乙女は天使に奏でられる~響き合う蜜愛のリズム~

乙女は天使に奏でられる~響き合う蜜愛のリズム~

「感じて……俺の音を、俺のリズムを――」

あらすじ

「感じて……俺の音を、俺のリズムを――」

ピアノ教師の琴音は天使のように美しいギタリスト伶輝に突然声をかけられ、バンドに入ることに!?二人の奏でるリズムが重なった時、琴音は未知の快感に震える。まるで、彼と一つになったみたい――。奇跡のような演奏に酔いしれて、琴音は伶輝に求められるまま体を繋げてしまうが……?甘美な艶声が耳を蕩かし、巧みな指先が楽器を爪弾くように、乙女の無垢な体を奏でていく――

作品情報

作:フォクシーズ武将
絵:フォクシーズ大使

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本文お試し読み

 防音設備の音楽スタジオに、電子的な不協和音が響く。
 バンドセットの設えられたスタジオの片隅。琴音は白い裸身を晒し、キーボードに手をついて必死に体を支えていた。
「や……、ぁ……っ」
 脚は戦慄き、今にも崩れ落ちてしまいそうだ。背後から体内を探る指先が肉襞を愛撫する度、全身が溶けてしまいそうな快感が走る。
「可愛いよ、先生」
 天使のような美貌の青年は、うっとりと優しい微笑を浮かべる。背後から首筋に口づけされると、彼の陽光を集めたような黄金の髪が頬をくすぐり、えもいわれぬ甘い香りが漂った。
 繊細な指先がゆっくりと彼女の中に円を描くと、琴音は彼の思うまま奏でられる楽器のように嬌声を上げてしまう。熱に腫れ上がった媚肉は、彼の指の感触をつぶさに伝えてきた。鋼の弦に触れ続けてきたギタリストの指先は硬い。それは知っていたはずだが、自分の最も敏感な場所でその感触を味わっていると思うと、身が熱く火照っていくのを止められない。
「ひ、あ……っ、もう、やめて……」
「いいよ、いっぱい気持ちよくなって」
 充血した中の一点を執拗に抉られ、甘い疼きが走って体が震えた。力が抜けた拍子に、ガクリと肘をついてしまう。
「っ、あ――」
 剥き出しの胸が鍵盤に押し付けられ、再び無機質なピアノの音が響く。その音の振動さえ、体を愛撫するようだ。
「ふふっ、えっちだね――先生はその可愛い胸でもピアノが弾けるの?」
「そ、んな……っ」
 意地悪な言葉に、意識しないままに内側をきゅうっと締め付けてしまう。逃れようと体勢を変えると、また胸が鍵盤を押し下げてポロン、とキーボードが空虚なメロディを奏でる。
「ん……ぁっ……」
 胸の先端が冷たい鍵盤に挟まれ、ちりりと甘い電撃が走った。その微細な快感すら下腹の熱をいっそう燃えたぎらせ、琴音は自覚もなしに鍵盤に胸を摺りよせてしまう。
(止まらない……私、こんないやらしいこと――)
 練習に来たはずのスタジオの中で、神聖な楽器を情欲でけがしている。まだ出会って数日の男性に触れられて、場所もはばからず快楽に溺れている。
(どうして、拒めないの――)
 恥じらいに苛まれながら、生まれて初めての快楽に狂おしくさらわれていく。まだ男性を知らない体の奥が切なく疼き、そこに届く彼の熱を欲しがっていた。心を焼き尽くすような見知らぬ情欲に、恐怖を覚える。
 ほんの少し前まで、こんなことになるとは想像もしていなかった。
 彼との出会いが、琴音の人生をすっかり変えてしまうまで――

◆第一楽章 扉の向こうの天使

 春が、穏やかな街に馨っていた。
 桜の枝を揺らした風が陽だまりの中を舞って、自転車で走る一人の品のいい女性の髪を翻らせる。籠に入れられた鞄からは、数冊の本が覗いていた。
 郊外の小さな駅の、人々が行き交う駅前のロータリーの角に、小さな音楽スタジオが佇んでいる。
 彼女は駐輪場に自転車を停めると、忙しなく分厚い鞄を抱えてスタジオに駆け込んでいく。
「こんにちは、予約した細川です」
 カウンターに座っていたアルバイトの青年が、慣れた様子で鍵を差し出す。
「グランドピアノ指定のお客様ですね。九番スタジオです」
 会釈しながら鍵を受け取ると、彼女は軽やかに階段を上って九番スタジオに向かった。
 防音の重い扉を開けると、目に飛び込んできた艶やかなグランドピアノの姿に、彼女は安堵の吐息を漏らす。
(よかった、ピアノの部屋が空いてて)
 重い扉のレバーを押し下げてガチャリとロックすると、彼女は鞄を降ろす。中から数冊の楽譜本と、ファイリングされた数枚の手描きの譜面を取り出した。
 細川琴音――二十四歳。
 少し癖のある柔らかな黒髪をハーフアップにし、服は白いシフォンブラウスに紺色のボックススカート。化粧は薄く、柔らかに描かれた眉のせいで年よりも幼げな顔立ちに見える。清楚で可憐なその姿は、風雅なグランドピアノによく映えていた。彼女がピアノ教室の講師だと知っても、誰もが納得する風貌だ。
 しかし今、彼女はそんな印象が吹き飛んでしまうほど焦っていた。蓋の閉じられたグランドピアノの上に楽譜本と譜面を広げると、眉を寄せてキッと時計を睨む。
「九十分で、三曲……」
 琴音は駅ビル内のカルチャースクールでピアノを教えている。
 明日、指導を受けに来る三人の生徒のために、課題曲の譜面を作らなくてはならないのだ。小学二年生の女の子が一人、小学四年生の男の子が一人、中学一年生の女の子が一人。用意した曲を、それぞれのレベルに合わせて琴音がアレンジする。それを綺麗な譜面に書き起こして、それぞれに渡す。それが彼らの教材となるのだ。
 当然、出版されている子供向けの楽譜もある。しかし、琴音は生徒たちに、本当にそれぞれの好きな曲を弾かせてあげたかった。習い事として仕方なく通うのではなく、ピアノを通して音楽の喜びを知ってほしい。彼女なりの、仕事への情熱だった。
 琴音は手書き譜を譜面台に立て、椅子を引く。背筋を伸ばして浅く腰を下ろすと、慣れた様子で椅子の高さを調節した。真剣な表情ですっと息を吸うと、繊細な指先を鍵盤に落とす。
 澄み切った音が空気を震わせ、無機質なスタジオの色彩を変えていく。
 鍵盤の上で琴音の指は踊り、メロディーは命を得たように生き生きとリズムを刻んだ。
 四年生の男の子への課題曲は、放送されているアニメの主題歌だ。
(うん……わりとかっこよくできたかも)
 弾くのは簡単に、だがリズムに乗って躍動感のある印象にアレンジした。
 琴音は軽やかに指を跳ね上げ、一曲目の演奏を終えた。再び譜面を手に取ると、満足げな微笑を浮かべる。
(これなら孝也くん、練習してくれるかな)
 琴音の脳裏には、教室に通うのが嫌だと床に転がって泣き喚いていた、飽き症の少年の顔が浮かんでいた。
 同様に次の曲も、琴音は曲に生徒の好みとレベルに合わせたアレンジを施していく。弾きながら、下書きの譜面に何カ所かの変更点を走り書きした。
 彼女が一人暮らしをしているマンションには、電子ピアノしかない。下書きの際にはそれを使っているが、やはりグランドピアノで弾くと音の雰囲気が変わってくる。
 生徒たちは発表会でグランドピアノを弾くので、どうせならその音に相応しいアレンジにしてあげたかった。今日はその確認のために、スタジオを借りたのだ。
 二曲目も、概ね琴音の思い描いた雰囲気に仕上げることができた。弾き終えると、琴音は満足げにとんとんと譜面を揃えていく。
(よし、あとは結愛ちゃんの分――)
 最後の一曲に取り掛かろうとしている時だった。

――ズズン……!

(え……?)
 スタジオ内に、重低音が響いた。
 防音の壁の向こうにもかかわらず、隣の部屋の音が聞こえてきたようだ。
 ずんずんと体内に深く響き渡るようなベースの重低音、カシャカシャと聞こえるのは、ドラムの音だろうか。かなりテンポの速い、華やかな曲の輪郭が聴き取れる。
(わ……ロックバンドかな)
 それなりに新しいスタジオではあったが、設備が安価なためこの程度の音漏れはよくあることだった。
(気にはなるけど……もうあと一曲だし、いいか)
 琴音は惑わされないよう集中しつつ、最後の一曲の編曲を続けた。

(……こんなところ、かな)
 三曲をまとめ終え、一息つく。ふと気がつくと、スタジオ内に元の静寂が戻っていることに気付いた。隣の部屋からの音は止んでいるようだ。
(あれ……?)
 恐らく、隣のバンドは休憩中か打ち合わせ中なのだろうと推察する。
 琴音は一仕事を終えた安堵に、大きく伸びをした。生徒たちの楽譜をファイリングし、鞄にしまう。予定より円滑に、すべての編曲を終えることができた。
 立ち上がろうとして、ちらりと時計を見る。
(あ……まだ時間ある)
 琴音が取った90分のレンタル枠には、まだ15分ほど余裕があった。
 思い直して、もう一度ピアノの前に戻る。深呼吸すると、浮き立った様子で鍵盤に手を添えた。先ほどまでの真剣さとは違う、はつらつとした輝きがその表情に宿っていた。
 琴音の指先が、愛おしむように鍵盤を滑り、優しい音色を奏で始める。流れ出すように軽やかに、歌うように情熱的に。琴音が思うままに弾いたのは、ショパンのノクターン第20番だった。
(気持ちいい――久しぶりに思いっきり、ピアノが弾ける)
 自宅では電子ピアノから出力し、ヘッドホンで聴きながら演奏するしかない。生のグランドピアノとは、音の感触がまるで違っていた。防音のスタジオには反響はほとんどないが、それでも空気を震わせて伝わってくる音こそがピアノの本当の音だ。
 ピアノ教室では生徒たちに向き合うのに必死で、見本のためのピアノではとても楽しんで弾く余裕などない。贅沢はできないから、こうしてスタジオを借りた時のほんの余ったひとときでしか、琴音は思うままにピアノを弾くことができないのだ。
 伸び伸びとおおらかに、優雅に恍惚とショパンのメロディーを綴っていく。音楽に耽溺する、琴音にとって愛しいひとときだった。
 暗譜した終局に至ると、琴音は潔く指を跳ねあげ、決然と曲を締めくくった。
 白い頬が紅潮し、鼓動が高鳴っていた。久々の演奏への没入だった。
 目を閉じ、深く息をする。
 音楽こそが、自分を解放し、喜びへ導いてくれるものだという実感を噛み締める。

――自由に、弾けるようになりたいな……

 音楽を愛していても、それを生業にできる人は少ない。自分はピアノに関わる仕事についているだけ幸せだが、やはり自由な演奏からは遠ざかってしまっている。趣味でもいいから、もっと演奏する時間を作りたかった。
(あ……時間だ)
 時計を見ると、気づけば終了の五分前だ。琴音はピアノの蓋を閉じ、椅子を引くと、急いで荷物を纏めた。
 重い扉を開け、駆け出すように部屋を出た時――
「――あっ」
「――ごめん!」
 部屋を出たところで、同じく勢いよく通りがかった人とぶつかってしまう。
 一瞬の、自分より体温の高い肌の感触。
 そしてふわりと、どこか艶やかな香水が香った。
 抱き止められるような姿勢になってしまった相手から、琴音は慌てて身を離す。
「っ、ごめんなさい……!」
 見ると、隣のスタジオのドアが開いていた。その人は、そこから出てきたようだ。
「――あのさ、君、いまショパン弾いてたよね!」
 不意の言葉に、琴音は驚いて顔を上げ――ぶつかってしまったその人の顔を初めて目にする。
 思わず言葉を失うほどの、美しい青年だった。
 色素の薄い肌と明るく染めた髪のせいで、外国人のようにも見える。凛と通った鼻梁に上品な唇。くっきりした二重まぶたの下に、繊細な長いまつげが揺れている。不思議な光が揺れているようにも見える藍色の瞳は、無邪気な微笑を湛えて見下ろしていた。

――天使みたいな人……

(――続きは本編で!)

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