります。ステフレッド殿下は寒いとおっしゃっておりますので、お湯袋を用意し体を温めて差し上げてください」
 テキパキと指示を出すので護衛は驚いている。リジェルは聡明な表情を浮かべて一度退出した。
 すぐに裏庭に行き、薬草の確認をする。
 最近までこの街には薬草に詳しい老人が住んでいた。
 前世が医療従事者だったリジェルは、興味津々に話を聞いていたので、そのときの知識が役に立ったのだ。
 娘のところに帰るとのことで引っ越した彼がいれば、今の病状にさらに合うものが見つけられたかもしれない。しかし、話を聞いていたことは不幸中の幸いだったと胸を撫で下ろす。
 急いで薬草を摘んで煎じて茶にし、苦しんでいるステフレッドの元へ行く。
「こちらはお腹の痛みが柔らかくなるお茶です。どうぞ飲んでください」
 怪訝そうな表情を浮かべるが、毅然とした態度で笑みを浮かべた。
「俺を殺そうとしているのか?」
 こちらが心配して言っていたのに、ヒドイことを言われて一瞬唖然としてしまった。
「失礼なことをおっしゃらないでください。先日ちょうど薬草の話を聞いたばかりなので知識を持ち合わせておりました。どうか信じてお口になさってみてもらえませんか?」
 それでも疑っているような表情を見せるので、側近が一口毒見をすることになった。
 飲んでも問題ない表情を浮かべているのでようやく信頼し口にしてくれる。大国の王子なので疑うのも仕方がないのかもしれない。
「まずは休んでください」
 薬草茶を飲んだステフレッドはしばらく苦しそうにしていたが、気がつけば効果が出てきたようで穏やかな表情で眠りについた。
 何かあっては困るとリジェルはずっとそばについていた。
 その間も額の汗を拭き取り、冷たいタオルを置いた。
 だんだんと熱も下がってきたようで、大事に至らなくてよかったと安心する。
 今日の夜には医者が到着するだろう。それまでここで看病させてもらおうと思った。
「あなたのおかげでステフレッド殿下が落ち着いて眠れております。本当にありがとうございます」
 先ほどからずっとそばにいる、丸い眼鏡をかけた若い男性が話しかけてきた。
「申し遅れました。私はステフレッド殿下の側近をしておりますレオポルドと申します。助けていただいた恩は忘れません。お礼をさせて頂きたいのでお名前を教えてもらえないでしょうか?」
「お礼なんて必要ありませんよ。苦しんでいる人がいたら助けるだけですから。名前は、リジェルと申します」
「リジェルさん……ですね」
「私、仕事をしながらここで様子を見ていますので、もしよかったら休んできてください」
「ありがとうございます……。では諸々と指示を出して参ります」
 そう言って彼は部屋から出ていった。
 リジェルは仕事道具を持ってきて縫い物をしながらステフレッドの様子を眺めていた。薬草が効いたのか、穏やかな表情で眠っている。大事に至らなくてよかったと胸をなでおろしていた。
 眠っている彼の隣でじっと顔を見つめる。乙女ゲームに出てきそうなほど綺麗な顔立ちをしている。
 サラサラのブロンドヘアーに、整えられた眉毛、長いまつ毛。筋の通った鼻と、薄くて形のいい唇。瞳の色はブルーダイヤモンドのようだった。顔をしかめていたのでよく表情がわからなかったが、切れ長のクールな二重をしているように見えた。
 ここにあるベッドでは窮屈そうなほど身長が高く、体が引き締まっている。
(さすが王子様というような容姿をしているわ)
 何時間でも見ていられそうなほど美しい顔をしていた。

(――つづきは本編で!)

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