お飾り妻のおつとめ日記~仮面夫婦でも夜は演技じゃ済まされません!?~

お飾り妻のおつとめ日記~仮面夫婦でも夜は演技じゃ済まされません!?~

「痛みも辛さも……悲しみも。すべてを耐え抜いた貴女が、俺は愛おしい」

あらすじ

「痛みも辛さも……悲しみも。すべてを耐え抜いた貴女が、俺は愛おしい」

 破格の補償金と引き換えに強国獅子王ヴィークのもとに嫁がされたのは、『嫁き遅れの古株姫』こと伯爵令嬢エルディラ。名目上の妃でいればいいはずだったのに、「飾りの妻などいらぬ」と言い放ったヴィークは夜毎にエルディラを求めてきて――話が違います!

作品情報

作:更紗
絵:whimhalooo

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本文お試し読み

◆第一章

 ――これじゃあ全然――
「話が違う……!」
 その夜、軍事大国シャルバトレイに嫁いだ伯爵令嬢エルディラは慌てふためいていた。
 寝台の上で思わずこう叫んでしまったのも、致し方ない。
「何か言ったか?」
 覆い被さっている男に問われる。
 暗い夜の闇の中、男の赤い錆色の瞳だけが爛々と輝いているように見えて、エルディラは思わずうっと息を飲んだ。
 まずい、何か弁明しなければ。
 焦りで背中にじわりと汗が滲む。エルディラはいつの間にか開かれていた白い夜着の胸元をぎゅっと両手で掴んで隠しつつ、なんとか声を絞りださんと四苦八苦した。
「あのっ、そのっ」
 現在、自分がいるのは肌触りの良い純白の敷布が敷かれた寝台である。
 月も高い真夜中ともなれば、寝台の上に居ても不思議はない。けれど少々おかしいのは、目の前に筋骨逞しい上半身裸の男がいることだ。
 それもただの男ではない。
 獅子の鬣に似たざんばらな髪は血濡れの剣が錆びたような赤錆で、鋭く強い意志を宿す瞳も同じ濃い紅だ。
 顔立ちは端正ながら凜々しさがあり、厳めしくも実用的な筋肉に覆われた屈強な体躯は、まさに獅子王の二つ名に相応しい。
 ヴィーク=イファド=シャルバトレイ。
 二つ名が示すとおり、数多の戦場にその名を轟かせた雄々しき武人王である。
 彼が本日付けでエルディラの夫となった強国の王、つまりシャルバトレイ王その人であった。
 それは良い。そこまでは良いのだが、エルディラにとっての大問題はこの【状況】にあった。
「あ、あの」
「どうした?」
 言いよどむエルディラの顔を、ヴィークが覗き込む。
 厳めしい体格とは違い、どこか品のある眼差しを向けられて、彼女の胸が緊張とは違う高鳴りを覚えた。
 が、ときめいている場合ではないと己を叱咤し、エルディラは意を決して王に発言する。
「その! お、お話がっ……違うのでは……?」
「話とは」
 そんな筈は無いのに、まるで追い詰められているような心地でエルディラはヴィークに問いかける。
「わ、私達はその、見せかけの夫婦になるはずでは……!」
 顔を熟れた林檎のように真っ赤に染めながら、彼女は恐る恐る雄々しき獅子王に疑問を呈した。自分達は本来『仮面夫婦』になるはずではなかったかと。
「み、密使の方が……私はその、名目上の、妃でよい、と」
 羞恥で頬を染めながら時折声を詰まらせて語るエルディラを、ヴィークがどんな目で見つめているかも知らずに、彼女は必死に語り続ける。
 エルディラの華奢な肩口から長い蜜金の髪が流れ落ちていく。
 頭のてっぺんからつま先まで磨き上げられた彼女の細い肢体は、純白の夜着越しに見ても美しくかつ艶めかしい。
 白い肌に練り込まれた香油はしっとりと匂い立ち、初々しい彼女の魅力を底上げしていた。
 これもすべて、婚姻初夜の床入りのためだ。
 けれどその初夜がある事自体おかしいのだ。
 だって自分はお飾りの妻になるという『契約』だったのだから。
 エルディラの生家、ワイエット伯爵家に訪れた密使は確かに彼女に告げた。
『これはあくまで、同盟のための婚姻。王には多くのご側室がおられますので、エルディラ様には名目上のお妃となっていただきたく』――と。
 だというのに、この状況はなんだ。今にも食われそうではないか。
 まさに食われる。そんな言葉が似合う気がした。
(ど、どうして何も言ってくださらないのかしら……!?)
 己より頭二つ分はゆうに大きいだろう男が無言でいるのは中々に威圧感があり、エルディラは答えが返らないことに焦りを増大させた。
 そもそも体格があまりにも違いすぎるのだ。武人であるヴィークに対してこちらはただの小娘である。
 おまけに相手はエルディラの故国より何倍も強大で軍事力のある大国の王。
 辺境の貧乏伯爵令嬢であった自分が意見するには荷が重い。
 とある事情からヴィーク個人に対して恐怖は抱いていないエルディラだが、表情も言葉もなくじっと見据えられるのには流石に息苦しさを感じた。簡潔に言えば圧が強いのだ。
 たらり、とエルディラのこめかみから汗が流れる。
「で、ですからあの……と、床入りする必要は……わ、私はその、こういったことは慣れておりません、し……」
 ただ状況が状況なだけに聞くしか無い、と判断し、エルディラは胃が痛む思いで己の思いを口にした。
 言うまでもなくエルディラは処女である。
 ヴィークとはまた違った二つ名を持つ彼女は、故国で『嫁ぎ遅れの古株姫』と呼ばれていた。
 理由は彼女が二十歳にして誰とも婚約すらした事がないからだ。
 通常、貴族令嬢は十四にもなれば婚約者が決まる。
 しかしエルディラは作物も禄に育たぬ荒れた領地を持つ貧乏伯爵家に生まれたため、年頃の子を持つ貴族達からは敬遠された。
 見目も平凡なうえ持参金も無し。かつ生娘。
 そんな女を百戦錬磨と名高い武王が相手にしたところで煩わしいだけだろう。
 床上手な女の方が男も相手していて楽しいはず。
 という妙な知識を脂ぎった故国の大臣達から植え付けられていたエルディラは全く思っていなかった。
 己を見下ろす錆色の瞳が、まるで炉にくべたかのような熱さを帯びていることなど。
「……」
「あ、あのう……?」
 びくつくエルディラを、ヴィークは微動だにしないままじっと見下ろしている。
 何か言いたげにも思えるが、今のエルディラにそれと気付ける余裕はない。
 せめて何か言ってくれ。と強く願う彼女の耳に、とんでもない台詞が飛び込んだ。
「気が変わった」
(はい?)
「え?」
 今何と、と聞き返す間も無くエルディラの胸の前に置いていた手がどかされる。
 脳内の疑問が声と二重になって響いたのはそれだけ彼女が驚いていたからだ。
 ぽかん、と放心状態のエルディラの両腕が流れるような仕草で頭上に縫い止められ、編み紐が解けた夜着の胸元が露わになった。
 かろうじて乳房を覆っていた布地も、ヴィークが邪魔だと言わんばかりにあろうことか口で咥えて広げてしまい、彼女のほどよく盛り上がった乳房がふるりとまろび出てしまう。
 エルディラといえば、ヴィークが彼女の夜着を口で咥えた瞬間に放心を飛び越え頭が真っ白になり、ぴき、と固まっていた。
 彼女の白くきめ細やかな肌が外気に晒されびくりと震える。
「……綺麗だ」
 エルディラの白い乳房を見下ろすヴィークが、熱の籠もった声で囁いた。
(い、いま服を……歯で噛んで、え? 口で咥えた? いえどちらでも同じなのですけれどっ、ちょっと待ってこれは一体どういう事……っ!?)
 故国でも荒ぶる獅子王として名高い男が取った意外な行動に、彼女は恥ずかしいやら焦るやらわけがわからなくなっていた。
「え、えっ? あのっ」
 ヴィークの、端正で高い鼻梁が下りてくる。尖った鼻先が彼女の胸元に埋まった。
 すう、と大きく息を吸い込まれて、己の匂いを嗅がれているのだと気付いたエルディラの鼓動がばくばくと急激に激しくなる。
「っ……」
 すり、とヴィークの左頬がエルディラの右胸に触れた。
 少しかさついた肌には隆起があり、それが彼の左頬にある大きな傷だとわかる。
 けれど、エルディラには気付く余裕は一切ない。胸の膨らみに、何かを請うように幾度も頬を押し当てられている。
(え、えええ……!?)
 戦場では長柄の戦斧バルディッシュを手に、見る者を圧倒するほどの猛々しさを誇るという男が、まるで甘える猫のように彼女の胸元にすりすりと顔を擦りつけてくるではないか。
「っえ、あ、ぁあっ」
 素肌に直接感じる他者の感覚に、彼女の背筋がびくりと跳ねた。
 二つの胸の膨らみの間にヴィークの顔が埋まっている。
 かと思えば丸い曲線部分にちゅ、と軽い口付けを落とされて、エルディラは驚きと羞恥で大きく目を瞠った。
 かっ、と一気に顔が朱に染まる。
「っ」
「……嫌か?」
 混乱の極みに達しているエルディラに顔を上げたヴィークが静かに問う。
 気のせいだろうか。真剣な表情なのに、どこか自信なさげに見えるのは。
 今の彼には人々が語る【敵には情け容赦ない】姿など微塵も見当たらない。
 それどころかまるでエルディラに拒まれるのを恐れているかのような、どこか怯えのようなものを含んでいる気がした。
 今自分を組み敷いているのは本当に、あの獅子王ヴィークなのだろうか。
「あああの、そのっ!」
「駄目か?」
 逡巡するエルディラに懇願するように、ヴィークが問いを重ねた。
 婚礼の式ではきりりと引き締まっていた凜々しい面の眉尻が少し下がっている。
 それに、声に強さがない。エルディラを妻とすると高らかに宣言した際にはあったはずのものが。
(ど、どなたでしょうか、このお方は……?)
 しゅんとした顔でそんな事を言われては、エルディラも困惑するほかない。
 獅子と呼び声高い男がさながら可愛らしい子猫のようではないか。
 それに嫌なはずがないのだ。むしろ自分はそれを望んでいたくらいなのだから。
 けれど密書に書かれていた『内容』と、それを持ってきた者の説明で床入りは必要とされていないのだと思っていただけだ。
「俺は貴女が欲しい。だが、嫌なら……やめる」
 かなり渋々、かつ悲しげに言われて、エルディラはどうしたものかと内心ぐるぐる思考を巡らせていた。が、もうこうなっては頷くより無いと覚悟を決める。
 元よりこの関係は、申し出があったにしろ己が望んだものでもあるのだ。
 抱いてもらえるならば、むしろ本望。
 下手をすれば純潔の王妃で生を終えるか、もしくは離縁されて清いまま同じく生を終えるかと思っていたのだから。
 実を言えばエルディラは――獅子王ヴィークに、夫となった彼に、これまでずっと恋をしていたのだから。
 けれどそれを口にすることは死んでもありえない。
(勘違いしては、駄目。これは私が願うようなものではないのだから)
 だからエルディラは令嬢としての顔を取り繕う事で本心を隠した。
 これはきっと彼の気まぐれ、もしくは飾りの妻に対するお情けなのだと愚かにも希望を抱きそうになる己に言い聞かせる。
 ヴィークは単に雄の本能として女の身体が欲しいだけで、もしくは自分を気の毒に思っているだけで、エルディラの心までを求めてくれているわけではないのだと、強く刻み込むように胸に唱える。
 そうして彼女はふるふると首を横に振った。
「いいえ……嫌では、ありません。……貴方の、お望みのままに」
 さながら忠実な従者のごとく、エルディラは愛しい男に身をゆだねた。

 吐息が絡まる距離まで、ヴィークの端正な顔が下りてくる。
 互いの顔が近付いて唇が重なる瞬間、エルディラは内心の歓喜を悟られないよう、そっと瞼を閉じた。
 ちゅ、と互いの肌が触れる音がする。覚えのある感触だった。
「っん……」
「エルディラ……」
 唇を離したヴィークが彼女の名を呼んだ。
 その声に甘さが含まれている気がして、エルディラは僅かに身を震わせる。
 嬉しい嬉しいと泣き出しそうな思いを封じ込め、瞳を開けてふんわりと微笑んだ。彼女の腕は既に解放されていて、敷布をきゅっと握り締めている。
 ヴィークの背に回してしまいそうなのを堪えるためだった。
「……はい、ヴィーク様」
「っ!」
 ヴィークの呼び声にエルディラが応えると、ぱっと大きく錆色の眼が見開いた。それから性急に二度目の口付けを落とされる。
「っぁ……」
 エルディラの唇の合わせ目に、ぬるりとした舌が触れた。
 合わせ目をちろちろとお願いされるように開けて欲しいと促されて、彼女は素直にヴィークの舌を口内に受け入れた。
「っん……ふ、……っ」
 まるで内側から全て貪られるように中を舐め取られる。逃げ腰になる舌を追われ執拗に絡め捕らわれながら、彼女はたどたどしくも必死に求めに応えた。
「っは、エル、ディラ……!」
「っ……ヴィーク様っ」
 口内から頭の芯が痺れるような酩酊した感覚を味わいながら、エルディラは名を呼んでくれる人に返事を返す。
 彼に名前を呼ばれるのは嬉しかった。
(……あの頃は、呼んでもらえなかったから)
「っあ……」
 肩に引っかけるようにして残っていた夜着をするりと取り払われる。
 エルディラの白い素肌がすべて晒され、彼女は生まれたままの姿になった。長い蜜色の金髪が、華奢な首筋にかかっている。外気に触れた肌がほんの少し、震えた。
「……怖いか?」
 小さく上げた声に気付いたヴィークが、心配げに彼女に尋ねる。
 それに、エルディラはふわりと笑みを浮かべてみせた。
(やっぱり、この方はどこまでも優しい……優しい、方だわ)
 閨では己の快感を得るためだけに相手を気遣わない男もいるのだという。
 けれどそんな素振りを一切見せないヴィークに、エルディラは心の底から嬉しさと、そして愛おしさを感じた。だからそれをそのまま、言葉に出してしまう。
「いいえ……大丈夫です。どうか、ヴィーク様の、お好きなように、してくださ――っ?」
 きっと無意識だったのだろう。
 まるで聖母のような微笑を浮かべた、まさに清らかな乙女にそんな事を言われて平常でいられる男が、ましてや彼女に熱い視線を注いでいる男が、澄ました顔でいられるわけがなかった。
「っ、貴女は……!!」
「……あぁっ……!」
 どこか焦ったような声が聞こえたと思ったら、あらわな胸をやわやわと揉まれ、もう片方の手で太腿……からその奥へと擦るように撫でられて、エルディラはたまらず吐息を零した。
 身の内から何か、熱いものが湧き上がってくる。
 それは火が灯る前の燻りのように、ちらちらと彼女の官能を照らした。
「ヴィーク、さま……ぁ、んっ……!」
 初めての行為への少しの恐怖と、未知なる官能へ感じる期待。その二つがエルディラの中でせめぎ合う。
 彼女は嬉しかった。
(互いの熱を知ることもなく、ただ存在するだけの、空気のように扱われると思っていたのに……)
 なのにヴィークはこうして、己の名を呼び熱い視線で身も心も射貫いてくる。
 もしかしたら、自分が思っていたよりも少しは心の伴う関係になれるかもしれない。
 たとえそこに、恋や愛などという言葉がなくとも。
(少しだけ……今、だけだから)
 それで十分だと思いながら、エルディラは敷布を掴むだけだった両手をそっとヴィークの頬に添えた。
 彼女の右手、ヴィークから言えば左側の頬には彼女が知っている大きな傷がある。これは武王として名高い男の、血と汗と、努力の証だ。
 その傷に直接触れないように、そっと周囲の肌を指先で辿りながら、エルディラはにっこりと微笑み、夫に告げた。
(一度だけで、いいから)
「抱いて、くださいませ」
 エルディラの心と声が重なる。
「っ……すまない、たとえ泣いてやめてくれと言われても、もう、聞いてやれない……!」
 すると、どこか苦し気な表情を浮かべたヴィークが、我慢できないとばかりに吐き出した。
 やめてなんて、そんなこと言うはずがない、というエルディラの本心からの言葉は三度目に落とされた深すぎる口付けによって掻き消された。
「んっ……は、ぁっ、あっ……!」
 先程のとは違う、荒々しく喰らい尽くされるような深い口付けを落とされる。
「ぁ……んっ……はぁ、あ、ぁ、ああっっ」
 そして唇から首筋、鎖骨、胸元へと、ヴィークの顔と舌が滑っていく。
 甘噛みするように柔肌に時折軽く歯を立てられれば、甲高い嬌声がエルディラの唇から零れた。
 彼女の腕が、無意識にヴィークの逞しい筋肉の載った肩に絡んでいる。
 武人特有の肉体の厚みや、細かに刻まれた傷痕の隆起が指先に触れた。
「エルディラ……っ、俺の、妻、だ……俺のっ……!」
「あっ、やぁ、ふ、ぅ、んんっ、ぁ、ぁ、あ、」
 そんなはずはないのに、まるで所有欲をあらわすように肌の隅々を掌や舌で愛撫され、エルディラは数え切れない喘ぎを上げた。
 身体がまるで熱の塊になったように熱かった。
 炉心で溶ける鋼がごとく、彼女の身体がどろどろに融かされていく。
 エルディラが吐息や喘ぎを零す度に真白い乳房が揺れた。その先端をヴィークが口に含んでぬるぬると舌で包み込む。
「やぁっ……だめぇ、それっ」
 ぢゅう、と強く吸い上げたかと思えば、かぷりと優しく歯を立てられる。散々舐めしゃぶられた頃にはもう、エルディラの視界は熱と快感で潤み溶け落ちていた。
「可愛い……エルディラ、可愛い……」
 ヴィークはずっと彼女の名を呼び続けている。
 まるで口にしなければ彼女が己の元から去ってしまうとでも言うように、ずっと何度も名を呼びながら、初々しい新妻に焦がれるような熱く滾った欲望を向けていた。
「あっ、ぁ……! あ、あっ!?」
 するり、太腿の奥に滑り込んだヴィークの手が、彼女の内腿を辿りすっかり濡れそぼった蜜口へと触れた。
 ちゅぷ、と喜ぶみたいに彼の指を迎え入れたそこを、ヴィークが嬉しそうに感嘆の溜め息を吐きながら愛撫する。
「あぁ……すごく、濡れているな」
 指先でぬるぬると擽られ、エルディラは溜まらず背中を弓なりに仰け反らせた。
「っ、く、ぁ、あぁ、ん、それ、駄目ぇ……!」
 ひくひく震える彼女の秘所の肉ひだを、ヴィークの指が割った。それからゆっくり、慎重に中へと指先を押し込んでくる。
 つぷり、つぷり、と第一関節を越えて入った辺りで、ヴィークは切羽詰まったような、切なげな顔でぐっと眉を顰めた。
「やはり、狭い、な……これでは……」
「は、え……?」
 どこか思い悩むような、躊躇う声が聞こえたのと同時に、ヴィークの手がそこからすっと離れた。驚いたエルディラだったが、次の瞬間の光景に、より驚愕して息を止める。
「え、あの、ヴィーク、さまっ……!?」
 気付けば、今まで胸元にあった筈のヴィークの顔が己の股の間にあった。
 え、もしかして。と思った時には、ぐっと両脚を割り開かれて、赤錆の頭が間に落ち、濡れそぼったそこにぬろり、と舌が這った。
「ひ、ぁ、あっ、あ、あ、あっ、ぁぁああ!?」
 ぐちゅぐちゅと音を立てて秘所を丸ごと舐られる。その強すぎる快楽に、エルディラの思考が明滅した。
 は、と無意識に口が開く。
 あまりの衝撃に、彼女は軽く達していた。エルディラの手の中で、掴んだ敷布がきしりと軋む。
 けれど更に胎の奥に、熱い熱源が凄まじい勢いで溜まっていくのを感じていた。
(嘘……そんな、そんなところを、舐めるなんて……!)
 武王と名高い人が、不浄の場所をまさか口で、唇で、舌で愛撫しているという事実に、エルディラの中で背徳的な官能が生まれる。
(は、恥ずかしいのにっ……このお方に、そんな事、させちゃいけないはずなのに……っ!)
 けれど彼女の正直な身体は、与えられる刺激を貪欲なまでに欲し、まるでヴィークの頭をそこに押しつけるように、逞しい肩に足を絡めていた。
「っ、気持ち良い……か?」
 はあ、と熱い吐息をそこに吐きかけて、ヴィークが陶然とした表情で問うた。
 エルディラの心が快楽で剥き出しになる。
「は、い……っ、気持ち、いい、です……っ」
「……嬉しい。エルディラ……もっと、乱れてくれ……俺に、もっと貴女のその淫らな姿を、見せて」
「っひ、あ、はぁっ、駄目っ、それ、や、おかしく、な……!」
 ぐちゃぐちゃ粘つく音を立てて舌で肉芽をいじられて、ばちばち火が瞼の裏で弾けるのに、さらにヴィークは先程したようにまた指先を彼女の蜜口にゆっくりと押し込んだ。
 ずぶぶ、と太い男の指がしとどに濡れたそこに埋まっていく。
 粘質な音に、エルディラの聴覚が犯されていった。
 堪らず手をヴィークの頭に伸ばそうとして、彼女は咄嗟にそれを引っ込めた。が次に内側に埋まっていた指が一本から二本に増えたことで、意識が再び明滅する。
 同時に膣内の浅い場所に感じる圧迫感も強くなっていった。
 その間ずっと、一番敏感な肉芽は厚い舌でぐぢゅぐぢゅと舐られていて。
 舌と指の両方でそこをぐずぐずに融かされて、エルディラはあられもない嬌声を数えきれぬほど上げ続けた。
 思考が霞み、熱に身体も心も支配される。
 ヴィークはずっと彼女の蜜に溢れたそこを味わい続けた。じっくりと、ねっとりと溶かし解すように。
 それは半刻だったのか。一刻、それとも、もっとだったのか。
 エルディラは快楽の涙で顔がぐしゃぐしゃに濡れるほど、長い時間蜜口をヴィークに愛でられ続けた。
「ぅ、ぁ……あぁ、ぁ……ぁ」
「エルディラ……」
 理性や恥じらいなど、とうの昔に消し飛んだ。
 彼女の口から零れているのはもう、言葉になっていない喘ぎだけ。
「は、はっ……はぁ、ぁぅ……あぁ、ぁぁ……」
 熱に浮かされたエルディラの視界はぼんやりしていて、弛緩した四肢は人形のように投げ出されている。
 最早、何度達したのかわからない彼女には、今やっと顔を彼女の蜜口から離したヴィークが、敷布で乱暴に自身の口元を拭い、じっと彼女を焦がれるような視線で見下ろしている事に気付かなかった。
 赤く、錆びた鋼の瞳に、飢えた獰猛な光が揺らめいている。
「すまない……よく解さなければ、俺のはきっと辛いだろうから……」
「っん、ぁ、ぁあ……あ、ぁ、あっ」
 申し訳なさげな声のあと、彼女の蜜口に熱く、硬いものが触れた。
 太さと長さのあるそれが蜜口に擦りつけられる。ぐちゅり、と淫靡な水音が鳴った。
「あ、あっ、ああっ」
 ヴィークは彼女の溢れた蜜を己の怒張に絡めるように数度擦り付けると、はぁ、と深い喜びを表すような吐息を零し、汗に濡れたエルディラの身体を抱き締めた。
「ん、う」
「……いれる、ぞ」
 快楽の涙を滲ませたエルディラの眦にヴィークが口付ける。
 次の瞬間、蜜口に当たっていた熱い昂ぶりが、エルディラの内側にぐ、と食い込んだ。
「ぇ、ぁ……ああっ!?」
「っく……」
 先端からゆっくりと、ヴィークの熱がエルディラに押し入っていく。
 その粘膜への刺激に、強烈な圧迫感に、エルディラはたまらず呼吸を止めた。逞しすぎる屹立を咥えた彼女の膣が、ぎちぎちと悲鳴を上げる。
(ぃ、痛、ぃ……で、も、すごく、熱くて……あぁ、なに……? 満た、され、る)
 身体を引き裂かれるような鋭い痛みと、同時に甘く痺れるような灼熱の熱さ。
 みっしりと身の内を埋め尽くしていく不思議な充足感に、エルディラは堪らず痛みとは違う甘い声を漏らした。
「はぁっ……ぁ……」
「っ、痛いか……? すまない、貴女には、辛いかも知れない……っは、息を、してくれ。ゆっくり。そう……大丈夫、ゆっくり、慣らしていこう。無理は、させたくない……」
 潤んだ視界の中で、エルディラには自分よりもヴィークの方が辛そうに見えた。彼女の視界に、耐えるような表情のヴィークが映っている。
 エルディラは気が付いていた。
 きっとヴィークは彼女の痛みを和らげるために長い間口で奉仕してくれたのだろうと。
 けれど、ただ一時の情欲のためでも、ここまで相手に尽くすものなのだろうか、という期待めいた疑問がわく。
 きっと優しいからだ。他人の身体を労る優しい彼だからこそ、エルディラにもここまで優しく接してくれるのだろう。
「エルディラ、エルディラ、俺の妻……受け入れてくれて、ありがとう……」
 ぎゅう、と彼女の身体を強く抱き締めたヴィークが、彼女の耳元で囁く。
 それもこちらの台詞なのに、という言葉を紡げないまま、エルディラはそっと呼吸をヴィークのそれと合わせた。
「ヴィーク……さま、っ、だい、じょうぶ、です……っ、うごい、て……?」
 エルディラは輿入れ前に閨での知識を一通り学んでいた。
 たとえ必要がなくとも年齢的に勝手に耳に入る話もあったし、この婚姻が決まったときに故国の大臣から学ぶよう言いつかったからだ。
 だから知っていた。屹立を入れたまま動かないヴィークは、このままではきっと辛いだろうと。
 それにエルディラは彼にちゃんと気持ちよくなって欲しかった。
 だから自分が欲しいとねだるように、エルディラは痛みを我慢しながら自ら腰をくねらせヴィークの昂ぶりを刺激し続きを促した。すると、ヴィークの眉根が困ったようにぎゅっと寄る。
「っ、える、でぃら……っ、駄目だ、そんな事をされたらっ……止まれなく、なる。貴女を、壊してしまう……!」
 制止の言葉を述べながら、本能なのかヴィークの腰はゆるゆると、己を馴染ませるように動いていた。は、く、と激しい呼吸の合間に切なげな吐息が零れている。
 言葉とは違い、本当は自分を欲してくれているのだと感じられて、エルディラの心に喜びがわいた。
「かまい、ません……どうか、貴方の好きなよう、に……して、くださっ……ぁあっ!?」
 どこか痛みを堪えるように言うヴィークに、エルディラは赤く染まった頬と、潤んだ瞳を向けたまま微笑んで告げた。瞬間、短く息を吐いた音がして、ぐっと奥まで昂ぶりを押しつけられる。
「っく……!」
「ああっ、あ、あぁ!」
「すま、ない……っもう、耐えられ、」
「あっ、んっ、だい、じょ……っ」
「ッ、エルディラ、エルディラ、エルディラッ……!!」
「ああぁっ!?」
 ぐち、ぐち、と内壁を擦り上げるような動きが、次第にがつがつと激しいものに変わっていく。
 痛みはほとんどなくなっていた。挿れる前に散々融かされたからだろう。
 それにヴィークはエルディラの中を穿ちながらも、なお彼女の乳房を指先で愛撫し、時には肉芽に触れて刺激を与えていた。
 エルディラは激しく息を乱し、悶えながらヴィークを全身で受け入れていた。
「ん……は、あっ、あっ、あ、あ!」
「っ辛く、ないっ、か?」
「ぁ、っ、は、い……もっと、して、くださ……っ!」
「っ、貴女は……っ……!」
 何度も何度もエルディラを穿ちながら、ヴィークが彼女の顔に、肌に数え切れないほどの口付けを落としていく。
 額に、瞼に、頬に、唇に、首、鎖骨、胸元にと。
 ちゅ、ちゅ、と繰り返される口付けの音が、まるで激しい雨のようだと、エルディラは甘く蕩けきった思考で思う。
「あ、ぁ、ンッ、あぅ、も、う」
 大きな、大きな抗いがたい波がエルディラを押し上げていた。
 ばちん、と弾ける音が鳴るほど腰を打ち付けられて、エルディラの金髪がばさりと大きく揺れる。 
 同じリズムで彼女の乳房も身体も激しく揺れていて、それすら甘い官能となり、どんどん高みへと登りつめていく。
「エルディラ、っ、はぁ……、一緒、に」
「ヴィーク、っさ、ま」
 舌足らずな吐息混じりの声が、ヴィークの唇と重なる。
 二人は深く口付け合って、上も下も混じり合ったまま、その時を迎えた。
「あ――ああぁっ!!」
「っく!」
 ぎしり、と大きく寝台が鳴る。エルディラの身体はきつく、離したくないとでもいうようにヴィークを締め付けていた。
 そして彼女の身体に回ったヴィークの腕も、同じように細い身を強く抱き締めている。
 がくがくと、エルディラの身体が震えていた。
「っ……!」
 彼女の思考が絶頂で白く染まった瞬間、痙攣する蜜口からヴィークの昂ぶりが引き抜かれ、白い胎の上に熱い迸りがどくりと放たれた。
 はっ、はっ、と荒い呼吸を繰り返すヴィークが力の抜けたエルディラを見下ろしている。
 彼の薄い唇が嬉しそうに微笑んでいるように思えるのは、気のせいだろうか。
「エルディラ……」
 達した余韻の残るぼやけた瞳では、彼の微笑みの意味が読み取れない。
 ただひとつ、わかったことがあった。
(ああ――やっぱり。なかには、注いでいただけないのだわ……)
 どこか冷静な彼女の頭が、そんな呟きを零す。
 その意味をエルディラは強く理解していた。
 己に求められているのはあくまでも『飾りの妻』という肩書きであるのだと。
 子すら、求められていない。
 閨の中では心になくとも相手に甘い言葉を告げ、微笑みを見せる人もいるのだと聞いたことがある。
 だからヴィークの先程までの台詞も、何度も名を呼んでくれたのも、今も、きっとそうなのだろうと思いながら、エルディラはそれでも恋しい人が微笑んでくれるのが嬉しくて、そっと小さく笑み返した。
 ヴィークの錆色の瞳が見開いて、喜ぶように細まる。
(ああ……たとえ今だけでも。本当に想い合う夫婦のようにいられたら)
 それだけで十分だと思いながら、けれどこの思慕は胸に秘め続けると固く誓いながら……エルディラは遠のく意識をそっと手放した。

(――つづきは本編で!)

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