作品情報

寝ても覚めても恋してる~赤面騎士団長は転生聖女を愛してやまない~

「──命を懸けて守りたいと思ったのは、彩が初めてだ」

あらすじ

「──命を懸けて守りたいと思ったのは、彩が初めてだ」

突然聖女として異世界に転移した、料理が得意な平凡会社員の彩。カタブツ騎士団長のグレイに連れられて王に話を聞くと、どうやらこの国には『百年に一度の厄災を聖女が救う』という言い伝えがあるという。しかし、そこには既に1人聖女が召喚されており、魔力の弱い彩はお役御免となってしまった!!まわりまわって彼女は、夢である小料理屋を開くことに。そんな彩の店の常連となり、顔を赤らめながらピュアで可愛い一面を見せるグレイに対し、彼女はいつしか恋心を抱いて……。

作品情報

作:秋花いずみ
絵:木ノ下きの
デザイン:RIRI Design Works

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  第一章

 私、楠《くすのき》 彩《あや》は、派遣会社で働く普通のOLだ。
 普通に小中高、そして短大を卒業して、就職した派遣会社の事務員として働いて三年目になる。
 毎日決まった時間に起きて出勤をして、同じ内容の仕事に残業もなく定時で帰り、休日に作り置きをしておいた料理を食べて決まった時間に寝る。
 平凡で代り映えのない私の人生だ。
 普通と違うところといえば、両親が他界してしまっていることくらいかな。
 私が幼児のとき、両親は旅行先の不慮の事故で亡くなってしまった。奇跡的に私は助かったけれど、両親は即死だったらしい。
 幼過ぎて記憶にないけれど、祖父母が見せてくれた写真のなかの私は、いつも笑顔の両親に囲まれていた。
 それを見る限り、ちゃんと大切に育てられていたのだということは、しっかりと伝わってくる。両親の記憶はないけれど、二人の笑顔が映る写真を見つめているだけで、胸の中がほっこりとあったかくなるからだ。
 父方の家族とは元々疎遠だったため、私は短大卒業まで母方の祖父母に両親の代わりに育てられた。
 しかし、優しさの塊だった二人も去年、先に祖父が病気で亡くなり、あとを追うように祖母も亡くなってしまった。
 私は本当の意味で天涯孤独になってしまった。
 これが普通の人とは違う境遇だと思う。
 両親もおらず、大好きだった祖父母も亡くなったときは、私の人生は地獄のようだと日々泣きながら暮らしていた。
 職場の人たちも私を気遣い、気持ちが落ち着くまで仕事を休ませてくれ、労わってくれた。
 いくら泣いても大切な人たちは戻ってこない。会いたくてももう会えない。
 それはわかっているけれど、大好きな人たちと暮らしたあの温かい時間はもうないのかと思うと、悲しみが込み上げてきて、何もやる気が出なかった。
 そんなとき、私の心を助けてくれたのは、祖母のレシピだった。
 祖母は料理が得意で自分好みの味を見つけたら、いつでも再現できるようにノートに書きこんでいた。
 それを祖母の遺品整理をしていたときに見つけ、私は仕事を休んでいる間、ノートを見て慣れない手つきだけど祖母の味を再現して、祖母の味付けの料理を食べていた。
 すると、懐かしい記憶が一気に蘇り、寂しくもなるけれど心も身体も途端にあったかくなっていった。
 そして今朝の朝食も祖母のレシピにある手作り味噌を使い、野菜がたっぷり入ったお味噌汁と梅干しのおにぎりを食べていた私。
 大根と人参とこんにゃくや小芋、そして椎茸を具材にしてその出汁がたっぷり出たお味噌汁を飲むと、今日も仕事を頑張ろうってやる気が出てくる。
「今日も忘れ物はないよね。よし、行こう」
 食べ終えた食器を洗って片づけた後、通勤鞄の中をチェックして出勤の準備をする。
 お弁当が入ったランチバッグも忘れずに持ち、施錠して家を出た。
 今日のお弁当のメインは出汁がたっぷり入っただし巻き卵だ。かぼちゃの煮物ときんぴらごぼうに、かつお節がたっぷりかかった白ご飯、そして今朝作った野菜のお味噌汁はスープジャーに入れて、今日のお弁当は完成だ。
 今晩の夕食は何にしようかなあ……。さっき朝食を作ったばかりなのに、すでに夕飯のメニューを考えている。
 すっかり自炊が趣味になってしまった私は、頭の中で冷蔵庫の中にある食材を思い出し、帰りのスーパーで買い足さなければいけない食材を考えている。
 最近、揚げ物を控えていたから、鶏のから揚げでも作ろうかな。竜田揚げにしておろしポン酢をかけてもおいしいよね。
 ワクワクした気持ちで食べ物のことを考えていたら、突然大きなクラクションがすぐ近くで鳴り響いた。
「危ない!!」
「きゃああ!」
 私の周りにいる人が次々に声を上げ、叫び声まで聞こえてくる。
 驚愕して身体が固まった途端、ドンッ!! とものすごい衝撃が私の身体に襲ってきた。
 そして地面についていたはずの足が離れ、身体も宙に舞う。
(えっ……。はねられた……?)
 車にはねられたのに、すごく冷静な自分にも驚いた。ああ、死ぬときってこんなに呆気ないんだ……。と同時に、これで両親や祖父母に会えると思うと、なんだか不思議な気持ちだった。
 なんて、そんな幸せな気持ちは一瞬で消え去り、すぐに訪れたのは地面に叩きつけられた大きな衝撃と言葉に表すことができないくらいの痛みだ。
 ああ、でもこれで一人ぼっちの世界とはさよならできる……。
 それもいいかもしれない。それに最後は大好きな野菜のお味噌汁も食べられたし、よかった……あっ、でも竜田揚げは食べたかったな……。
 そんなことを考えながら、目を閉じ、意識は遠のいていった。

*****

 目が覚めると、私は知らない天井を見つめていた。
 嗅いだことのない空気を感じ、急いで身体を起こした。
「いたた……。腰が痛い……」
 この腰の痛さは経験がある。体調が悪いとき、ずっと横になっていたら感じる痛みだ。
 腰を押さえながら辺りを見渡すと、見たことのない景色が広がっている。煌びやかな装飾のベッドに私は眠っていて、壁には西洋的なデザインが施され、飾ってある調度品もいかにも高級そうな輝きがあるものばかりで、例えるのならお城の中だろうか。
 まるで異国の地に来たみたいだ。
「ど……こ……?」
 瞬きを何度も繰り返し、私は驚きのあまり身体が硬直してしまう。すると、靴音が聞こえてきた。
「目が覚めたか」
 低い男性の声がどこからか聞こえてきた……。一気に冷や汗がどっと溢れてくる。
「まだ目覚めてないのか。そうか耳が聞こえないのか? 俺の声は聞こえるか?」
 威圧感のある声から、一気に落ち着いた声に変わる。多分、心配してくれているのかな。靴音の主が私の顔を覗き込んできた。
 サラサラの黒髪で綺麗な顔をしている人だと思った。だけど、漆黒の鋭い瞳で見つめられて、また萎縮してしまいそう。
 それでも、心配してくれるような人なら怖い人じゃないかもしれない。そんな安心からか、ようやく声が出た。
「き、聞こえて……ます……」
 すると、彼もほっとした表情になり私から距離を置く。
「あの……ここは……どこですか?」
 私は彼に、恐る恐る語りかけてみる。
「ここはイニス王国の首都イルバーナだ。あなたが中庭で倒れていたところを訓練中の俺たち、騎士団が見つけた」
「イ……ニス? イルバーナ……?」
 王国……? 騎士団? 聞いたことがない国の名前と首都、それに日本では全くなじみのない騎士団という言葉に頭の中がめちゃくちゃ混乱している。
 そういえば先ほどから、彼が動くたび腰に添えられている金具から金属製の音がする。
 えっ……あの細長い形って映画やゲームでよく見るような剣じゃない……?
 それが剣だとわかると、収まっていた冷や汗がまた一気に溢れてきた。
 どうしよう……変なことを言ったら殺される? でも、うまくしゃべれる自信なんかない。だけど、言葉が通じているってことは日本であってる? ということは、ここは映画の撮影場所とかかな。この人は俳優さんとかそういうのかも。
 私、いつのまにか撮影現場に紛れ込んで、事故にあったのかもしれない……なんて自分の都合のいい風に考えていたら、彼は顔をほんのりと赤くして咳ばらいをし口を開いた。
「……わからなくて当たり前だ。ここはあなたたちが暮らしていた世界じゃない。全く違う世界なのだから」
 えっと……そうかこれはどこかのテレビ局の盛大なドッキリで、私は仕掛けられた一般人? それなら今の状況は理解できる。車にはねられたのも、CGだったのかもしれない。
 どこかに隠しカメラとかあるのかな。私にこんなハプニングが起きるなんて、人生捨てたもんじゃないな。
「やはり混乱しているな。動けるか? 詳しいことは歩きながら話そう」
 そう言われ、手を差し伸べられる。膝をつく彼は、真っ直ぐ私を見つめている。
 なんて演技の上手な人だろう。まるで本物の騎士みたいだ。
 それにこんなかっこいい顔をした俳優さんなら、もっと売れてもいいのにな……なんて思えるくらい素敵な人だ。
 私は自分の顔に熱が集まるのを感じながら、差し出された手にそっと自分の手を置いた。
「俺の名前はグレイ・レームブルックだ。歳は二十七。イニス王国イルバーナの騎士団長を務めている」
「あっ……わ、私は楠 彩です。二十五歳です。えっと、会社員をしています……」
「カイシャイン……聞いたことがない職種だな」
 グレイさんは不思議そうな顔をしている。会社員を聞いたことがないなんて、ここまで設定がしっかりしているのもテレビの撮影だからかな。
 もしかしてゴールデンで流れるかも! なんてちょっとウキウキしていると、グレイさんは私の手を優しく握り、立たせてくれる。
 そして「こっちだ」と言い歩き出した。

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