作品情報

閨レッスンのお相手は憧れの先輩でした!~無垢なお嬢様は用意周到に練られた計画に気づかない~

「僕がほしいのは――君だけなんだ」

あらすじ

「僕がほしいのは――君だけなんだ」

幼いころから、一途に先輩のクロードに片想いをしているリーナベル。いつも彼のことで頭がいっぱいだが、学園の人気者・天才エリートであるクロードに近づく勇気が出ない!!そんなある日、彼女の通う魔術学園で、魔術師同士の魔力継承を目的とした任意の選択科目『パートナー補習』が開講される。プログラムには『閨補習』が含まれ、ペアで本交際を目指すことにドキドキのリーナベルだったが、相手はなんと憧れのクロード先輩……!?希望制のはずなのに、何かの間違いでは?と困惑する彼女に、クロードはとにかく甘く大胆に迫ってきて――

作品情報

作:小達出みかん
絵:ちろりるら
デザイン:RIRI Design Works

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一.一生見ているだけの片想いのはずだったのに

(まだかな……まだかな……あっ)
 金曜日の二時限目のあと、リーナベルはいつも授業を受けている西翼の塔の窓に身を寄せて、ちょうど向かいに位置する渡り廊下にじっと目を凝らしていた。
(あ……! いた)
 目当ての人物を見つけて、リーナベルは息を詰めて、とっさに目を閉じた。
 彼の姿を見るだけで――胸が苦しくなってしまうから。
 こうしてひそかに姿を盗み見るだけで精一杯だった。もしも目が合ったとしたら――きっとリーナベルの心臓は、どうにかなってしまうだろう。
(クロード……先輩)
 まるで太陽の光を溶かし込んだような眩しい金色の髪。理知的な輝きをたたえた、優しい緑の目。このディオリュクス魔術学園の、押しも押されもせぬ首席の学生で、卒業後は引く手数多と噂されている、魔術の才に溢れる先輩だ。
 その隣を歩いているのは、エキゾチックな黒髪の才媛、キルシーだ。クロードと同じ研究室に所属する彼女もまた、将来を嘱望されている学生だった。
 クロードは、今日もまた重たそうな羊皮紙の束を抱えている。あたらしい研究のレポートだろうか。そのレポートを、隣のキルシーがたわむれに奪うのを、クロードは笑って肩をすくめて許した。
 彼の周りはいつも、男女かかわらず、才能ある友人たちで溢れている。
 とてもとてもリーナベルなど、お近づきになれる雰囲気ではない。
(う……)
 リーナベルは無意識に胸を押さえた。クロードがキルシーに向ける穏やかな微笑みを見ると、胸の中は懐かしさと、彼が手の届かない人になってしまった悲しみでいっぱいになってしまうからだ。
(――いいえ、いいの)
 こうして遠くから、姿を眺められるだけで。それだけで満足だ。
(それだって、先輩が卒業したらできなくなっちゃうんだから)
 今のうちに、見納めだ。リーナベルは自分にそう言い聞かせて、渡り廊下を歩いていく彼の姿に目を凝らした。
 しかし、クロードとその隣にいるキルシーはどう見てもお似合いの二人で、リーナベルの胸の内は、まるで漬物石を放り込まれたようにズンと重くなった。
 自分がその位置にとって代わりたいなどと、そんな大それた思いを抱いているわけではない。わけではない、が……。
(うぅうう、効くなぁ……これは)
 とほほ、と内心泣き笑いでいるリーナベルの肩に、そのとき手がかかった。
「ちょっとリーナベル、まーたそこで盗み見してるのー?」
「ち、ちがうわ」
 親友のメリディが、リーナベルの肩に顎を乗せて、窓際に割って入る。
「ちがくないじゃーん。あれクロード先輩でしょう?」
「う……」
 詰まってしまったリーナベルに、メリディはにやにや笑った。
「こんなとこでコソコソ見てるくらいなら、アタックしにいけばいいのに。幼馴染なんでしょー?」
 そう、リーナベルとクロードは幼馴染同士で、親しく兄妹のような関係であった。過去には。
「それはそうだけど……でも今はもう、馴れ馴れしくするのはおそれ多いよ」
 彼は才能に溢れ、いくつもの新しい魔術を開発し、彼の成績表には収めた成果が書ききれないくらいだ。
 それに比べて、リーナベルはどこからどう見ても、平凡な力しかない、凡庸な学生だ。
 だから学園に入って時がたつにつれ、二人の交流は自然と減って、今では口を利くこともためらわれるほどに、疎遠になってしまっていた。
 しかしメリディは発破をかけた。
「何をおっしゃる。名門、レイゼンシュタイン家のお嬢様がおそれ多いなんてこと」
「……だからこそよ」
 レイゼンシュタイン家は長く続く魔術師の家系で、代々優れた人物を輩出してきた。
 だというのに――次期当主となるはずのリーナベルは、特に優れてもいなく、突出したものもない。
「名前ばかりで、いっそ恥ずかしいくらい」
 リーナベルは俯いてつぶやいた。この名に恥じぬ魔術師でありたいと、リーナベルはいつも努力してきた。しかし、リーナベルではどう頑張っても、既存の魔術の型をなぞって及第点をもらうのが限界だった。
「そんなことないよ。リーナベル、誰よりも努力してるじゃん。実際成績だって悪くないし」
 悪くはない。が、その先の魔術の扉を開けられないのがリーナベルだった。一度、教科書に載っていない新しい魔術に挑戦しようと限界まで踏ん張ったら、血反吐を吐いて倒れてしまったのだ。
「今年の七年、クロード先輩たちの研究チームがおかしいんだよー! 平民出身なのにあの魔力とセンス、化けものだって」
 リーナベルは、メリディに向かって微笑んだ。彼女に気遣わせてしまった。
「ありがとう。メリディと話して元気が出たわ」
「ってことは、やっぱ先輩たち見て落ち込んでたんじゃない!」
「うーん……ちょっと、ね」
 メリディは、クロードとキルシーが消えていった廊下をチラッと見た。
 彼ら二人は恋愛関係にあると、まことしやかに噂されているのは、学園中の知るところだった。
「やめなよー。こんなとこからそんなの見続けるのさ、自分で自分の心をいじめるみたいなものだよ」
 珍しく、真面目な口調でメリディが言う。
「そうかも……ね」
 メリディはリーナベルの手を取った。
「ていうか、今そんなことで頭悩ましてるの、リーナベルくらいだよ。ほら、遅れちゃうから早く行こう!」
 手を引かれながら、リーナベルは首を傾げた。今は休暇明けの三学期。大きな試験も終わって、なにも重要なことはないはずだ。
「あれ、次の授業なんだったっけ……?」
「もう、能天気なんだから! 次の時間は、三学期初回のホームルーム! 私たち六年生――やっと一八歳になったんだから、今年は『アレ』のお達しがあるってわけ!」
 ――なるほど。それで。手を引かれながら、リーナベルは納得した。

「それでは、皆さん」
 クラス中の空気が、ぴりっと張り詰める。
 教壇に立った担任のワイワクシアが、じっと皆を見渡して、その余韻を楽しむように言葉を切る。不惑をとうに超えたベテランの教師だが、いささか癖があり、一部の学生からは陰気だと敬遠されている。が、リーナベルは彼のことを信頼していた。
(真面目で、えこひいきしないもの……私みたいに才能がない学生でも、丁寧に教えてくれる)
「最終学年への進級を前にして、『パートナー補習』の説明に入ろうと思う」
 ワイワクシアは、皆の期待に応えるように、とうとうと話しはじめた。
「我が国において、魔術師は貴重な存在だ。数は多ければ多いほど、国力になる。そこで――我が国最古のこの魔術学園では、数十年前から『パートナー補習』を設けているのはご存知のとおり。これは国策とも言える。さて、この補習の内容は……ゼンガルド!」
 指名を受けた学生が、立って話し出す。
「この学園の高等部において、魔術師のパートナーを持たないもの同士を引き合わせ、所定のプログラムをこなす補習です」
「そのとおり。では、その狙いは? セシルキア!」
 再び別の学生が、ざっと立ち上がる。
「魔力は、遺伝率が高く――同じ魔術師同士で子を成せば、その子どもも魔術師となる可能性が高いからです!」
 ワイワクシアはうなずいた。
「そのとおり。しかし――」
 すると教室の中で、スッと手を挙げた女子学生がいた。
「先生。意見させてください。こんな制度は、私たちの人権を無視した横暴ではありませんか?」
 六年首席の、ラヴェンナが目を釣り上げて発言した。しかしワイワクシアは我が意を得たりとばかりにうなずいた。
「いい質問だ。たしかに、無理やり結びつけるとすれば、それは人道に悖る行為だ。しかしこの補習制度は、そういったものではない。補習の参加は任意。いうならば、簡単なお見合いのようなものだ。プログラムは決まっているが、当然性行為も合意のもと行われる」
 さらっと言われた言葉に、クラスがしーんとなる。
 しかしワイワクシアはどこ吹く風で、学生ひとりひとりに封筒を配った。
「すでにパートナーがいるものは、中の用紙にて申告すること。心に決めた人がいるのなら、それを学園側がどうこうするいわれはない。たとえそれが、非魔術師でもな」
 それを聞いて、ラヴェンナの釣り上がった目が、ほっとしたように緩んだ。
 リーナベルも少しほっとした。
(よかったね、ラヴェンナ……故郷に置いてきた彼氏のこと好きって言ってたもの)
 そこでワイワクシアは、眉を上げた。
「しかし、いまだパートナーがいない者には、単位や国策に関係なく、ぜひこの補習をおすすめしたい。なぜならば、君たちは一年後、広い世界に出る。世間の荒波に揉まれ、挫折や苦しみも経験するだろう。しかし、ふるさとであるこの学園でつくったパートナーが居れば、それが大きな支えとなるからだ」
 するとお調子者の男子学生が手を挙げる。
「先生も、これで結婚しなかったんですかー?」
 ワイワクシアはにこりとも笑わず言った。彼はめったなことでは動じない。
「残念ながら、この補習では。だが私も近いうち、その予定があると言っておこう」
 長らく独身を通していた彼の、突然の爆弾発言に、教室は一瞬静まり返った。するとそれに気を良くしたように、ワイワクシアはにやりと笑って教室を見渡した。
「さて、私の話はいい。封筒は渡ったか?」
 皆が封筒を手にしているのを確認して、ワイワクシアはうなずいた。
「よし。中には二つ紙が入っている。まずこの補習を受け入れるか否かの回答用紙と、パートナー指名の用紙だ。すでに諸君らの先輩である七年生は、この指名用紙に記入を済ませている。指名用紙に名前の書いてある相手が、自分を補習の相手として希望した先輩、ということになる」
 クラスに緊張が走る。特に女子に。
(つまり――これは実質の、告白)
 どの先輩が、自分を恋人として欲しているか、それがわかってしまうのだ。
「その相手と補習を受ける気がなければ、無論断って構わない。逆に六年生側からも、パートナー申請は可能だ。用紙に書き込んで提出してくれれば、一週間後、学園側がそれを組み合わせて、補習パートナーを組む」
「先生たちが組み合わせてくれるのではないのですか?」
「いいや。我々教員は一切関知しない。すべて学生課が機械的に行っているから、公正というわけだ」
 そんな質問のやりとりを横目で聞きながら、リーナベルは封筒を開けて、中を取り出した。一枚は白い申告用紙。二枚目は、赤い指名用紙。
 震える手で、リーナベルは赤い紙を開いた。そこには――

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