「俺が必ず守る。もう、お前を離したくない」
あらすじ
「俺が必ず守る。もう、お前を離したくない」
中学時代の初恋が忘れられず、28歳彼氏ナシのOL・美緒。母から結婚を急かされる毎日から目を背けようと、街へ繰り出した先で厄介な酔っ払いに絡まれる。そんな彼女を助けたのは、若頭となった初恋の人・圭吾だった。また離れ離れになるのなら――美緒は思わず彼に『抱いてほしい』と志願。「望みどおり、気持ちよく抱いてやるよ」熱を孕んだ瞳、艶やかな低音でささやかれた瞬間、美緒の胸は高鳴って……!?心優しい一途なヤクザから何度も何度も濃厚に愛されまくるなんて、聞いてません!!
作品情報
作:さくら茉帆
絵:北沢きょう
デザイン:RIRI Design Works
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序章 ~忘れられない初恋の人~
新学期が始まってから一ヶ月。明日からゴールデンウィークが始まるということで、周囲は早くも浮足立っている。
そんな中、太刀川《たちかわ》美緒《みお》だけは浮かない表情で一日を過ごしていた。
中学一年生の終わりごろ、両親が離婚し美緒は母と暮らすことになった。
離婚の原因は、自分と弟の教育方針を巡って、両親が不仲になったことにある。
父はしきりに、私立の中学に進学するよう言ってきた。しかし美緒は、仲のいい友達と離れ離れになりたくなかったのと、大好きなピアノを続けたかったのとで、公立の中学に行くことを望んだ。
母は美緒の希望を尊重してくれたが、父からは「音楽で食べていくつもりもないのに、ピアノを続ける意味があるのか」と猛反対された。
そうして両親の仲が次第に悪くなり、去年の秋ごろには毎日のように口論をするまでになっていた。
その結果、美緒は母、弟は父に引き取られることになった。
ピアノを続けたいという自分のわがままのせいで、家族がバラバラになってしまったのではないかという罪悪感が拭えない。
それからだんだんと、ピアノを弾く気力が失せてしまい、進級してからぱったりやめてしまった。
この数ヶ月の出来事を振り返りながら、美緒はふうっと重いため息をつく。
「美緒、表情がまた暗くなっているよ」
明るく弾んだ声で呼びかけてきたのは、井上《いのうえ》幸代《さちよ》。美緒と一番仲のいい親友である。
ピアノを始めたのも、幸代に誘われたのがきっかけだった。だからやめてしまったことで、彼女に対しても申し訳ない気持ちがある。
「せっかく気晴らしに図書館に来たんだから、もっと元気出しなよ」
ここのところ元気のない美緒を励まそうと、幸代はこうして図書館に誘ってくれたのである。
本当はあまり乗り気ではなかった。しかし、せっかくの幸代の厚意を無下にしたくなくて、美緒は彼女と一緒に市の図書館へ来た次第だ。
静かな場所なら、気分もリラックスできるかもしれないと思ったが、少しも晴れ晴れとしない。だから余計に、幸代に気を遣わせてしまったことを、心苦しく感じている。
「何だかごめんね、幸代。せっかく誘ってくれたのに、私がずっとこんな調子で……」
「ううん、私こそ無理矢理誘ったりしてごめん。あんなことがあって大変なのはわかるけど、美緒には元気になってほしくて。余計なお世話かもしれないけど……」
「そんなことないよ。幸代が気にかけてくれたおかげで、いくらか気持ちが楽になったのは本当だから」
美緒がそう言って小さく微笑むと、幸代はホッとした様子で「それならよかった」と表情を和らげた。
そんな中、やかましい笑い声が静かな図書館に響き渡る。
ある机の一角で、美緒たちと同年代ぐらいの男子二人が、大声で騒いでいるのが見えた。しかも机の上には、ジュースの入ったペットボトルが置かれている。
近くにいた図書館の職員が注意をしているものの、気弱そうな雰囲気のせいで舐められているのか完全に無視されている有様だ。
「私、ちょっと注意してくる」
そう言って男子たちの元へ向かおうとする美緒を、幸代は腕を掴んですぐさま引き止めた。
「やめなよ、美緒。あそこの中学、柄が悪いって噂だよ。もし逆恨みでもされたりしたら――」
「他の人が迷惑しているのに、見て見ぬふりなんてできないよ。それに、あの人だってかわいそうじゃない」
美緒は幸代の制止を振り切ると、ためらうことなく男子たちの元へ近づいていく。
「ねえ、ちょっといい?」
「あ? 何だよ?」
男子の一人が、苛立たしげな様子で美緒を睨みつける。
「図書館を利用している人の迷惑になっているよ。それに、そこの貼り紙に『飲食禁止』って書かれているのが読めないの?」
柄の悪そうな相手に弱みを見せてはいけないと、美緒は少し語気を強めて毅然とした態度で言い放つ。
男子たちは何かを言いたそうにしていたが、周囲の人間の冷ややかな視線に耐えられなくなったのか、忌々しげに舌打ちをして去って行った。
騒がしい連中を追い払ったことで、美緒はその場にいた人たちから感謝の言葉を投げかけられた。そんな中、幸代だけは心配そうに表情を曇らせてこちらを見ている。
「もう、見てて冷や冷やしたよ。あんな風に強気に出て、危ない目に遭ったらどうするの?」
「幸代は心配し過ぎだって。それに、向こうはすぐ引き下がっていったんだから、結果オーライじゃない」
幸代は小学生のころから、少し臆病で心配性な傾向がある。だからこの時点でも、彼女がいつものように大袈裟に心配しているだけだと、完全に高を括っていた。
夕方になり、美緒は幸代と別れて一人家路に就いていた。
看護師である母は、今日は夜勤のため家にいない。そのため、夕食は一人で食べることになる。
何を食べようかと考えながら歩いていると、目の前に柄の悪い男が十人ほど立ちはだかる。しかもその中には、図書館で騒いでいた例の男子二人もいた。
「先輩、こいつです。俺らに恥かかせた女は」
「なっ、何言ってるのよ! 悪いのはそっちでしょう!」
自分たちの言動を一切反省しない男子に、美緒は黙っていられなくて毅然と言い返す。
すると先輩と呼ばれた大柄の男が、ずかずかと前に出て美緒をじっと見下ろしてくる。恐らくこの男が不良グループのリーダーに違いない。
「女、ずいぶんいい気になってんじゃねぇか。俺のかわいい後輩に恥をかかせた報い、体で受けてもらうからな」
男は陰湿な笑みを浮かべて、品定めするように美緒の全身をじろじろと眺めた。
「け、警察に通報しますよ!」
美緒は込み上げてくる恐怖を抑えながら、必死で強気な姿勢を示す。
しかし相手は、そんな美緒を馬鹿にするように一斉に笑い出した。
「何だ、サツを呼べばビビるとでも思ってんのか? 俺らのこと、とことん舐めやがってるな」
それからリーダー格の男は、美緒と同じ目線まで体を屈めて、グイと顔を近づけてくる。
「いいか、俺らはこの辺を仕切っている羅生門だ。女だろうと、羅生門に歯向かう奴は全員死刑だからな。おい、サック貸せ!」
男が仲間からメリケンサックを受け取ろうとしたときだった。
突然、黒い影が目の前に飛んできたかと思うと、男が後方に勢いよく体ごと吹っ飛んだのだ。
一瞬、何が起きたのかわからず、美緒はもちろんその場にいた誰もが呆然としていた。
「お前ら、大勢で女を痛めつけようとするとか、恥ずかしくねぇのかよ? しかも武器で殴るとか人間としてとことんクズだな。何が羅生門だよ」
声のした方に目を向けると、背の高い黒髪の男子が立っていた。どうやら彼がドロップキックをお見舞いして、男を一撃で倒したらしい。
「お、お前は……二中の尾崎《おざき》圭吾《けいご》……!」
不意に、相手の男子中学生が怯えたような面持ちで叫ぶ。
私服だったので一目では誰かわからなかったが、顔をよく見ると同じクラスの尾崎圭吾であった。
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