作品情報

推しってまさかの私ですか!?~カタブツ将軍は元聖女の料理番を一途に愛す~

「……つまり、キス以上に効率がいいことがしたいと」

あらすじ

「……つまり、キス以上に効率がいいことがしたいと」

望む者に惜しみなく癒しの処置を行う、巷で大人気の聖女クララ。彼女は多忙な毎日に疲弊し、ある日その神力は使えなくなった。神殿から追い出されたクララことミリセントが、次の職を求めたどり着いたのは魔獣と闘う最前線の南の砦。働く兵士は「ほぼ山賊」万年人手不足のこの場所で、彼女は紅一点の料理番となることに。中でも怖いのは隻眼の責任者、女嫌いのサイラス将軍だ。しかし、彼は根っからの聖女クララ信者《ファン》で…!?

作品情報

作:イシクロ
絵:唯奈

配信ストア様一覧

本文お試し読み

序章

 月明かりだけが照らす暗い部屋の中には荒い息遣いが満ちていた。
「ん、っ……ぅ」
 身体の奥まで雄茎を受け入れたミリセントは、震えながら自分に覆いかぶさる人物を見た。
 目の前にいるのは鍛えあげられた身体をした、熊のように大きい青年だ。黒い髪に、右目を眼帯で隠した彼は一つだけ見えている赤い瞳をミリセントに向ける。そしてわずかに欲の滲む目元を緩ませて動き出した。
「ふ、っぅ、……んぅ」
 突き上げられてミリセントの口から甘えた声がこぼれた。
 お互いすでに何も身に着けておらず、熱に浮かされた身体には汗をかいて、髪がはりついている。腰が完全に抜けている状態でクッションに背を預けながらミリセントは口を開いた。
「うう、すみません、将軍、こんな、協力して……」
「……気にするな」
 はぁ、と彼が息を吐いた。
「砦のためでもあるからな」
 そこで将軍――サイラスがミリセントの腰を掴んだ。
「あ、っん、ん、っふ」
 下から断続的に突き上げられて揺さぶられる。大きすぎるものを受け入れるミリセントは弱いところを的確に擦られて喘ぐしかない。
 そうだ、これは恋人同士の行為ではなくするべき理由がある。彼は砦の将軍として責任者としての義務を果たしてくれているだけなのだから……そう考えると、胸が苦しくなった。
 それでも、身体に溜まる初めての熱の感覚にただ身悶えるしかない。
「ひゃん、ん……ぁ」
「こんなところ……他の連中に見られたら殺されそうだ」
 小さく呟いた彼が、のけぞったミリセントの首筋に舌を這わせる。
「しょう、ぐ……っあ、あ」
 舐められながら腰を動かされると、すぐに快楽がのぼってきた。彼の手がつながっている部分の上にある愛蕾をこすった。
「ひう、や、そこ……」
「ふっ、……はぁ」
 サイラスも荒く息をする。その低くて艶っぽい声を聞いていると段々変な気分になった。言いようもない快楽が腰に溜まって、熱情に溺れて何も考えられない。すぐに腰がガクガク震えて限界を訴えたところでサイラスはゆっくりと、奥まで埋まる屹立を抜いた。
「ふ……?」
 とろんとした目のミリセントの髪をかきあげた彼は、入り口近くまで抜いた熱を一気に奥へと押し込んだ。
「……――、っ」
 隘路を大きすぎる熱が行き来する。すぐに蜜が溢れてサイラスのそれにまとわりつくのがわかった。
「っぁう、……は、あ、ぁあ……」
 腰を掴む手を離させようともがいていたが、力の差はどうしようもない。甘い責め苦に息が乱れて身体が勝手に反応する。
「ん、ふあ、あ……――」
 ミリセントの喉が震え身体の奥がぎゅうっと締まる。そこでサイラスも息を詰めた。わずかに休止の時間があり、衝撃に荒い息を吐きながら震えているミリセントの頭を撫でて、彼が動き始めた。
「あ、っまって、もう、じゅうぶん……」
 涙目で訴えるミリセントを無視して責め立てられる。サイラスに合わせて否応なく揺さぶられるミリセントは、ろくな抵抗もできないまま快楽の海に溺れた。

   * * *

 ミリセントの乗る馬車はカタカタと南に向けてゆっくり進んでいた。
 乗客は一人だけだ。他には木箱や食材が入っている籠が大量に積まれているだけの馬車の中で、ミリセントは膝を抱えて震えていた。
(だ、大丈夫だよね……ちゃんと住み込みの『いい仕事』に向かってる、よね)
「……衣食住完備、服支給、前職不問、身分保証必要なし、平均月収の二倍の、『いい仕事』……」
 すでに王都から数日、最後に街を出発して数時間が経っている。ボロいマントを羽織ったミリセントは視線をさまよわせながら、御者に言われた文言をくりかえした。
 今さらだけれど、これはとても怪しい話なのでは。
 雇い主から人集めを頼まれているという、この馬車の御者から提示されたとき何も考えず飛びついてしまったが……。
 ここに至るいくつかの街で人に声をかけていたのに、全員に断わられていた。怪しい。さらなる不安材料としては、ただ南と言われただけで具体的な場所や内容を聞いていない。
(でも、他に行くあては……)
 そこで馬車が止まった。「着いたよ」という御者の声にぎくりと身を震わせつつ、ミリセントはそっと馬車の幌を持ち上げて外を見た。
「うわぁ」
 思わず感嘆の声がもれた。
 目の前にあったのは、そびえたつ巨大な建物だ。レンガを重ねて作られた堅牢なそれは教会の塔ほども高く、幅は両端が見えないほど長い。そして建物の上には物見台らしきものが見えた。
 壁には一か所だけ大きな鉄門が取りつけられていて、屈強な身体つきの兵士が二人、武器を持って立っている。
「……あの、ここ、どこですか?」
 御者台から降りていた御者に聞くと、彼は目を丸くしてミリセントを見た。日焼けした肌の彼が頭を掻く。
「驚いた。君、まだどこかわかってないの?」
 キィィィィイ!
 そこで、ガラスをひっかくような嫌な音がした。見れば、建物を挟んだ向こう側の上空に、家ほどもありそうな大きさの鳥が羽ばたいている。それがスピードをつけてこちらに向けて突進してきた。
「っ」
 建物の上空を越えそうだった鳥は、しかし見えない壁にぶつかるように体勢を崩す。墜落はせず空中でバランスを取り戻し、再び舞い上がって弾かれた。キィイイとその度に叫び声を上げている。
「……す、住み込みの仕事って、もしかして……」
 上空を指さして青ざめるミリセントの肩を叩いて、御者がうなずいた。
「俺が言うのもなんだけど。お嬢ちゃん、甘い話にはもうちょっと気をつけたほうがいいよ」
 南の砦。それはここアスキス王国の南端、国境を面する場所にある要塞の名だ。
 この砦の向こうには人ならざるモノが無数に暮らしている。主に、人を捕食する魔獣から民の安全を守るべくして建てられた砦は、文字通り国の防衛線だった。
 境界には目には見えない結界が張られていて、上空にいる怪鳥のようにあらゆる魔獣をはね返す力が宿っている。昔、偉大な魔術師が理論をつくったと言われるそれには、王都にいる聖女の神力によって作用していた。ここまでならばどうということもないのだが……。
「いらっしゃい! よく来てくれたね」
 建物の中から一人の男性が出てきた。
 声をかけたのは、エプロンをつけた壮年の男。くるんと丸い目をしている彼は背が低くてふくよかな体型をしていて、まるで木彫りのおもちゃのようだ。
「俺はカーシィ。ここの料理長だよ。いやぁ頼んだ甲斐があった!」
 そう言って御者の背中を叩く。
「ええと、その……私、武器は持ったことがなくて……魔獣と戦えるかどうか」
 カタカタ震えながら、半泣きでミリセントは手を握った。上空ではいまだに怪鳥が体当たりを続けている。
「違うよ、仕事は料理作りだから!」
「料理……?」
 聞き返したところで、物見台から誰かが上空へ飛び出した。
 怪鳥が高度を下げたタイミング。そこで黒いマントをはためかせた人影が、持っていた剣を怪鳥の首に突き刺した。そのまま力任せに振りぬかれて血があたりに飛び散る。
 一太刀で鳥の首を落とした彼が、力を失った鳥の背に乗ってそのまま地面に落ちてきた。
 ズシン、という音と振動を響かせてわずかに痙攣した怪鳥が、羽を地面に伏して力を失う。遅れて一抱えほどもある鳥の頭がミリセントのすぐそばに降ってきた。
「ひっ」
 鳥の背中に乗っていた人物が地面に降りる。
 それは黒いマントを着た隻眼の男だ。髪は夜のような黒。切れ長の目に血のように赤い瞳をのぞかせていて、すっと通った鼻筋にうすい唇は端正という言葉がよく似合う。そして全身、怪我と怪鳥の血で赤く染まっていた。
 鎧の上からでもわかる、鍛えられた大きな体躯の彼は、ゆっくりと剣を鞘に戻して冷ややかな目で縮こまるミリセントを見た。
「料理長、新しい料理番か?」
「そうですそうです」
 カーシィの言葉を受けて、彼はじっとミリセントに視線を注いだ。
(目を逸らしたらやられる!)
 本能的にそう思って睨み返す。必死にその威圧感に耐えていると、彼は口を開いた。
「女一人だけここにいられても迷惑だ。帰れ」

 ――出ていけ、力のないお前にはもう用はない。

 ふいに、耳の奥に残る言葉がよみがえる。
「……っ」
 確かに帰りたいと思わなかったと言えば嘘になるが、そんな言い方はない。そもそも仕事を募集したのはそちらだ。そんな言葉が頭をよぎる間に、隻眼の男が踵を返した。
「待っ、……あ」
 彼をとっさに追ったミリセントの足が、飛び散っている怪鳥の血に滑った。堪えられずバランスを崩して目の前の大きな背中にぶつかると、ぎょっとした顔で彼が振り返る。
「す、すみませ……」
 次の瞬間、大きな身体が傾いで――ばたーん、と男が地面に倒れた。
「えええええええええ、大丈夫ですか……っ」
「ああ平気平気、サイラス将軍は女嫌いだから仕方ないんだ」
「嫌いだとこうなるものです!?」
 カーシィののほほんとした言葉に思わずつっこんだ。
「おーい、誰か将軍を運んでー」
 うぃーす、と門番たちが言う。存外丁寧な手つきで、気絶した彼は砦の中に運ばれて行った。
(え、ええと)
 いろいろありすぎて言葉も出ないミリセントの肩を叩いて、カーシィが言う。
「まぁでもとりあえず、気絶させたうちの将軍に謝罪はしないとね?」
「……」
「ようこそ南の砦へ」
 先ほどと同じようににこにこ笑って砦の入り口を示す彼は、おもちゃのようにかわいい分、むしろ怖かった。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

  • LINEで送る
おすすめの作品