作品情報

【挿絵付き】陥落余裕な純粋わんこの正体は、王国一の絶倫イケメン魔術師でした

「綺麗、柔らかい……全部」

あらすじ

「綺麗、柔らかい……全部」

国家機密である新魔術。その情報漏洩の証拠を探るため、王立魔法研究所に潜入中の新米スパイ・レベッカ。優秀な彼女は、冷静にターゲットとの接触を進めていくが、ある日、任務に重要な役割を果たす魔術師・ランドルフと出会う。研究員たちの雑用を笑顔で引き受ける、わんこのような無邪気で底抜けのお人よし――彼の姿にもどかしさを覚えつつ、任務達成のためにはまず彼を手懐けるのが近道だと判断。だが、唇を奪った瞬間、想定外に強く押さえ込まれ、逃げられないまま執拗に弱いところを舌で責められて――童貞相手に雑に捨てようと思ったはずの処女、絶倫なんて話が違う!!【whimhalooo先生の挿絵も収録!】

作品情報

作:イシクロ
絵:whimhalooo
デザイン:RIRI Design Works

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3/7(金)ピッコマ様にて先行配信開始!(一部ストア様にて予約受付中!)

本文お試し読み

●序章

 天井裏からレベッカは下の部屋を覗いていた。
 大きな机や薬品、実験器具、魔法の杖などが並ぶ雑多な部屋では、今しも一人の男性が作業をしている。
「……ああ、なるほどこれで……んん? おかしいな……」
 眼鏡をかけ、魔術師の長ローブを着た彼はブツブツ呟きながら頭を掻く。
「……赤ドラゴンの髭はうまくいくと思ったんだけど……参ったな……」
 そんな声が、天井裏にいるレベッカの耳にも聞こえた。
 あまり手入れのされていないもさっとした灰色の髪が顔を半分ほど覆っている青年だ。その目の下には濃いクマがある。
 彼はこの国の王立魔術研究所の研究員。そして研究しているのは新しい魔術機構についてである。

 この世界には魔法が存在している。
 魔法の杖や魔法陣を描いて行う魔術、魔石や魔獣の素材による魔道具。それを人々は日常生活、医療、建築、兵器――さまざまな分野に活用して暮らしていた。
 特にこの王立魔術研究所は、他国に先駆けて実績を積み上げており、この国で生み出される新しい魔術が次世代を担うと言われている。
 公表前の研究は国家機密として扱われ、他国が喉から手が出るほど欲している情報だ。
 つまり、レベッカのように勝手に天井から内部を覗いているとバレて捕まれば、極刑は免れない。……ただし、ここはいつクビになってもおかしくない下っ端が配属される、雑用部署だが。
 もちろん用心にレベッカは幾重にも気配を消す魔術をかけている。
 とはいえ男性はうなりながら歩いているだけで、こちらに気づく様子は一切ないけれど。
 ゴーン、ゴーン。
 観察を続けていると、昼休憩を知らせる鐘が鳴った。
 男は、ふう、と息を吐いて歩くのを止めた。
 そして髪を乱したまま猫背気味にいそいそと鞄から包みとポットを取り出した。
 先ほどまでと一転、幸せオーラを全身から出す彼は椅子に座って、包みを開けた。
 中身はパンに具材を挟んだサンドイッチだ。
 ハムにチーズ、甘辛く味付けしたチキン、野菜だけのものが入っていて、デザートにはイチゴ。
 見た目にも鮮やかなそれを前に男が両手を胸の前で組んだ。
「いただきます、レベッカさん」
 ――はい、どうぞ召し上がれ。
 レベッカは心の中で呟いた。
 彼がサンドイッチを口に入れようとした瞬間――。
「またここで食べているのかね、ランドルフくん」
「しょ、所長!」
 扉を開けて入ってきたのは、一目でわかる上等な服に身を包んだ男だった。
 所長と呼ばれた彼は、乱雑な机の上に載せられたランチセットを見て目を細めた。
「せっかくの恋人の手作り弁当を、こんな薄暗い研究室で食べるのか……」
「い、いえ、……その」
「ずっと研究室にこもってばかりだと、気が滅入るよ。昼休憩くらい外の空気を吸ってきたらどうだい?」
「ええと……」
 ランドルフ、と呼ばれた青年がちらりと窓の外を見た。
 そこでは青空の下、芝生に備えられたテーブルで昼食を楽しむ魔術研究員たちの姿が見える。
「もしくは、そのサンドイッチを分けてもらえるなら私がご一緒しよう」
「いえ! 大丈夫です!」
 素早くサンドイッチを包みに戻したランドルフは、猫背のままそれを大事に胸に抱えた。
 そして机の上のものをそのままに、ぺこりと所長に頭を下げて部屋を出ていった。
 扉が閉められれば、部屋の中には所長一人が残される。
 彼はおもむろにランドルフの机に近づいた。
 そして乱雑に置かれているメモにいくつか目を通し、そのまま何食わぬ顔で部屋を出ていってしまった。
「……」
 その一部始終を天井から見ていたレベッカは、足音が遠ざかるのを確認して部屋に飛び降りた。
 頭の上でくくっている白に近い金髪がふわりと揺れる。
 魔術探知にかからない特別製のスーツに身を包んだレベッカが指を鳴らすと、服は何の変哲もないシャツとスカートに変わった。
 ――あの男も懲りないわね。
 そう心の中で呟いて、所長が眺めていたメモを見る。
 そこにはランドルフの文字で、新しい魔術についての初案が書いてあった。
 ――まぁ、ほいほいこんなものを置いているランドルフさんも悪いけど。
 自分のことは棚に上げて、レベッカは肩を竦めた。
 レベッカの他にも、研究所内にはスパイがいるというのに。

(――つづきのお試し読みは各ストア様をご覧ください!)

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